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授業通信
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ネット授業のすすめ

東京都北区豊島北中学校
永嶋 昌博

インターネットを授業に取り入れる
 私はアメリカ合衆国オハイオ州オルムステッド・フォールズ(Olmsted Falls)中学校とニュージャージー州メモリアル(Memorial)中学校と電子メールによる交流を平成5年から、およそ6年間にわたり進めてきた。インターネットを使って海外の中学生らと交流できたら、子どもたちは、これまで以上に英語をコミュニケーションの手段として意欲的に学習するだろうと期待した。というのもインターネットは、リアルタイムのメールの交換を可能にしてくれるからである。それに、文字ばかりでなく、画像や音声も送受信できるメリットがあったからである。

 平成5年当時は、まだ「インターネット」という言葉すら一般に知られていない時代だった。しかも、インターネットに接続するいわゆる「プロバイダー」なるものの存在すら見つけるのが困難な時代でもあった。当時は「パソコン通信」という形での通信するメンバーの限られたネットワークの中だけでのメールのやりとりしかできなかったのである。唯一、国際協力推進協会が運営していた「アピックネット」の存在をパソコン雑誌で知った。アピックネットは登録ユーザーの希望をうけて通信相手を紹介することもおこなっていた。私は「これだ!」と思い、早速入会してイギリスはスコットランドのアバジーン・グラマー・スクール(Aberdeen Grammar School)を交流相手校として紹介してもらった。ここでインターネットをとりいれた交流が始まったのである。

イギリス・スコットランド、アバジーン・グラマー・スクール
 アバジーン・グラマー・スクールは、日本でいう高校であったが、担当の先生が日本語学科の先生でもあり、奥さんが日本人であったことから、日本の中学生にイギリスの様子を伝える英文のメールを送ってくれた。ちょうどNEW CROWN(平成5年度版)3年生のLesson 6で、ロンドン・タクシーの話と地下鉄のチューブの話が出ていたときのことである。ロンドンのタクシー運転手になるには、難しい試験があり、しかも定員が決まっていてタクシーの運転手になるには大変であるという説明のメールをもらった。早速、このメールを授業の中で使ってみた。中学3年生でも理解しやすいやさしい表現の英語で送ってきてくれたので、子どもたちは目を輝かせて読みいっていたのが印象的であった。

 メイルにはさらに日本の中学生が驚く内容が書かれてあった。それは、長崎のグラバー邸で有名なグラバー氏がなんとアバジーン出身であるというのである。日本での彼の評価を聞かせてほしいといわれたのである。アバジーンでは、彼の生家を記念館としたいというのである。日本の子どもたちは、早速、グラバー氏について図書室で調べてそれらを英語に翻訳してメールを送った。こうした子どもたちの意欲的で積極的な学習態度は、異文化との直接の対話がなければうまれてこないと感じた。やはり、相手がいて、はじめて真のコミュニケーションを図ろうとする気持ちが湧いてくるのだなということを実感した。

オハイオ州オルムステッド・フォールズ中学校
 こうしたイギリスの学校とのはじめての交流が、次のアメリカの中学生との交流の土台になったことはいうまでもない。今度は、子どもたち同士が互いに友人として、コミュニケーションをスタートしたのであった。生徒同士の交流を円滑に進めるために留意したことは、アメリカの学校の先生とのまめなメールでの打ち合わせであった。お互いの生徒を各クラスごとに6つのグループに分け、グループ同士のメール交換からスタートした。はじめは、自己紹介からであった。(1) 部活動、(2) 趣味、(3) 家族、(4) 友達のこと、(5) 好きなスポーツ、(6) 好きな音楽など身の回りのことを中心に紹介し合った。子どもたちはパソコン室で一太郎等のワープロ・ソフトでメールを書き、それらをテキスト保存して取りまとめてアメリカの学校へ送信した。メールを書く上で必要な英語は、授業で学習した教科書の内容や表現を元にして活用した。さらにグループの中で生徒一人ひとりにそれぞれ分担を決めておき、辞書を調べる係、英文を打つ係など役割分担をした。

 電子メール以外に、生徒がパソコンのグラフィックソフトを用いて描いた日本文化を伝える絵を交換し合った。「鯉のぼり」、「正月」、「お餅」のことなど日本の伝統的な行事を中心に絵で表現した。それにメッセージをつけて絵はがきを作成しそれらを電子メールで送った。これはデジタルの絵手紙のようなものである。子どもたちは改めて日本文化の良さを再認識する機会を得ると同時にオルムステッド・フォールズ中学校のホームページに子どもたちのそうした作品が掲載されたことで、日本の生徒は大いに喜び、成就感を味わうことができた。

交流を長続きさせる秘訣
 こうして、アメリカの学校との交流が現在にまで至っているのは、教師同士の長いコミュニケーションがあったからである。オルムステッド・フォールズ中学校のBill先生とは、メイルの中でよく家族のことを話題にするが、写真をメールに付けて交換をしたこともある。また、パソコンで録音した声を送り合うことで、文字ばかりでなく音声も生々しく聞くことができた。子どもたちがそれを聞いたときは、「これがあの友達の声か!」と興奮して目を輝かせていたのを昨日のように思い出す。

 またインターネットによるやりとりばかりでなく、ビデオレターも交換した。お互いの生徒が自分の学校の様子をビデオに撮り、それを航空便で送ったのである。グループごとに自己紹介したビデオを送ったところ、オルムステッド・フォールズからは、クラス全員で「Hello!」と彼らの笑顔と元気な声のビデオが届いて日本の中学生はさらに親近感を覚えたのである。

 このように、様々な手段を用いて交流に変化を付け、幅の広いものとしてきた。最近では、Bill先生とインターネット電話を使って、国際電話をする実験をおこなった。これは無料で使えるもので、「Fire Talk」というソフトをパソコンにインストールしてマイクを使ってお互いに話をするのである。これならまさに、電話感覚で会話ができるのである。日本とオハイオ州の時差は14時間あるので、あらかじめメールで曜日と時間を決めておいた。次は授業の中で活用してみたい。

 オルムステッド・フォールズの生徒たちは、ほとんどの家庭にインターネットが入っているので、各自が家からアクセスして「Fire Talk」で話をすることができるという。後述するメモリアル中学校のJoe先生とも、いずれ近い内にこの「Fire Talk」で音声によるコミュニケーション実験を行う予定である。3分10円の市内電話料金で、国際電話と同じ感覚で使えるのは素晴らしいことである。このソフトは、無料でダウンロードできるもので、利用するに当たっては、パソコンにインストールするときに登録が必要である。これは、メールで登録するのだが、パスワードとニックネームが自動的にメールで送られてくるのでそれを使って利用することができる。生徒のコミュニケーション能力を育てるにはまず、教師が自らが積極的にインターネットを活用してコミュニケーションをとることが必要であろう。

ニュージャージー州メモリアル中学校
 その他の試みとして、インターネットを使ったチャット実験を行った。これは文字による会話である。時差があるため、予め開始時刻を協議しておき、お互いに生徒が文字で「おしゃべり」をしたのである。「Hello!」と打つと「Hello!!」と返事が文字でパソコンの画面に表示されると「本当にこれはアメリカから送られてきている文字なの?」と生徒も感動を覚えずにはいられなかった。電子メールとは違ったさらに高度なリアルタイムのコミュニケーションである。まさに「対話」そのものである。この実験は、メモリアル中学校の生徒とおこなった。生徒がチャットをしている様子を撮影した写真が、数分後にメイルで送られてきた。たった今終わったばかりのチャットの様子を伝えるデジタルカメラによる写真が、アメリカからメールで送られてきたのに、生徒は驚きの声を上げていた。

 また、メモリアル中学校の生徒たちは、英語の俳句をメールで送ってきてくれた。俳句といっても日本のように五七五ではない。いわゆる自由詩のようなものである。ただ、季節を表す単語や表現をとっているところが俳句といえるかもしれない。メモリアル中学校のJoe先生の話では、少ない単語を用いて、自分の見たものや感じたことをどのように表現させることができるか、表現力を高めるのに俳句は絶好の教材であるといっている。メモリアル中学校の生徒の俳句作品は、本校の文化祭の折りに、大きく拡大して廊下に掲示して日本の中学生にも紹介した。

インターネットと子どもたち
 インターネットを利用することで実際に授業で習った英語を実践的に使う場が生まれ、生徒の英語学習に対する興味関心が飛躍的に向上した。これまでの英作文指導では、相手に伝えるコミュニケーションの場という実感と認識を生徒にもたせることがなかなかできなかった。しかし「パソコンの向こうに人がいる」という感覚がもてるようになったことで、英語はコミュニケーションの道具となるものである、役に立つものであるという感覚をもつ生徒が増えた。国が違っても、学校のこと、部活動のこと、趣味のことなど日本の生徒とあまり変わらないということがわかったことも大きな成果の一つであった。

 こうした意味からもインターネットは英語の授業を活性化させ、生きた英語を学ぶ場を子どもたちに与えてくれる素晴らしい道具となる。また、ネット上のエチケットを身につけさせる機会でもあり、相手の立場を理解し思いやる気持やお互いの文化を尊重する心なども育てる上でも絶好の場となる。このような素晴らしいインターネットという手段を、今後もますます英語の授業の中に取り入れて活用していきたい。

今後の展開
 今後インターネットを利用した授業では、学校間の交流を長期間継続させ、さらに発展させる上で、共同プロジェクトを企画することが必要になるであろう。テーマを設定し共同学習や調査、アンケートを実施することでお互いの共通意識を深めることが重要である。例として「いじめ」に関するお互いの生徒の意識調査をアンケート形式で実施したが、ここでは「いじめ」に対する両国の認識の違いが浮き彫りにされ、子どもたちは「いじめ」について改めて考える良い機会を得た。このようにインターネットを活用して、英語だけの授業にとどまらず、様々な教科と関連付けながら横断的な授業の組み立てが必要になってくるだろう。

 また教科書の題材をきっかけに、豊富なインターネット上の情報を利用して授業を展開することも大いに考えられるだろう。例えば、NEW CROWN 3年生のLesson 6、I Have a Dreamでは、インターネットでキング牧師に関する様々な情報を見つけることができる。(例えば、THE MARTIN LUTHER KING, JR. PAPERS PROJECT STANFORD UNIVERSITY が挙げられる。)教科書の題材を発展させていく調べ学習では、インターネット上の検索機能を大いに利用したい。

 インターネットを利用した授業の展開は様々に考えられる。コンピュータの技術的な修得も平行して、フリーソフトやチャット、インターネット国際電話サービスなどを利用しながら、インターネットを意欲的に活用していってもらいたいというのが私の願いである。

(参考HP:豊島北中学校


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