三省堂 英語ホーム > 高等学校英語 > 『三省堂高校英語教育』 > 2002年 春号 今から始める英語教育改革への一歩(2) | ||||||||||||||||
■特集■ 新しい英語教育 富山大学教育学部教授(元文部省教科調査官) 3.どちらに向かえば良いのか 従来、語彙を増やし、英文法の知識を増やし、英文法の問題を解けるようにし、英文を日本語に訳し、または、その逆ができるようになることが英語学習の最終目的と考えてきた。これらが大切ではないと言うつもりはない。これらの習熟だけで留まっていては、生きた言葉としての英語を身に付けることにはならないということである。だから上で述べたように、英語を使って「情報や考えなどを伝え合う力」を目指すべきである。そちらに今一歩進んで行こうということなのである。 何のことはない。この提言はごく当たり前のことである。しかし、この当たり前のことを繰り返し言わなくてはならないほど、日本の英語教育は手垢がたっぷり付いてしまっている。当たり前のことを当たり前にやることが、今、「改革」として求められているのである。 4.はじめの一歩はどう踏み出すのか こう言うと、英語でのスピーチやディスカッション、ディベートをやるよう勧めているという印象をもつかもしれない。確かに、これらの活動は実践的コミュニケーション能力を身に付けるための典型的な活動である。だから、もっと多くの教室で取り上げてほしい。(実は、中学の新しい英語教科書には、これらの活動がレッスンの中心的な活動として設定されているものがある。時代は確実に進んでいるのである。)しかし、これらは、従来から「読んで、読ませて、訳させて、説明して、音読して終わり」という授業展開を続けてきた先生方には、ハードルが高すぎよう。 そこで提案するのは、現在行っているタイプの授業から「実践的コミュニケーション能力の育成」へと一歩でも進んで行くための工夫である。その一つとして、教科書の語句や文型・文法事項、そして、本文の内容を扱う際に、できるだけ生徒の日常生活と関連させていくという方法がある。昔有名だったある受験用単語集の最初の単語はたしか "intellect" であったと思うが、例えばこの単語が新出であれば、生徒に「どういう意味か」と尋ねて訳を言わせるのではなく、"Do you think Mr 〜is a man of intellect?" と尋ねてしまうのである("〜" には、クラスの生徒の名前を入れる)。生徒から "intellect" の意味がわかった上で "Yes, he is." とか "No, I don't think so." などという答えが返ってきたら、この新出単語の意味の確認は終わりとするのである。 新しい文型でも、それを使って身の回りのことを表現させる工夫をする必要がある。私がかつて行った例だが、教師が "Today everybody is working very hard." などと言うと、生徒が "Yes. It is natural/strange/interesting, etc. that everybody is working very hard." と答えて、何らかの判断を示すというものである。ここでは、"It is 〜 that...." という構文と生徒の実態とが結びつけられている。 さらに、教科書の内容を生徒と関連させるためには、例えば英文のQ&Aを行う際に、本文の事実の理解を確認するためのいわゆる "display questions" だけでなく、生徒の気持ちや意見を尋ねるような "open-ended questions" を使うことが考えられる。例えばカラスがいかに狡猾かを扱った教材では、単に教科書の内容についての質問、つまり、教科書に答えがそのまま出ているような質問ではなく、"Do you often see crows in your neighborhood?" とか "Do you think that crows are very clever?"、"Why do you think lots of crows live in big cities?" など、生徒が自分で考えて答えるような質問を入れるということである。 これらを日常的に続けることで、生徒は、個々の英語の語句や表現が教科書に載っているだけで自分とは関係のない存在であるとは考えなくなる。むしろ、自分の考えや気持ちを表現するための便利な tool であると実感できるようになるだろう。それが「実践的コミュニケーション能力の育成」の一歩と考える。 |
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