三省堂 英語ホーム > 高等学校英語 > 『三省堂高校英語教育』 > 2004年 夏号 「読む」の教材の究極は何か(1) | ||||||||||||||||
はじめに 教科書分析などのシンポジウムなどで、文部科学省の検定済教科書はどれも大差がないという意見をしばしば耳にします。あるにしても、「進学校」用とそうでない高校用の違いによる言語材料の分量の差程度であるというのです。筆者は、この違いだけではないと考えています。同じ「レベル」の教科書でも、よくみると題材の選び方、その切り込みの視点や切り込む程度、そして、言語材料や言語材料の扱い方、すなわち「練習」や「付録」の内容などの点で、異なっているのです。本稿では、この点を明らかにすべく、EXCEEDのリーディングの教科書の特徴について解説しますが、論点は大別すると、内容上のインパクトを高めるにはどうするか、読むためのスキルを向上させるにはどのような活動が必要かという2点です。単に、一教科書の是非論ではなく、教科書を分析する際に、題材や言語材料、言語活動をどのような言語観や教材観でとらえるか、という教材分析論の一助にもなればと願っています。 題材の2大特徴 EXCEEDシリーズは、これまで英語T,U, ライティングを刊行してきましたが、その大きな特徴として、題材の重視を標榜し、実践してきました。このリーディングも例外ではありません。題材を、人間教育、異文化理解教育に資するものを中心にとらえ、人生・人権・共生・環境・平和など、テーマや領域の広がりとバランスに注意しました。以下は、主たる課として扱っている全12課の題目(英語)と副題(日本語)です。 L. 1 Vanishing Voices 以上の素材やテーマの選択と配置には、他の教科書にはみられないと思われる特徴があります。1つは、ことばに関する題材が多いことです。たとえば、第1課を言語観や言語の社会性に焦点をあてる題材ではじめていることです。他の教科書にも言語と文化の関係などを扱った題材で始めているものも、ときには見かけます。しかし、母語の重要性、言語による差別、英語のあり方などの言語観や英語の社会性を取り上げているのは、EXCEEDだけでしょう。今回、第1課で取り上げた話題は、その話し手がたった一人になってしまったアメリカ先住民語のイーヤク語ですが、この言語はいわば「大言語」である英語と対極にあります。英語学習はこの対極を知って、はじめてバランスのとれたものになります。本文の最後では、日本のアイヌ語にも言及して、この問題が日本人にとっても身近であることも伝えています。以上が第1課ですが、その他、第5課はことばの接触や伝播を、第6課ではことばの修辞的な力を取り上げています。このようにことばに関する題材を多く取り入れているのは他にはみられない特徴といえます。 2つめは、若者の視点を取り入れたもの、若者が関係しているものが多いということです。第2課のフィリピンのピナツボ山麓の緑化の話題は当時の高校生の作文コンテスト入賞作品を教材化したものです。兵庫県の当時高校2年生の生徒がクラブ活動の一環として行ったボランティアの緑化運動です。また、第9課は、北極から南極までを自転車などで走破した若者たちのメール通信が下地になっています。日本人の当時22才の若者も参加した8名のグループですが、7カ国からの青年が参加しています。彼ら一人一人の喜び、苦しさ、迷いなどが綴られています。さらに、第3課のDanny and Lucyは、高校生のスポーツと恋愛を取り上げています。また、第4課の写真家の大石芳野さんのメッセージも少年・少女や若者から得たもの、若者に寄せたものです。まだ、あります。『島唄』を歌っている第7課のロックバンドのメンバーも若者です。第6課のクマのプーさんも子どもです。このように、子どもや若い人たちに関する読み物を集めたのは、高校生に少しでも「身近に」考えてもらいたいという意図からです。 |
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