英語教育リレーコラム

英語で授業―このあたりから始めてみては?:「Small Talk で英語を聞かせよう 〜英語に耳を傾けて,子どもと子どもが向き合う瞬間〜」

柏木賀津子(大阪教育大学)

1. はじめに

 小学校では,担任の先生が1日にいろいろな教科を教えています。理科の実験の用意,体育ではハードルの用意,遠足の前なら「そうだ,忘れ物がないかも確認しなきゃ」と,超多忙です。でも考えてみると,超多忙だからこそ話題には事欠かないのです。Small Talkの題材は,英語活動のための「英語ルーム」だけでなく,学級教室にもたくさん見つけることができます。学級教室の壁には,みんなの図工の絵,誕生日,時間割,落書き。黒板には,今日の日付,日直さん。窓際にはプチトマト。廊下側にはメダカの水槽。

 Small Talkをスムーズに始めるには,「先生ね…」と始め,いつの間にか授業のトピックへと誘うきっかけ作りをします。本コラムでは,「英語ノート」に関連したSmall Talkを紹介しましょう。


2. Small Talk @ ―「お腹すいたよ」<低学年>

 T: Hello. How are you? / S1: I’m good. / S2: I’m very hungry. と,元気よく挨拶がはじまり,今日のトピックに行く前に,次のように,ジェスチャーでひと工夫してみましょう。

T:
 Oh, you are hungry. The very hungry caterpillar ate a lot of foods. Today it’s your turn. What do you want to eat? Strawberries? Bananas? Rice? etc. Now, we are in the kitchen. How about opening the fridge? It’s very tall and big! We open and shut it again and again in a day.

 白い画用紙2枚を冷蔵庫の扉にみたて,中には小さな食べ物カードをいっぱい隠しておきましょう。エプロンをかけたり,大きな冷蔵庫を開けてのぞきこむジェスチャーをしたりしながら,みんなで冷蔵庫の前で「食いしんぼう」の気分になってみましょう。What’s in the fridge? と質問し,子どもから家の冷蔵庫にありそうなものをいっぱい引き出します。外来語もあれば日本語も飛び交うでしょう。

 S:「ピザ!」/ T: Pizza? Yes. It’s in the fridge. / S:「残り物!」/ T: Leftovers? / S:「シュークリーム!」/ T: Cream-puff? / S:「ヨーグルト!」/ T: Yogurt? No. It’s not in the fridge. /S:「プリン?」/ T: Pudding? Yes. It’s in the fridge. / S:「とうふ?」/ T: Tofu? No. It’s not in the fridge. Sorry. Do you like tofu? / S: Yes, I do. / T: Me, too.

太字で示した,自然なテンポのある繰り返しが聞かせどころです。自然な速さで話しましょう。子どもは似ている音や対比された音に敏感です。
※グローバルスタンダードになった「とうふ」や「すし」などの日本語の存在は,子どもといっしょに誇りに思えます。

 冷蔵庫から次々出てきた食べ物が黒板に,所狭しと並んでいきます。冷蔵庫の残りもの(leftovers)は,『英語ノート 1』(文部科学省)の絵カードを印刷して,それをはさみで半分(half)や4分の1(quarter)などに切ります。さて,これで『英語ノート 1』−Lesson 6の導入まで行きましたね! 雰囲気の合う曲をかけて,Let’s cook something delicious. 作れる料理を考えたり,What would you like? 注文を取ったり,外来語と英語の違い(「プリン」じゃなくてpudding)に驚いたりしてみませんか。


3. Small Talk A ――アルファベットだってSmall Talk 「明日は遠足!」<高学年>

 英語活動の研究校を訪問したり,指導案をいっしょに考えたりしてきた経験から,私は,アルファベットの導入前に,少なくとも50時間ぐらい(多ければ100時間)の「文字のない世界」があることが,その後の英語学習の学び方に影響を与えると感じています。文字がないからこそ,音を真似しながら,その中の目立つ場所,特徴的なもの,繰り返される部分,文のどのあたりにヒントになるものがあって,どうキャッチするか等,言葉で説明できない言語経験(implicit learning)をする機会だからです。

 『英語ノート 2』ではLesson 1,Lesson 2で,アルファベット探し,大文字・小文字のマッチングや識別をする等の活動があります。5年生から学習を始めるとすると,35時間はやや少ないのですが,ローマ字との違いを発見できるような指導ができれば,6年生にとっては心躍る文字体験に違いありません(違いを発見するにはローマ字をしっかり習熟していることが必要条件です)。6年生後半では,音声から英語を学びながらも,親しみのあるアルファベットをヒントにクイズに答える子どもも出てくるでしょう。

 そこで,音声からアルファベットに親しみ始めた6年生には,秋の遠足や卒業遠足の頃に,アルファベットを使ったSmall Talkをしてみてはどうでしょう。アルファベットにはそれぞれ音があり,その音を使って,P, p, p / I, i, i / G, g, g / PIG というフォニックス導入の初歩は広く使われているようです。このような指導を継続して中学校につなぐことができるとよいのですが,新学習指導要領の目標と,実施時間数の関係において,難しさがあると思われます。そこで,アルファベットを使って,次のような活動をしてみました。

(1) 「アルファベットイニシャル」

T:
 I spy with my little eyes something beginning with T. If you have T in your name, sit down, please. / If you have S, sit down, please. / K for Katsuya, K,K,K. / M for Makiko, M,M,M.

 クラスの友だちの名前が次々とアルファベットの音になっていくので,あっという間に覚えてしまいます。日本の名前にあまりない Q や L に困っていれば,Q はQoo,L はLupinなど,アニメやゲームの主人公が子どもの方から出てきます。

 子どもって本当に日常的に「音」をキャッチしているなと実感します。これをラップのリズムにのせたり,チャンツに合わせたりできれば,40人の友だちがいるからこその楽しい活動になります。子どもを主役にできるのは,担任の先生ならではの力です。

 次に,『英語ノート』の巻末についているアルファベットカードを切り取って,そのうち16枚を選んで4×4のビンゴに置きます。グループで「耳試し」をしてみましょう。担任またはALTが,バックパックからタオルや傘やペットボトルなどを引っ張り出しながら,「遠足持ち物チェックゲーム」をしましょう。

(2) 明日は遠足!―「遠足持ち物チェックゲーム」
T:
 It’s a lovely day!
 I’m going on a picnic. I have a lot of things in my bag. It’s so heavy.
 I take w, w, water. I take h, h, hot tea. I take b. b. biscuits. I take b, b, bananas and p, p, papayas. I take a s, s, sandwich. Um. Um, but if it rains ... I need a t, t, towel. I need an u, u, umbrella. Now let’s go on a picnic. (How many bingos?)

太字で示したところは,「〜を持っていく」,「〜が必要だ」の動作といっしょに自然に聞かせましょう。
色字で示したところは,先頭文字のアルファベットの持つ音を印象的に聞かせましょう。

 このようなピクニックの話を聞いて,「え〜,雨降ったら,傘ね」なんて考えながら,アルファベットカードをめくっていきます。聞き落とすとビンゴになりませんから,グループ4人で必死です。

 このSmall Talkをアレンジして,いろいろ作ってみましょう。慣れてくると子どもは,If it rains ... のところで,U や T が使われることを予想して助け合います。予測通りだと「やった!」という表情を見せてくれます。ついでに「遠足に持っていく,雨が降ったら要る」という状況をうまく使って,take ... / need ... / VO-combination(動詞と目的語の自然な組み合わせ)を聞かせてみます。第2言語学習では,この「ついでに…」(incidental learning)という活動がスパイスになると,私は感じています。

 Small Talkでは,子どもが知らない単語が多い,繰り返して使われる表現が少ない,視覚ヒントが少ない等の条件が重なると,認知負荷が高すぎて「聞こうとする気持ち」を失わせてしまいます。名詞以外の表現に注意を向けさせたいときは,外来語(名詞)をうまく使うと,名詞以外の表現をつかみやすくなります。そういう意味で,Small TalkやTeacher Talkのコツは,日本の先生だからこそ,苦労して英語を勉強している人だからこそ到達できる「仙人の境地」なのかもしれません。

4. おわりに

 さて,私の勤務していた奈良市では,英会話科・外国語科のある小中一貫校が取り組みを始めてから5年目を迎えています。6年生や9年生(中学3年生)の生徒たちには,英語が特別なものであるという意識はないようです。この学校は,日常的に,全学年でSmall Talkを続けてこられました。担任と,英語を担当される先生と,そしてALTの取り組みです。ALTは,野菜を育てたり,写真を撮ったりすることが大好きです。授業で取り上げる話題は,道端でみかけた花,奈良のお祭り,秋の収穫,好きな日本食,ALTの国の遊び等で,朝の出勤中に考えるそうです。中学校では,英語の先生にアシストしてもらいながら,生徒がSmall Talk をする場面も出てきたようです。

 Small Talk の醍醐味は,自然な状況で使用される言語のインプットの洪水(input flood)に子どもを浸らせることができることです。本当に洪水だと流されてしまうので,先生は理解への足がかりを入れていきます。自然で短い話でありながら,Inputにさらにプラス1を意識して,タイムリーなトピック(here and now),ありふれた日常のこと(trivial matters),筋や引っかけ(plot, trick)などを入れていきます。子どもは,聞いて理解できるインプット(comprehensible input) だから,先生の表情とジェスチャー,聞いて分かる語彙などを手がかりに耳を傾け続けてくれるのでしょう。

 Small Talkの効用は,小学校では,授業で聞いたことのあるひとまとまりの表現(word combination),中学校では,習った表現やこれから習う表現を,まさにそれを使いたくなる状況で,生徒に明示的に聞かせることができる,ということです。言葉へアンテナを伸ばし,大まかな意味を掴む力を伸ばす取り組みになるとよいですね。

「ついでに…」指導者側の英語の力もいつの間にか伸びていくかもしれません。Let’s enjoy Small Talk!

柏木 賀津子 (かしわぎ かづこ)
大阪教育大学准教授。前任の奈良市教育委員会では,指導主事として,ハローイングリッシュ事業,奈良市小中一貫教育推進,小学校英語訪問研修などを通して,担任の先生のよさを活かす小学校英語活動に取り組んできた。子どもの第二言語習得における認知学習について研究を進めている。

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英語教育リレーコラム第19回
英語で授業―このあたりから始めてみては?
「英語を使ったImplicit(暗示的)でInductive(帰納的)な授業の勧め」 中井英民
「Teacher Talk を通したインタラクション」 青柳有季

「Small Talk で英語を聞かせよう 〜英語に耳を傾けて,子どもと子どもが向き合う瞬間〜」 柏木賀津子

 

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