教育サポート書籍
横浜国立大学教育人間科学部附属横浜小学校 編
B5判 168ページ 定価(本体価格1,900円+税)
ISBN: 978-4-385-36347-9 2008年2月1日発行
新しい学習指導要領の下では、言語能力の育成は、国語科だけでなく全教科の課題となることは明らかである。本書は、「読解力」育成を目指した小学校全教科の実践から、くわしい解説と指導案を提案する。
[特別寄稿]
文部科学省初等中等教育局 田中孝一 主任視学官
横浜国立大学教育人間科学部附属横浜小学校
森本信也 (校長)
鎌田健二郎 (副校長)
高橋明久 (研究主任・総合)
井手次郎 (国語)
茅野政徳 (国語)
山本 純 (国語)
大滝文平 (社会)
由井薗健 (社会)
森 勇介 (算数)
村山梨絵 (算数)
石川秀子 (算数)
長沼武志 (理科)
宮本照久 (理科)
石井芳宏 (生活)
冨山浩子 (生活)
武富美由紀 (音楽)
今野聖子 (音楽)
今村行道 (音楽)
石賀直之 (図画工作)
坂部鉄也 (体育)
西田 寛 (体育)
益子照正 (体育)
種村由紀 (家庭)
鈴木亘世 (家庭)
白井 亮 (総合)
伊藤裕子 (健康)
林 絵理 (健康)
牧野賢治 (コラム)
はじめに
Ⅰ 理論編
教育課程改善とPISA型「読解力」
① はじめに-教育3法の改正
② 学校教育法第30条第2項の意味
③ PISA調査及びReading Literacyの意義
④ 教育課程改善とPISA型「読解力」
⑤ 小学校におけるPISA型「読解力」育成の要点
⑥ おわりに
これからの小学校教育とPISA型学習の必要性
① 子どもが生きるこれからの社会とリテラシーの形成
② 附属横浜小学校が子どもに形成を目指す三つの力とリテラシーの関係
③ キー・コンピテンシーの形成
小学校で「読解力」を育成していくために
① 「読解力」とは?
② 全教科で「読解力」を育成していくためには?
③ 具体的な「読解力」育成の7つのねらい
「読解力」育成の指導のねらいとその具体例(1年)
「読解力」育成の指導のねらいとその具体例(2年)
「読解力」育成の指導のねらいとその具体例(3年)
「読解力」育成の指導のねらいとその具体例(4年)
「読解力」育成の指導のねらいとその具体例(5年)
「読解力」育成の指導のねらいとその具体例(6年)
「読解力」の指導案について
① 小学校における「読解力」の指導案の考え方
② 指導案の書き方
Ⅱ 実践編
国語科
指導案(低=1・2年)
指導案(中=4年)
指導案(高=5・6年)
社会科
指導案(中=3年)
指導案(高=5年)
算数科
指導案(低=2年)
指導案(中=3年)
指導案(高=5年)
理科
指導案(中=4年)
指導案(高=6年)
生活科
指導案(1年)
指導案(2年)
音楽科
指導案(低=1年)
指導案(中=3年)
指導案(高=5年)
図画工作科
指導案(低=1年)
指導案(中=4年)
指導案(高=6年)
体育科
指導案(低=1年)
指導案(中=4年)
指導案(高=6年)
家庭科
指導案(5年)
指導案(6年)
総合的な学習の時間
指導案(中=4年)
指導案(高=6年)
コラム 食育と読解力
健康教育と読解力
健康教育
指導案(食育=4年)
指導案(保健=4年)
コラム 子どもの目線に立って
あとがき
執筆者一覧
人の意見に左右されることなく、自分の考えに従って行動できる子ども、どこの学校でも見受けられる教育目標です。しかしながら、こうした教育を実現するための基盤が日本では揺らぎ始めているような気がします。というのも、PISA調査における記述式問題で、白紙解答の割合が諸外国に比べて日本は高い、という結果が現れているからです。文章を書くということは、自分の既有の経験、知識を総合して、自分なりの論理を組み立てることです。簡単に言えば、自分の考えをまとめ、表現する力が日本の子どもから剥落し始めてきたのでしょうか。また、その意欲も薄れてきてしまったのでしょうか。PISA調査は15歳の高校生1年生を対象としています。小・中学校での教育の集大成の現れといってもおかしくありません。小学校では、文字をとおして読んだり、表現する基礎を学習します。それが、子どもにおいてうまく機能していないのでしょうか。小学校では、伝統的に子どもの創意に基づく学習を大切にしてきました。子どもの思いや願いをどの教科でも大切にしながら、学習活動が展開されてきました。PISA調査から提起された課題について、現在の日本の小学校教育は、きちんとした解答を提起しえていないのでしょうか。
ところで、こうした課題に対して中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会(第4期第15回、2007年11月)では、これまでの審議のまとめを公表し、次の学習指導要領の基本となる「教育内容に関する主な改善事項」の第1番目に「言語活動の充実」を挙げています。すなわち、ここでは「各教科等における言語活動の充実は、今回の学習指導要領の改訂において各教科等を貫く重要な改善の視点である。(中略)言語は知的活動(論理や思考)だけではなく、(中略)コミュニケーションや感性・情緒の基盤でもある。」という文言が掲げられ、各教科等においてはこれを受けて次のような活動が提言されています。
国語科においては、「小学校の低・中学年において、漢字の読み書き、音読や暗唱、対話、発表などにより基本的な国語の力を定着させる。また、古典の暗唱などにより言葉の美しさやリズムを体感させるとともに、発達の段階に応じて、記録、要約、説明、論述といった言語活動を行う能力を培う」。
各教科等においては、国語科で培った能力を基本に、上で挙げた知的活動の基盤という言語の役割の観点から、次のような活動例が提言されています。
「観察・実験や社会科見学のレポートにおいて、視点を明確にして、観察したり見学したりした事象の差異点や共通点をとらえて記録・報告させる(理科、社会等)」。「比較や分類、関連付けといった考えるための技法、帰納的な考え方や演繹的な考え方などを活用して説明する(算数・数学、理科等)」。「仮説を立てて観察・実験を行い、その結果を評価し、まとめ表現する(理科等)」。
また、コミュニケーションや感性・情緒の基盤という言語の役割に関連しては、次のような活動例が提言されています。
「体験から感じ取ったことを言葉や歌、絵、身体などを使って表現する(音楽、図画工作、美術、体育等)」。「体験活動を振り返り、そこから学んだことを記述する(生活、特別活動等)」。「合唱や合奏、球技やダンスなどの集団的活動や身体表現などを通じて他者と伝え合ったり、共感したりする(音楽、体育等)」。「体験したことや調べたことをまとめ、発表し合う(家庭、技術家庭、特別活動、総合的な学習の時間等)」。「討論・討議などにより意見の異なる人を説得したり、協同的に議論して集団としての意見をまとめたりする(道徳、特別活動等)」。
これらの提言を概観すると次のことがいえると思います。言語活動を従前のような「知的活動の基盤」として捉えるだけではなく、「コミュニケーションや感性・情緒の基盤」という視点と共に捉えるところに注目する必要があるように思えます。端的に言えば、言語的な諸能力の獲得はもとより、獲得した諸能力を子どもが自分の必要性に応じて、適切に使用させることもこれからの学校における学習活動の重点事項として挙げられているのです。獲得された知識や技能をこのように活用させることは、子どもの学習意欲の向上へと結びつきます。伝統的に、子どもの思いや願いをもとに学習活動を展開してきた日本の初等教育において、こうした指摘は無理難題ではないと思います。むしろ、今まで大切にしてきた実践を改めて確認するよい機会であるように思えます。
子どもに考え表現させる力をつける必要性が改めて確認されました。それでも、このことは、技術的な問題だけではかたづけることはできないと思います。それは、当然のことながら、そこに考えたり、表現するおもしろさや意味深さを子どもに実感させるという、いわば学習意欲に起因する問題があるからです。このように考えると、冒頭で述べた現代の教育課題は小学校の教育の伝統に則り、真正面から子どもの思いや願いを受け止め、その中で、彼らに考えたり、表現する力をつけることが、時間はかかるが解決の王道であるように思われます。幸い附属横浜小学校には、子どもの学習意欲をベースにして彼らの問題解決させる力を育もうとする教育実践の伝統があります。そこで、本書ではPISA型学習が求める視点について、附属横浜小学校流に実践的に分析を行ってみました。この分析の適否は本書の実践の継承、あるいは批判・修正という活動の中でのみ現れてくるように思われます。多くの小学校教員の目を通して本書の内容が再吟味されることを願うばかりです。加えて、本書は附属横浜中学校編『読解力とは何か』『同 PartⅡ』(三省堂)の姉妹編として企画されました。本書と併せて、ご一読下されば幸いです。
おわりに、本書に対して特別論文を寄稿して下さった文部科学省主任視学官田中孝一先生に、教職員を代表して深く感謝申し上げます。
平成19年12月1日
横浜国立大学教育人間科学部附属
横浜小学校校長 森本 信也
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