三省堂 英語ホーム > 高等学校英語 > 『三省堂高校英語教育』 > 2005年 夏号 授業展開例[1-2] | ||||||||||||||||
静岡県立浜松西高等学校 山下 巌 3.『CROWN English Reading』を用いた分析法の実践例と授業への導入 『CROWN English Reading』は、大学入試突破の支援を前提に編集されてはいるものの、各課で扱われる素材は、17、8歳の高校生の知的成熟度に合致し、多感な若者の知的欲求を刺激するものが選ばれている。そのため単なる受験指導を超えた、英語による読解技術を指導するのに適している。ここでは、Lesson 2のSection 1を例にとり、その語彙的結束性に注目してテキスト分析を試みたい。 やや見にくいかもしれないが、下図のようなlexical chainが浮かび上がって来る。 つまり、Rene Magritteの芸術が目指す日常性の中に見え隠れする非日常性の指摘が、文中に使用されている単語や語句のlexical cohesionにより、見事に浮き彫りにされてくるのである。一方でeveryday, common, familiar, taken for granted, of course, real objectsなどの日常性を示す同義語が使われ、他方これと対立するようにa sense of mystery, dreamlike images, ambiguitiesなどの語がcohesionを形成し、その具体例としてcastles in the clouds and people made of stoneが例として挙げられている。この「妙なる非日常性」を提示するためにRene Magritteが取った行為が、challenge, force, explore, experimentといった、同義語あるいはそれに近い意味を暗示する語で描写されている。そして、彼の芸術を目の当たりにした読者あるいは鑑賞者は、confuseさせられ、その常識をrearrangeすることにより、今まで見えなかった非日常性に遭遇するという図式が見て取れるのである。この日常・非日常の二項対立を含んだ論理は、最終的に『パイプの絵』のThis is a pipeとThis is not a pipeというウィットに富んだ絵画の解釈が提示される結論部分へと集約されてゆく。以上見たようにcohesionを指摘し分析することにより、テキスト自体の構造や構成法が明瞭に浮かび上がってくるのである。 さて、こういった分析を授業に活用するにはどうすればよいか。いや、むしろ、このような分析が完了した時点で、授業方針は決定されたも同然である。ここではその展開例を簡単に記して拙稿を閉じたい。 (1) (2) (3) (4) (5) 同様の分析を行ってみた場合の生徒の反応はすこぶるよかった。特に本テキストが採用されることが多いと思われるレベルの学校の生徒は、知的好奇心や探究心が旺盛で事象を分析することに大きな関心を示す傾向にある。そのような意味においては、単なる和訳と日本語による説明一辺倒の授業よりは、刺激的であるように思われる。もしうまく答えが出ないことが想定される場合には、ペアーや3、4人のグループによる共同作業で授業を進行させることも可能ではなかろうか。 授業方法の面においても、単に一文一文和訳させるといった古典的訳読法にのみ依存する訳ではなく、総合的な読解力の向上を目指し、英文の内容を詳細に説明することに重点を置き、生徒のcontent-schemaの拡大へとつなげてゆくことも可能となってくる。したがって、inter-sentential analysisを活用し、文と文との関係を明らかにし、パラグラフやチャプターのマクロレベルでの論理構成や文章展開法を明らかにする方法も生徒に示すことが可能となってくる。そうすることで生徒は、テキストの中でどこがポイントでどこがノイズの部分なのかが判別でき、精読すべきところとそうでないところを見抜いてゆくのである。テキスト中に潜在している語彙的結束性を発見しそれらの論理関係を整理してゆくことは、テキストの読解に必要な推測や背景的知識(Schema)の活性化を通じて行われてゆく。また結束性を捉えるヒントとなる発問は、教師の念入りな教材研究と生徒のトラブル ・スポットを予測することを通して考え出されるので、単なる和訳と比べ、生徒の理解度を確認するための、より有効的な方法であるといえる。
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