先日,長野県下伊那郡のU中学校,T先生から次のようなお便りをいただきました(T先生は副校長職のかたわら,新任教師の指導もしておられます)。
…この新任教師をハッとさせる授業というこだわりと,オーソドックスでよいという自分の信条との狭間で悩んでいるとき,後関先生が「冗談の一つも言わない厳しい指導でいいんです」と言いつつ,「こういう経験があります」と紹介してくださったのが,『教室の前の教卓に登って言う"I
am standing on the desk."』という進行形の導入でした。これを実際やってみたところ,初任者も驚かせて,指導教官としてのプライドも保て,しかも生徒の表現の定着への手応えも感じることができました。…
実は,昨年,長野県下伊那郡の研修会でT先生と親しく懇談したことがT先生とのコミュニケーションの発端になり,お便りをいただいたのです。
まず,その時の対話です。
T先生: |
「どうしたら生徒を発奮させ,意欲的に授業に取り組ませることができるか」について新任教師にどう指導したらいいのか悩んでいます。 |
私: |
そういう時は,具体的に,動作を大げさに示して指導するといいと思います。 |
T先生: |
ちょうど今,1年生の現在進行形に入るところですが,どんな例がありますか。 |
私: |
私はかつて現在進行形の導入のとき,いわゆるsmall talkの続きでいきなり教卓に登ったことがあります。そして,颯爽と,"I
am standing on the desk."と叫んだのです。 |
T先生: |
えっ! 教卓に登るんですか? |
私: |
そうです。普段,生徒には「机に腰掛けるな」などと,マナーを厳しく教えていますね! ですから,先生が机に登るなんて生徒には想像もつかないわけですよ。そこで,先生がいわば突拍子もないことをして生徒をハッとさせ,その勢いで現在進行形の基本を教え込んでしまうというやり方です。少し荒っぽいことは承知の上ですが,私は,次いで"I
am sitting on the desk."と言って教卓の上に正座しました。さらに,教卓の上に座ったそののりで落語の小咄を一席やったら大うけでした。 |
T先生: |
なるほど… それは,生徒の関心を一点に集中させる一つの方法ですね。 |
私: |
面白いので,機会があれば,試してみてください。 |
その後,T先生はさっそく実践されたようです。
以下は,faxで送ってくれた指導事例のあらましです(授業者T先生の感想も掲げておきました)。皆さんはどのように感じられたでしょうか。
[現在進行形の指導事例]
[授業形態:日本人教師2名(指導員である筆者と新任教師JT 2)によるTT]
- JT 2に,「私の様子を見て反応してください」とだけ言っておく。
- 教卓の上に登り,"I am standing on the desk."と言う。
- JT 2が,私の様子を見て驚き,思わず"Get off the desk."という本音の言葉を出す(生徒ももちろん驚いた様子であった)。
- 机上でもう一回,"I am standing on the desk."と言う。
- 机から降り,「先生はどういうことを言ったと思いますか」との問いかけに,生徒が,「机の上に登る」「机の上に立っている」と答える。
- 「動作をよくとらえていてよい」と言いながら,もう一度教卓の上に登る。今度は机上ではっきりと止まって,"I am standing
on the desk."と言い,登る動作に焦点を合わせないようにする。
- 教卓から降り,"I am standing on the floor."と言う。
- "I am standing on the desk."について,口頭のドリル練習を行う。全員で繰り返し行い,スムーズに言えるようになったところで,個人で言わせて確認する。中には机の上によじ登ろうとするものもいるので制止する。
- その後,"I am standing on the desk."を板書し,現在進行形の文法的な説明を簡単に行ってから,文字を見せながら,簡単に口頭練習を行う。
[感想]
意表をついた動作だったので,生徒は文字通り目を丸くして注目していた。相棒のJT 2が驚いていたのを見て,打ち合わせ無しだったことが生徒にも分かり,それがさらに意表をついたようだ。口頭のドリル練習による定着はよかったように思われる。生徒たちは,授業後も私の顔を見ると,"I
am standing on the desk."と口にしていた。
後関 正明 (ごせき まさあき) 先生
東京都墨田区立中学校で教諭,校長を長年務める。その後,東京都滝野川女子学園中・高校で教鞭をとる。現在,NPO法人「ILEC言語教育文化研究所」常務理事。2003年より都内の私立大学で教職課程履修の学生を教えている。
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