フーンコラム 第59回 後関正明

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「三単現」の指導は難しい? その1

 夏休み明けの9月初めにH市のN先生から「三単現」の指導についてのメールをいただきました。要約すると,次のような内容でした。

 私は小規模校に勤務しています。1人で3学年を受け持ち,すでに4年が経ちました。各学年とも目玉となる文法事項の指導は大変なのですが,とりわけ1年生の三単現の指導には骨が折れます。今年もまたその時期がやってまいりました(NEW CROWNでは,Book 1のLesson 6 Assistance Dogsで三単現を学習します)。三単現の指導について,毎年悩むのですが,何かよい指導法はないものでしょうか。もちろん,Teacher’s Manualはよく読んでいます。しかし,とにかくなかなか定着しなくて困っています。

 そこで,小生は次のような返事のメールを送りました。

 確かに,三単現は日本人学習者には定着しにくい文法ですね。高2の生徒に英作文を教えたとき,三単現のsをおとす生徒が多いことに驚いた経験があります。こちらから指摘すれば,生徒たちはすぐ「ああ,そうだった」と言うのですが,それまでは気がついていません。三単現がしっかりと身についていないのですね。もっとも,「日常会話で三単現のsをおとしても,実際のコミュニケーションは成り立つので,それほど神経質になって教え込むこともない」という意見も一方ではありますが,まあ,それはさておき,私も苦労して三単現を教えた経験がありますので,その経験をもとに話してみましょう。

 私は,三単現のsについては,パターンプラクティス的な練習を何回も繰り返し行うことで,定着を図りました。そして,「ほぼ定着したな」と思ったときに,改めて三単現のルールを日本語できちんと教えます。すると,生徒もすんなりとルールになじみます。三単現のルールをはじめに説明するよりも,とにかく三単現のsが使われている英文を何度も聞かせたり,発話させたりして,覚えさせることが先決だと思っています。

 具体的には,次のように指導してみてはいかがでしょうか。

 I like music.
 You like music.
 Koji likes music.

まず,この3文を次のような手順で練習し,暗唱させます。
 @ [教師] (モデル)発話 [生徒] 聞く
 A [教師] 発話 [生徒] クラス全体でリピート
 B [教師] 発話 [生徒] グループまたはペアでリピート
 C [生徒] 先生のモデルなしの個人の発話

この練習は40人学級でも15分もあればできます。

 そして,先ほど練習した3文を基本にし,次のような練習に発展させます。

 @ 教師が自分を指して,“I play basketball.”と発話する。
 A 生徒に教師を指させて,“You play basketball.”と発話させる。
 B 教師がKojiの絵を黒板にはって指し,生徒に“Koji plays basketball.”と発話させる。
さらに同じ要領で,次の例文のように単語を変えて生徒に発話させます。
 I take pictures. ―― You take pictures. ―― Koji takes pictures.
 I live with a dog. ―― You live with a dog. ―― Koji lives with a dog.
 I help her. ―― You help her. ―― Koji helps her.

 以上の過程では,とにかく口を動かし,大きな声で発音するように指導します。私は,三単現についての板書をノートに写させることは一切しませんでした。ただひたすら発話をするだけです。そして,このようなパターンプラクティスにも似た方法で,本文にある三単現の文もすべて言えるようにしてしまうのが,私のやり方のいわば「ミソ」です。そのあとに教科書を開かせ,本文に入るわけですが,ここまでで約30分が経っています。しかし,本文の大部分が発話できるようになっているので,あとの20分で十分本文を定着させることができます。

 もちろん,題材内容も重要です。問題は,その説明をどこでどのようにするかですが,私の場合は,生徒を飽きさせないために,発話練習の途中で「介助犬」の話をはさみます。この段階では日本語で説明した方が,生徒は正確に理解すると思います。

 とにかく,三単現は日本語にない文法なので,生徒は戸惑いがちです。しかし,密度の濃い練習を,あせらずじっくりと重ねることで,だんだんと身についていくと思います。頑張ってください。

 このようにメールでお答えしたところ,さらにN先生から折り返しメールが入りました。来月は,その内容について書こうと思っています。楽しみにしていてください。

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後関 正明 (ごせき まさあき) 先生
東京都墨田区立中学校で教諭,校長を長年務める。その後,東京都滝野川女子学園中・高校で教鞭をとる。現在,NPO法人「ILEC言語教育文化研究所」常務理事。2003年より都内の私立大学で教職課程履修の学生を教えている。

フ〜ンコラムバックナンバー (第1回〜58回)

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