1.新指導要領が提言するライティング指導
新学習指導要領では「実践的コミュニケーション能力の育成」が目標として掲げられた。従来は、英文を日本語に訳し、また逆に日本語を英語に訳すことができることで、英語学習の最終目標が達成されると考えられてきた。しかし、これらの習熟だけにとどまっていては、生きた言葉としての英語を身につけることにはならない、さらに一歩進んで真の英語運用能力をつけなければならないと考えられるようになった。すなわち、情報や相手の意向などを理解したり、自分の考えなどを表現する能力の育成が中心目標として掲げられることになった。
このような基本的方針のもとで、ライティングについては、「情報や考えなどを、場面や目的に応じて英語で書く能力を更に伸ばすとともに、この能力を活用して積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度を育てる」ことが目標として掲げられた。さらに言語活動については、「聞いたり読んだりした内容について、場面や目的に応じて概要や要点を書く」、「聞いたり読んだりした内容について、自分の考えなどを整理して書く」、「自分が伝えようとする内容を整理して、場面や目的に応じて、読み手に理解されるように書く」ことが求められるようになった。
すなわち、できるだけ実際のコミュニケーションに近い形で書くことを体験させるため、聞くことや話すことなどとも有機的に関連付けた活動、つまり
cross-skills を用いた活動を行わせたり、手紙や電子メールなどの言語の使用場面と書く目的を明確にした活動を行わせることになった。
伝統的には、基本的な文型や文法事項などを理解すれば英文が書けるという、usage 中心のライティング指導が行われてきた。しかし、新指導要領では、実際のコミュニケーションにおける言語の
use に主眼を置いた指導が求められている。「書く」という行為が、他のスキルと同様、日常的な実際のコミュニケーションの中で行われるものである以上、書く場面や目的、聞いたり話したりして書くといった、言語の
use を重視したライティング指導が提言されたのは重要なことであるし、ごく当たり前のこととも言えよう。しかし、この当たり前のことを繰り返して言わなければならないほど、日本の英語教育は英文和訳、和文英訳といった「訳す」ことに大きなエネルギーを注いできた。
しかし、だからと言って「基本的な文型や文法事項」の指導が不要だと言うのではない。ややもすれば、実際にコミュニケーションを行う能力の育成と文型や文法の指導とは相容れないと考えられる傾向がある。しかし、文型や文法の知識はコミュニケーション能力の一部として必要だし、是非とも教えなければならない事項である。このことは新指導要領も認めている。
ところが問題は、文型や文法の知識を増やしたり習熟させたりすることが、ただ単に文法用語を知っているだけとか、機械的な書き換えができるだけというレベルに止まっていた点にある。そうではなく、文型や文法の知識を用いて正しい英文を生み出す力(Accuracy)、それも、かなりの流暢さでもって英文を書くことができる力(Fluency)がつくというのであれば、この指導は大きな意味を持つことになる。
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