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知的好奇心に訴えるリーディング 学習者の知的好奇心に訴える題材を提示することは、CROWN Readingの重要な使命であると考える。高校生にとって興味関心のあるテーマを、さまざまな角度から取り上げたことはもちろんであるが、単に未知のテーマを扱うだけで十分ではない。与えられた事実をもとに、自分の問題として考えるという知的営為がなければ、深みのあるリーディングには到達しえない。題材で扱っている問題について生徒に考えさせるための工夫のひとつとして、結論を上から学習者に押し付けないという方針をたてた。結論を提示してそれを受け入れさせるというのではなく、問題として提示した上で、それをもとに考えさせるような展開の仕方を採用しているのはこのためである。また、Communication ActivityやClipboardにおいて十分な工夫を凝らしたことも、学習者の知的好奇心に訴えるという意図があったからこその配慮である。 感動をもたらすリーディング 上で述べたことと関連するが、高校生に何らかの「感動」をもたらす題材を提示することにも心掛けた。化学者の村井眞二氏は、野依良治著『人生は意図を超えて』(朝日選書)のなかで、教育において「感動」が重要な役割を果たすことを指摘している。ところが、一人一人の価値観や関心や知識に裏付けられた感受性をもっているはずの高校生が、受験勉強で忙しいためか、この時期、成長が止まってしまっているような感じがすると嘆いている。しかし、そうであったとしても、否、そうであるからこそ、言語を媒体とする英語教育においては、題材を通して高校生の感性に訴えかけるような教育を追求するべきであると考える。人はそれぞれ別の個性と感受性を有しているわけであるから、A君に対して感動をもたらす題材が、Bさんにとっては何の感動も与えないということもありうる。しかし、深く読み込めば読み込むほど、ふと立ち止まって考えてみる価値のある題材が配されていることが理解されるであろうし、そしてそうした題材を通じて、高校生のココロに何かのインパクトを与えたいという編者の意図が感じられるのではないかと期待したい。 現実世界との橋渡しとなるリーディング リーディング教科書の良し悪しは、複合的観点から測定されるべきものであり、単一の観点のみから論ぜられるべきものではない。しかし、「自律的な読み手」の育成に資することがその主たる目標であることは、誰も否定することはできないだろう。日本語を母語とするものならば、誰から強制されるわけでもなく、新聞を読み、雑誌を読み、小説を読み、料理のレシピに目を通し、週刊誌を楽しむ。「自律的な読み手」として英語でも同様のことができることを目標とするならば、英語教科書が「現実世界との橋渡し」の役割をどの程度果たしているのかどうか、という観点を無視するわけにはいかない。換言すれば、噛み砕いて消化しやすい形の「教科書英語」ではなく、噛み応えはあるが滋養に富んだ「現実世界で使われている英語」が取り入れられていなければならない。そのため、CROWN Readingでは、テーマの現代性を重視しつつ、同時にできるだけauthenticな英文を採用した。学習者が自分の生きている空間と時間と連結していると実感できるような題材を厳選し、比較文化、技術、環境問題、民族問題、スポーツ、貧困と経済の問題、日本における英学の始まり、建築、科学、教育と情報、など極めて多岐に渡るテーマをカバーしているのもそのためである。 |
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