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習得・活用・探究の授業をつくる
-PISA型「読解力」を核としたカリキュラム・マネジメント-

横浜国立大学教育人間科学部附属横浜中学校 編

B5判・132ページ  定価(本体1,900円+税)
ISBN:978-4-385-36351-6 2008年3月10日 発行 [品切れ]

平成20年告示の新学習指導要領では「習得・活用・探究」の学習プロセスが注目される! その解説と中学全9教科の指導案、すぐにできる24本の実践アイディアをいち早く紹介。学校での取組を充実サポート!

執筆者

[特別寄稿] 文部科学省初等中等教育局  田中孝一 主任視学官

 横浜国立大学教育人間科学部附属横浜中学校
 髙木展郎 (校長)         
 岩間正則 (副校長,国語)    
 高橋 励 (国語)         
 松田裕行 (国語)         
 松田哲治 (国語)         
 前田総一郎(社会)          
 三藤あさみ(社会)        
 大谷 一  (数学)          
 杉山 宙  (数学)         
 田中保樹 (理科)
 西野厚志 (理科)
 杉山利行 (音楽)
 古内 久  (美術)
 末岡洋一 (保健体育)
 山本優子 (保健体育)
 葛川幸恵 (技術・家庭)
 小倉 修  (技術・家庭)
 松田幸裕 (英語)
 杉浦千恵 (英語)

■目次

はじめに
I 理論編

  次期教育課程の特質を考える -学校教育法等改正,中教審答申,学習指導要領改訂の流れから-

  ①はじめに
  ②法律の改正と学習指導要領の改訂
  ③改正学校教育法,平成19年12月26日施行の意味
  ④生きる力の育成の継承-中教審答申
  ⑤学習指導要領の改訂-言語活動の充実
  ⑥おわりに

 「習得・活用・探究」という学習プロセスの意味
  ①「習得・活用・探究」の示され方の経緯
  ②学力の重要な要素としての「習得・活用・探究」の機能と内容
  ③「習得・活用・探究」という学習プロセスの具体

 PISA型「読解力」を授業に生かす
  ①PISA型「読解力」をめぐる状況
  ②PISA型「読解力」の育成と[確かな学力]の育成
  ③7つの「指導のねらい」をもとにする
  ④附属横浜中学校の取組
  ⑤各教科の具体的取組

 プロセス重視の指導案
  ①プロセス重視の指導案についての考え方

 本校の取組について
  ①「生きる力」をはぐくむ
  ②PISA型「読解力」の育成
  ③「読解力」の育成と「習得・活用・探究」の能力育成のプロセス
  ④各教科の取組のポイント
  ⑤総合的な学習の時間における取組

II 実践編
 国語科
  ●国語科学習指導案-活用(中学校3年)
  ○学習事例 習得 自分の立場を分かりやすく書こう
  習得 引用しながら話してみよう-スピーチ-
  活用 説明文の構成・内容をつかむ
  活用 与一になって語る-平家物語-
  探究 情報とのつきあい方を考える

 社会科
  ●社会科学習指導案-探究(中学校1年)
  ○学習事例 習得 契約行為について
  活用 「裁判員」になろう
  探究 身近な地域の史跡を発見しよう

 数学科
  ●数学科学習指導案-探究(中学校2年)
  ○学習事例 習得 文字式の書き表し方のきまりを習得する
  活用 グラフを利用して図形の形を伝える
  探究 三平方の定理の逆を考える

 理科
  ●理科学習指導案-活用(中学校2年)
  ○学習事例 習得 「化学変化と分子・原子」における知識の習得と理解の深化
  -話合い活動におけるホワイトボードの活用-
  活用 光合成を考える「プリーストリは何をしたか?」
  探究 卵スッポンの実験の原理を考える

 音楽科
  ●音楽科学習指導案-活用(中学校3年)
  ○学習事例 活用 よりよい合唱表現を目指そう

 美術科
  ●美術科学習指導案-活用(中学校1年)
  ○学習事例 習得・活用 広告コンセプト

 保健体育科
  ●保健体育科学習指導案-探究(中学校3年)
  ○学習事例 習得 器械運動〔平均台運動〕
  活用 器械運動〔とび箱運動〕
  探究 器械運動〔とび箱運動〕から陸上競技・球技へ

 技術・家庭科 (技術分野)
  ●技術・家庭科(技術分野)学習指導案-探究(中学校1年)
  ○学習事例 習得 マルチメディアの活用

 技術・家庭科 (家庭分野)
  ●技術・家庭科(家庭分野)学習指導案-活用(中学校1年)
  ○学習事例 活用 手作り商品で,消費者に分かりやすいPRや表示をし,選択購入する力を磨く

 英語科
  ●英語科学習指導案-探究(中学校3年)
  ○学習事例 習得 スピーチを楽しみ,動詞を正しく使い分ける(3単元のS,be動詞+一般動詞ing)
  活用 Funny Skit Show
  探究 宇宙飛行士へのメッセージ

あとがき 
執筆者一覧

はじめに

 今日,教育に対して,さまざまな立場からいろいろな考え方が示されています。レイマンコントロール(注)として,誰もが教育について語ることは重要です。しかし,その教育を語る際に,それぞれの人が,過去に自分が受けた教育の体験(原体験)のみをもって教育を語ることは,極めて個人的なものであり,体験や経験の枠を超えることのない教育論となります。

 教育に関する会議で語られている内容の中に,このような個人の原体験の枠を超えることのない教育論はないでしょうか。個人の原体験による教育論は,一般化のされにくい極めて狭い範囲の教育論となります。そのような狭い範囲で,これからの時代を生きる子どもたちの教育内容を決めてよいものでしょうか。

 教育会議における教育論は,一般の方が語られることにも十分留意しながら,しかし,教育の専門家(教師も当然含まれる)が現状の教育状況を明確に把握し,その中から改善すべきものと現状のままでよいものとを確認し,その上で,新たな教育内容を決めることが求められます。

 原体験のみに依拠した拙速な教育改革は,一見,改革をするように見えて,教育をこれまで以上に混迷に引きずり込むことになると考えます。教育は,それこそ「国家百年の計」です。思いつきの教育論や原体験の枠を出ない教育論によって,日本の教育が混迷に導かれないようにしたいものです。

 教育は,未来を創ることでもあります。子どもたちの未来を保証すべく,未来に生きる,未来に必要とされる学力の育成を図らなくてはならないと思います。

 このような今日的状況の中で,教育が大きく変わろうとしています。それは,平成19年4月に行われた「全国学力・学習状況調査」の結果の公表や,PISA調査2006年の結果の公表と相まって,これまでの日本の教育のあり方が問われてきたことにもよります。

 平成20年1月には,教育課程審議会答申が出され,3月には,新しい学習指導要領が告示されます。その中では,これからの時代に必要な学力観が「習得・活用・探究」として示されています。
日本の学校教育ではこれまで,いわゆる勉強ができるということは,ペーパーテストでよい点数を取ることを指してきました。知識の習得量と再生の正確性,再生の速さを数字によって示すことで,学力を測ってきたともいえます。

 この学力観は,知識の習得という面において優れており,また,これまでの日本において,欧米の先進諸国のものを学ぶには適したものでした。

 しかし,時代の変化の中で,知識の習得のみを学力としない方向性が出現してきました。はじめから覚える知識などというものはなく,体験や経験の中からこそ学ぶべきものがあるという構成主義的な学力の考え方です。

 このような学力論の対立の中で,日本の教育は21世紀を迎えました。これからの時代に求められる学力は,知識の習得のみだけではなく,体験や経験の中からも学ぶということも,意図的意識的に行われなくてはなりません。

 そこで,今回の教育課程の改訂に伴い,「習得・活用・探究」という学力育成のプロセスが求められるようになりました。

 これまでの知識の習得をもとにした学力観では,いわゆる受験学力として,その習得量と正確性,再生の速度とが問われてきました。しかし,知識を再生するだけでは,新しくものを創出することはできません。習得した知識や技能を活用して,思考したり,判断したり,表現すること,そして,それらをもとに自ら学び,自ら考える力としての学力の育成が求められています。

 学力は,時代の中で求められるものであり,時代の変化の中で,その求められる内容も変わっていくものなのです。その変化の中には,学力として変わらないものもあれば,時代が変わることによって全く異なるものが学力となることもあります。

 学力は,個々人が自分なりに学力を定義するのではなく,公教育として,これからの時代に求められる学力を行わなくてはならないことは,いうまでもありません。

 今回の学習指導要領改訂では,改正教育基本法等で示された教育の基本理念を踏まえるとともに,現在の子どもたちの課題への対応の視点から,
①  「生きる力」という理念の共有
②  基礎的・基本的な知識・技能の習得
③  思考力・判断力・表現力等の育成
④  確かな学力を確立するために必要な授業時数の確保
⑤  学習意欲の向上や学習習慣の確立
⑥  豊かな心や健やかな体の育成のための指導の充実
がポイントであり,その中でも,特に,②を基盤とした③,⑤及び⑥が重要として示されています。

 この新しい学習指導要領に示された学力観は,時代の中で,これからの日本の学校教育に必要な学力を示しています。これまで本校で実践して参りましたPISA型「読解力」をより充実させるため,本書では,新しい学習指導要領に向けて「習得・活用・探究」に焦点を当て,具体的な授業をどのようにつくるかについての考え方を示しました。

 最後になりましたが,本研究を行うに際しまして,本書にご寄稿を頂きました文部科学省主任視学官の田中孝一先生はじめ,ご指導を賜りました文部科学省の教科調査官,西辻正副先生,冨山哲也先生,吉開潔先生,永田潤一郎先生,田代直幸先生,大熊信彦先生,村上尚徳先生,今関豊一先生,上野耕史先生,岡陽子先生,菅正隆先生,横浜国立大学教育人間科学部の諸先生方には,大変お世話になりました。厚く御礼申し上げます。

平成20年1月

横浜国立大学教育人間科学部
附属横浜中学校長  髙木 展郎


(注)
レイマンコントロール【layman control】:〔laymanは,素人の意〕政治や行政の一部を一般市民にゆだねる方法。(『大辞林第三版 ウェブ版(Dual大辞林)』三省堂,2006-2007年)

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