三省堂 英語ホーム > 高等学校英語 > 『三省堂高校英語教育』 > 2002年 春号 学習者の力に応じて…(3) | ||||||||||||||||
■特集■ 新しい英語教育 玉川大学 ●英語力が不十分な生徒のための教科書編集 しかし、中学校までの基礎が不十分だからと言って、高校生用のテキスト全体を、まさか「こんにちは、〜さん」「やあ、〜さん」程度の言語材料ですますわけにはいかない。もちろん、そうしたことを学習しなければならない必然性がある生徒が対象であれば話は別だ。外国人とすれ違うとき "Hi!" とか "Hello!" とか言っても不自然でないのは、相手が外国人だからである。あるいは外国人の先生にそうした表現を使うことは厭わないだろう。だが、多くの時間を日本人の先生が担当しなければならないとするなら、やはり、飽きずにテキストを開いてくれる題材内容がメインになるレッスンを作らなければならない。 したがって、題材内容については多民族の「共生」、人間と自然との「共生」、異質な文化が共存することによって新しい文化観が生まれることを前提とした文化多元主義的な問題、それから日本独自の文化を海外へ発信するための話題も取り入れるように心がけた。だからと言って、「新しい英語教育」が求めるスキル(skill)の訓練を疎かにしているわけではない。ただ、従来のテキストと何ら変わりなく教室で展開できるように工夫してあることを強調したいだけのことである。 編集中のテキストは、これらの条件を充分考慮して作り上げてきている。テキスト全体としては従来の形式を踏襲し、中学校レベルの復習に本課4レッスン分を充てた部分を Part 1 とし、これに続くものとして本課8レッスン分を Part 2 とした。いずれの課も「言語の使用場面」と「言語の働き」とがはっきりわかるように工夫した。 たとえば環境問題を扱った新しい課(Wind --- a 'New' Power)では、宮古島出身の友子がクラスで「風力発電」について発表するという「グループにおけるコミュニケーション:スピーチ」の場面を設定し、「情報を伝え、また考えや意図を伝える」働きとが具体的に示されている。 基礎的な文法事項を学習(Study It!)し、Drill で復習。Drill で足りない問題は教師用指導書やその他副教材で補充する予定である。そのあと練習問題(Practice!)で文法面をより良く理解できるようにすると同時に、題材内容に関する問題も用意されている。各課の Practice! で、これまでと大幅に変更した部分は1番と4番である。新指導要領に基づいて、skill を高めるためである。 1番には平易なリスニング問題を用意した。この問題の英文は巻末に「音声スクリプト」として掲載した。英文を掲載したのではリスニングの意味がないのではと案ずる向きに説明するなら、内容のわからない英文を音声で聞くのはただ雑音を耳にするだけだということである。それよりもある程度内容のわかっている英文を聞く方が音声になれる点ではるかに楽しいし、効率的である。本文内容については内容確認問題(Check Your Understanding!)で扱うので、この Listening では学習した文法事項を軸に本文内容とは別の内容のものにしてある。したがって、音声スクリプトを生徒が前もって読んできてくれる方が効果が期待できる。 4番については、ことに Part 2 においてだが、指導要領に沿って、ある特定の場面設定のなかで、できる限り自分の考えなどを英語で発表するように工夫した。英語を苦手とする生徒のためにヒントを添え、解答しやすいように工夫したつもりである。 Speaking や Writing の Productive skill の育成を意識した活動(Enjoy
Communication!)を見開き2ページで2レッスンごとに5箇所設けた。Key Expressions を軸に会話を練習できるようにしたところも新企画である。 Last but not least! 「実践的コミュニケーション能力の育成」の一つとして「朗読」(The Tale of Peter Rabbit)を取り上げたのも今回のテキストの目玉と言ってよい。場面としては「創作的コミュニケーション」、「ことばの働き」としては「物語の語り手としての喜び、怒り、驚きなどの感情を聞き手に伝える」である。テキストに指示された順で授業を進めていただければ、きっと生徒と共に楽しんでいただけること請け合いである。 ←●トランスナショナリティ、そして第二言語運用「潜在能力」の育成 |
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