教育サポート書籍
横浜国立大学教育人間科学部附属横浜中学校 編
定価(本体1,900円+税) B5判・112ページ
ISBN978-4-385-36403-2 2009年3月10日発行
『習得・活用・探究の授業をつくる』の続編。全9教科および道徳・総合的な学習の時間・特別な活動における 「言語活動の充実」について教育現場の視点から解説。年間指導計画と学習指導案を収録したCD-ROM付き。
執筆者
横浜国立大学教育人間科学部附属横浜中学校
髙木展郎 (校長)
米澤利明 (副校長)
田中保樹 (主幹教諭,理科)
髙橋 励 (国語)
松田哲治 (国語)
松田裕行 (国語)
前田総一郎 (社会)
三藤あさみ (社会)
大谷 一 (数学)
杉山 宙 (数学)
井上祐介 (理科)
西野厚志 (理科)
岩屋禎枝 (音楽)
古内 久 (美術)
末岡洋一 (保健体育)
山本優子 (保健体育)
小倉 修 (技術・家庭)
葛川幸恵 (技術・家庭)
須賀川京子 (英語)
松田幸裕 (英語)
平沼裕子 (養護教諭)
はじめに
I 理論編
各教科等における言語活動の充実 ─カリキュラム・マネジメントに位置付けたリテラシーの育成─
①今日求められる学力
②「習得・活用・探究」という学習活動と各教科等における言語活動
③国語力と各教科等における言語活動の充実
④リテラシーの育成
⑤各教科等における言語活動の具体
「言語活動の充実」を基に学校のグランドデザインを構築する
①「言語活動の充実」を基に学校のグランドデザインを考える
②目指す生徒像を明らかにする
③「言語活動の充実」を研究の重点とした各教科,道徳,総合的な学習の時間,特別活動等でのネットワ ーク化の推進
④ 中高一貫教育に向けて「言語活動の充実」を中心としたカリキュラム開発の推進
プロセス重視の学習指導案
①プロセス重視の学習指導案についての考え方
本校の取組
①言語活動の充実が目指すもの
②言語活動の充実とPISA型「読解力」「習得・活用・探究」
③PISA型「読解力」「習得・活用・探究」をキーワードとしたこれまでの取組
④言語活動の例
⑤言語活動の充実は各教科等の目標を達成させる手立て
⑥各教科等における言語活動の充実
II 実践編
国語科
学習事例 説明 漢字の字形について考える
発表 朗読の工夫を通して詩を解釈する
討論(交流) エッセイを書こう
発表 古典に親しむ
説明 発表 情報の送り手の意図を読む ~新聞広告・折込チラシdeスピーチ~
説明 「面接」でよりよく自分をアピールしよう
社会科
学習事例 討論 地理的分野「世界と比べてみた日本」
発表 歴史的分野におけるレポートの自己評価
説明 「現代の民主政治とこれからの社会」
数学科
学習事例 説明 17段目の奇跡
発表 一次関数課題「すれ違いの回数を調べよう」
発表 二次方程式の問題作りとその解き合い
理科
学習事例 討論 「天気とその変化」における言語活動の充実 ─パフォーマンス課題を取り入れた取組─
説明 化学電池の原理を考える
音楽科
学習事例 発表 表現を求めて
説明 日本の舞台芸術
美術科
学習事例 論述 水墨画を描く
保健体育科
学習事例 要約 説明 サッカー
説明 陸上競技
技術・家庭科(技術分野)
学習事例 説明 情報モラル
討論 機能を踏まえた製作図をかく
技術・家庭科(家庭分野)
学習事例 発表 家族の中のよりよいコミュニケーションの仕方を工夫しよう!
記録 日本手ぬぐいから知る和装 ~農家の人に日本手ぬぐいのかぶり物を作ってプレゼントしよう~
英語科
学習事例 発表 不定詞の名詞的用法
発表 日本文化について語ろう~Skit製作~
説明 Universal Designについて考える
道徳
学習事例 討論 差別や偏見のない社会の実現「ちがいのちがい」
発表 礼儀の意識,家族の一員として考える「高齢者について考える」
記録・討論 理想の実現「天職って,なんだろう」
総合的な学習の時間
学習事例 説明 新聞から始めよう(TOFY 国語 Ⅰ期)
説明 環境を考えよう(TOFY 社会 Ⅰ期)
発表 コンピュータで数学しよう(TOFY 数学 Ⅰ期)
発表 乗り物を科学する(TOFY 理科 Ⅰ期)
発表 平和について作曲しよう(TOFY 音楽 Ⅰ期)
発表 環境を考える(TOFY 美術 Ⅰ期)
説明 からだと???(TOFY 保健体育 Ⅰ期)
説明 製品の機能と構造を明らかにする(TOFY 技術 Ⅰ期)
説明 野菜嫌いの子どもが野菜好きになる料理を考える(TOFY 家庭 Ⅰ期)
発表 Japan in English ~英語で日本を~(TOFY 英語 Ⅰ期)
特別活動
学習事例 討論(振り返り,まとめ) 発表 (生徒会活動)生徒会集会で「自覚」を育てる
討論(振り返り) (学校行事) 文化祭を振り返って
おわりに
執筆者一覧
各教科の学習指導案と年間指導計画(PDF),及び,学習指導案のフォーマット(Word・一太郎)を,本書付属のCD-ROMに収録しています。
学校教育法が改正され,学習指導要領の改訂が図られました。この流れの中で,学力の重要な要素として,以下の3つが示されています。
① 基礎的・基本的な知識・技能の習得,
② 知識・技能を活用して課題を解決するために必要な思考力・判断力・表現力等,
③ 学習意欲,
(中央教育審議会(答申)平成20年1月17日 p.21)
上記に示された学力は,これまでに学力とされてきた知識を習得するのみの学力観からの転換です。それは,OECDのいうところの「知識基盤社会」が求める学力でもあります。特に,先進諸国では,これからの時代に必要な学力としてクリエーティブな学力が求められています。
このクリエーティブな学力とは,知識を暗記してペーパーテストにいかに速く正確に再生することができる,という学力ではなく,文部科学省が中央教育審議会(答申)で示した「生きる力」で示した学力観に通じます。
学力は,不変なものではなく,時代によってその内容は変わっていかなくてはなりません。これまで必要な学力であっても,未来が求める学力,未来に必要な学力でなくては,これからの時代が求める学力,これからの時代に生きる学力とはいえないでしょう。
教育は,基本的には文化の継承と伝承の中に存在します。しかし,教育を受ける子どもたちは,未来に生きていくのです。
学校教育においても,これまでの文化の継承と伝承を行いつつ,これからの時代に生きて働く学力を,未来に生きる児童生徒に育成していかなくては,学校の役割を果たしたとはいえません。
今回の学習指導要領の改訂では,それに先だって中央教育審議会の答申(平成20年1月)が出されました。そこには,「今回の改訂で充実すべき重要事項」として,以下の6つの事項が提示されています。
第一は,各教科等における言語活動の充実である。
第二は,科学技術の土台である理数教育の充実である。
第三は,伝統や文化に関する教育の充実である。
第四は,道徳教育の充実である。
第五は,体験活動の充実である。
第六は,小学校段階における外国語活動についてである。
上記には,第一として,「各教科等における言語活動の充実」があげられています。この各教科等における言語活動の充実は,国語科だけではなく,学校教育の全ての教科・領域において言語活動を充実することを求めています。
このことは,言語活動によって思考力・判断力・表現力の育成を図ろうとすることを意味します。そこには,PISA型「読解力」の「受信→思考→発信」という学習プロセスが存在します。このことは,これまでの受容を中心とした学力観からの転換でもあります。
PISAが求める学力は,生涯にわたる学力としてのキーコンピテンシーが最上位の学力としてあり,それを育成するための学校教育の中で「考える」ことを基軸としたリテラシー,さらに,リテラシーの基盤となるスキルがあります。スキルを行い,リテラシーを育成し,それらを通して生涯にわたる学力としてのキーコンピテンシーを育成していく構造に,PISAの学力はなっています。
これからの時代に先進国が求める学力,また,日本の学校教育で育成すべき,これからの時代が求める重要な学力が,リテラシーです。これまでの日本の学校教育においては「読・書・算」が,基礎・基本とされてきました。しかし,この「読・書・算」は,スキル的な内容が多く含まれておりスキルのみの学力では,「考える」という学力の育成を行うことはできません。これからの時代に求められる学力は,リテラシーという「考える」ことを基軸とした学力の育成が重要課題となっています。
このリテラシーの内容には,記録,要約,説明,論述,討論,発表という学習活動が重要となります。リテラシーそのものは,「考える」ことですが,考えたことをいかに表現するか,ということが能力として問われます。実際に考えたことを表現しなければ,考えたことの内容を他者に伝えることはできません。このことは,PISA型「読解力」で求めている学力でもあります。
本校の平成20年度の研究は「各教科等における言語活動の充実 ―カリキュラム・マネジメントに位置付けたリテラシーの育成―」です。
上記のリテラシーの育成を図るために,各教科においては「考えたこと」の表現として言語活動をいかに充実させるか,を課題として研究を深めて参りました。また,リテラシーを教育課程(カリキュラム)にいかに位置付けることができるか,を図って参りました。
カリキュラム・マネジメントを位置付けたリテラシーの育成は,平成21年度より年度経過で実現を図っていく神奈川県立光陵高等学校との間の連携型中高一貫教育に向けてのカリキュラム開発でもあります。
連携型中高一貫教育にリテラシーを位置付け,その実現を図ることによって,中高連携の教育内容のよりよい実現を目指しております。このことは,教育内容から中高一貫教育のあるべき姿の追究でもあります。
平成21年1月8日
横浜国立大学教育人間科学部
附属横浜中学校長 髙木 展郎
本校の研究は,平成17年度から「PISA調査における『読解力』を核としたカリキュラムマネジメント」,「学習プロセス重視の指導案づくり」そして,「習得・活用・探究の授業をつくる」と進めてまいりましたが,一貫して学習を受容のみで終わらせることなく,「受信する→考える→発信する」という一連のプロセスを大切にし,考えたことを的確に表現するための授業研究を行ってきました。「言語活動の充実」は,これまでの研究で進めてきたPISA型「読解力」の育成や「習得・活用・探究」の学習活動を各教科の授業において具現化することを目指したものです。
「中学校学習指導要領」(平成20年3月)では,知識・技能の習得とともに,それらを活用して思考力・表現力・判断力の育成を図ることや,自ら学び自ら考えることも学力として育成していくことが示されています。このことは,本校の研究のねらいと一致しています。これからの社会で必要な能力が,教えられた知識や技能をただ繰り返すことを越えたまさに「生きる力」であり,OECDが知識基盤社会に必要な能力として定義した国際標準の学力としての「キーコンピテンシー」であるといえるでしょう。
さて,現在,本校は,「各教科等における言語活動の充実」の研究と並行して,これまで進めてきた研究を生かし,神奈川県教育委員会と連携して,これからの社会をよりよく生きるための幅広い能力(「リテラシー」)の育成を重視した教育展開を進めるための「かながわの中等教育の先導的モデル」づくりを推進しています。
そのコンセプトは,生徒一人一人の個性を生かし,特性を伸ばす「人間科学」を基盤とした教育を展開することを基本としています。具体的には,(1)中学校及び高等学校がそれぞれ6年間を見通した視点を持ち,かながわの中等教育の先導的モデルづくりのための実践研究を行うこと(2)「リテラシー」の育成にあたって,「熟考する力」を基盤として,「学び続ける力」,「感じ取る力」及び「行動する力」を育み,それらを総合して,「問題解決力」を身に付けることができるよう,体系的な展開を進めることです。今後,各教科の言語活動を充実させた中高一貫カリキュラムの開発に向け,研究を進めていきます。
これまで,本校の教員は,課題一つ一つについて問題点を明確にし,着実に実践を積み重ねるながら研究を進めてきました。今後も,教育改善の指針を発信する最新の研究校として,附属学校の役割や意義を自覚し,一層研究に励んでいきたいと考えています。ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。
今回も本書を刊行するにあたり,三省堂の方々に大変お世話になりました。厚くお礼を申し上げます。
横浜国立大学教育人間科学部
附属横浜中学校副校長 米澤 利明
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