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授業通信
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「アメリカ公民権運動の歴史とキング牧師」 ―生き方につながる授業をめざして―

福岡県穂波町立穂波西中学校
糸山 京子

はじめに
 生徒と授業をつくっていくことを考える時,「心に響く授業」をすることができる題材と出会えるということはとても大切なことです。現行の教科書の中には,「心に響く授業」をつくりだすことのできる,人権・平和・環境・国際理解などの題材がたくさんあって,わくわくしてしまいます。
 アメリカ公民権運動のリーダーであったキング牧師を扱っている三省堂NEW CROWN 3,LESSON 6 ‘I Have a Dream’も,そのような題材のひとつです。キング牧師や共に歩んだ人々の生き方は,非暴力・不服従の考え方で差別と闘った彼らの思いや団結のすばらしさ,そしてその行動力について教えてくれます。

ALTの協力を得て
 これまで3年生を担当した年は,卒業後の生き方に結びつけてほしいという気持ちから,‘I Have a Dream’を題材として取り上げてきました。現在わたし達の地域ではNEW CROWNが教科書として採択されていますが,そうではなかった時も,「アメリカ公民権運動の歴史とキング牧師」は,卒業前に紹介し一緒に学習をしてきましたので,もう何度も生徒と一緒に学習したことになります。
 その中で,今回紹介するのは,あるALTご夫妻の協力によって実現した実践例です。
 協力をしてくれたのは,町のALTとして中学校に常勤していたシカゴ出身のビクトリア先生(白人)とその夫のジョンさん(アフリカンアメリカン)です。「アメリカ公民権運動の歴史とキング牧師」の授業計画を話し,二人で授業に参加し生徒の質問に答えてほしいというお願いをすると,「差別と闘っている自分達が,多くのことを伝えていくことが,差別を身のまわりや世界からなくしていくことになるから」と言って快く引き受けてくださいました。

指導計画とポイント
 ジョンさんとビクトリア先生との授業を含む,今回の「アメリカ公民権運動の歴史とキング牧師」の授業は,

(1) ビデオ『EYES ON THE PRIZE』と,プリントを使ったアメリカ公民権運動の歴史学習

(2) ビデオ「キング牧師」(『知ってるつもり』)と,歌‘We Shall Overcome’‘MLK’などの授業

(3) ビデオ‘I Have a Dream’と教科書の内容の学習

C ジョンさんへの,班ごとの質問づくり

D HUMAN RIGHTS LESSON WITH JOHN AND VICTORIA

E 授業のまとめと感想


という計画で,進めていきました。
 授業では,視聴覚教材を積極的に利用し,アメリカ公民権運動の歴史やキング牧師に関するビデオ,運動の時に歌われた歌やキング牧師に捧げるためにつくられた歌などの紹介をすることによって,生徒達の理解を深めていくことにも力を入れました。((1)〜(3))
 また,音楽と英語の教師二人で授業をおこない,「世界を変えた歌」といわれる‘We Shall Overcome’が作られた過程を学習し,歌詞の意味説明・歌唱指導をするという異教科間連携T-T授業を試みました。((2),授業案はこのページの最後にあります)
 事前の質問づくり・質問者の決定・質問の仕方の練習(C)は,班単位でおこないました。質問の内容については,ビクトリア先生からジョンさんにあらかじめ伝えてもらいました。

<ジョンさんへの質問の一部 (原文のまま)>

・ Have you ever been discriminated?
・ How do you feel that you were born as black people?
・ Do you hate white people?
・ Were your and Victoria sensei's parents against your marriage?
・ Would you tell us your school life?

HUMAN RIGHTS LESSON WITH JOHN AND VICTORIA(授業案はp.4を参照)
 ジョンさんとビクトリア先生との授業は,学年3クラス全員が視聴覚教室に集まり学年合同授業の形でおこないました。これは学年全員が同じ空間と時間を共有することができたというすばらしさがあったと思います。
 授業は,JTE二人と,ALTであるビクトリア先生と夫のジョンさんでおこない,ほかにも学年の教師が一緒に参加しました。
 三日後に帰国することが決まっていたこの日のジョンさんは,アメリカでの差別との闘いがまた始まるという思いから,非常に神経質になっていると話されました。最終の打ち合せの時にも,「生徒の中にひとりでも笑ったり,いいかげんな態度をとるものがいたら,自分は授業を続けられないだろう。なぜならこれはぼくの現実であり心からの叫びだから」と自分の気持ちを話され,生徒にもそのことを伝えました。
 授業の前半でジョンさんは,キング牧師のことを尊敬していると話され,‘I Have a Dream’のスピーチの一部を実際におこないました。

<二人の現実>
 授業は生徒達の質問にお二人が答えていくという形ですすめました。生徒達の質問に対して,ジョンさんとビクトリア先生は,自分達の経験を話しながら次のようなことを答えました。

Q:どんな差別を経験したのですか。
 ・黒人である自分がお店に入ると周りの人たちが買物をやめてじろじろと見ます。黒人は盗みをするのではないかと疑われるのです。
 ・自分たちのような黒人と白人のカップルが一緒に買物をしていると,なぜ一緒にいるのかと非難されます。
 ・友達とお酒を飲みにいった時に,自分ひとりだけが黒人だという理由で,銃を持っていないかどうか体中を調べられました。両手を壁につかされて,とても屈辱的でした。その後,その店には,正式に抗議しました。
 ・アパートを借りるときにも黒人のわたしには空き部屋はないと言っていたのに,白人のビクトリアが聞いた時にはあると言われたこともあります。二人で行くと断られたこともありました。
Q:二人の結婚は反対されませんでしたか。
 ・ビクトリアの両親は,ぼくたちの結婚をとても喜んでくれました。
 ・ジョンの両親は,最初反対していましたが,時間とともに,理解を示してくれました。今ではとても喜んでくれています。
 ・黒人の方が反対することが多かったです。なぜ差別をしてきた白人と結婚しなければならないのか,というのがその理由です。

Q:黒人に生まれたことをどう思いますか。
 ・自分は黒人であることに誇りを持っています。すべての人に自分に誇りを持ってほしいと思っています。

Q:あなたは白人を憎いと思いますか。
 ・白人を憎んだりはしていません。私達が憎まなければならないのは差別です。

Q:あなたの夢は何ですか。
 ・自分たちの子どもやすべての子どもたちが,差別に苦しむことなく心穏やかに平和に過ごすことができる世の中をつくることです。人の心から差別が無くなることが私達の夢です。


 「どうしたら,黒人と白人そしてぼくたちが一緒に手と手を取り合って歩むことができるでしょうか」という質問に,ジョンさんは,「今日のような授業をしていくことだと思う。このような話をしていくことが大切だと思う」と答えました。
 授業の最後に,参加者全員で手を交差させてつなぎ,‘We Shall Overcome’を歌いました。ジョンさんとビクトリア先生も生徒の間に入り一緒に歌いましたが,涙ぐんでいました。

<生徒の活動と思い>
 この授業を生徒たちとつくっていく中で,一人ひとりの思いに触れる場面がたくさんありました。

 “I respect Mr King. How do you feel about him?”
と質問したS君は,この英語を覚えるために,クラスの友達と練習し,家には英語を吹き込んだテープを持ち帰り,何度も練習してきました。本番では,緊張しながらも,一語一語をはっきりと話すことができました。

 Kさんは,「先生,ジョンさん差別に負けんでがんばりよるっちゃろ。わたしも,質問する時に,世界中から差別をなくしたいって自分の思いを伝えたい。」と,
“I hate discrimination. I want to make no discri-mination world.”
と気持ちを話すことに決め,当日の朝も早く学校に来て,班のみんなと協力して繰り返し英文を覚えていました。その様子を見ていると,学年全員の前で,自分の思いについて,しっかりと話をするんだという気持ちが,伝わってきました。

 また,Mさんは,ジョンさんとビクトリア先生へのお礼の言葉の最後に,
“Our dream is to stop all discriminatio-ns from our hearts all over the world.”
と言って,ジョンさんとビクトリア先生に色紙をわたしました。ビクトリア先生は,その言葉を聞いて,「お互いアメリカと日本と住む場所は違うけれど,思いは同じです。世界中から差別をなくすためにも,差別があることを許さず,差別と闘うことに誇りを持ちましょう」と言いました。

授業後の生徒たちの感想

 ・ジョンさんが,うったえていることを,ぼくたちも同じように受けとめた気持ちがしています。
 ・これからは,未来に向けて私たちが差別をなくす運動をおこなわなければならない。
 ・ジョンさんとビクトリア先生は自分たちで行動していてすごいなと思う。
 ・オレは,運がよかったと思う。なぜって,もしもっと先に生まれたり,もっと後に生まれたりしていたら,ジョンさんやビクトリア先生に会えていなかったから。そして,キング牧師のことを知らないまま死んじゃったかもしれないから。キング牧師みたいな人になりたいと授業をして思った。


 このように,授業後の生徒の感想には,キング牧師についてのことや,これからの自分たちの行動のこと,ジョンさんの強さについてのことなどがたくさん書いてありました。

おわりに
 現在わたし達の地域では,教科の授業のなかに,教科書の内容や学校行事と関連づけて人権教育,平和教育等を入れていくという取り組みをいくつかおこなっています。たとえば,私自身が取り組んできたものとして,キング牧師についての授業や環境問題についての授業,そして修学旅行でのピースメッセージの交換とその後の交流,ユニセフについての学習や英語の歌を通しての人権学習や平和学習などをあげることができます。
 教科の授業の中で,生徒自身が,生き方に何かつながるようなものを見つけ,それが自分と結びついたとき,生徒はもっと学習したいと感じていきます。何かの授業がひとつのきっかけとなって,生徒たちが,しっかりと,人権について,世界について,考えていけるようになることが真の「学力」であり,生徒自身の生き方へとつながっていくものであると信じて,今後も授業実践に取り組んでいきたいと考えています。

<授業案>

【アメリカ公民権運動とキング牧師の授業−視聴覚教材について】

ビデオ
・『EYES ON THE PRIZE勝利を見すえて―アメリカ公民権運動の歴史(1954年〜1965年)』
(アメリカPBS放送,海外事業活動関連協議会企画, 1987)
・「キング牧師」(FBS<日本テレビ系>『知ってるつもり』1992)
・『世界を変えた歌‘We Shall Overcome’』
      (ジンジャーグループプロダクション,アメリカ, 1988)
・『市民の20世紀−新たなる解放・人種差別との闘い』(BBC・WGBH)
・『黒人差別と闘った牧師−マーチン・ルーサー・キングの生涯』(ゼノン,1997)
・演説‘I Have a Dream’ 1963年ワシントン大行進でのスピーチの映像
・ドラマ『怒りを我らに』(ビッグアップルフィルムズ, 1994)
・映画『ロング・ウォーク・ホーム』(松竹株式会社, 1990)
・映画『ガンジー』(ソニーピクチャーズエンターテイメント,1982)
・映画『マルコムX』(CIC・ビクタービデオ株式会社,1992)

英語の歌
・Pride[IN the Name of Love] / MLK, U2『魂の叫び』(CIC・ビクタービデオ株式会社) (ライブビデオ。ビデオにはキング牧師の映像も映し出される)
・We Shall Overcome, Pete Seeger, ‘GREATEST HITS’
・People Get Ready, Free at Last, Al Green, ‘GOSPEL’
・Happy Birthday, Stevie Wonder, ‘Hotter Than July’
      (アルバムの中には公民権運動の写真やキング牧師に対する思いが入っている)


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