三省堂 英語ホーム > 高等学校英語 > 『三省堂高校英語教育』 > 2005年 夏号 授業展開例[1-1] | ||||||||||||||||
静岡県立浜松西高等学校 山下 巌 1. はじめに 検定教科書を用いた「リーディング」の授業は、問題集を使用した実践的長文読解演習とは一線を画し、文単位の分析や文法解説よりもテキストの内容や要点・概要の全般的な把握に重点が置かれるべきである。したがって、授業内容は、英語学習的な色合いや受験指導のみに終始するのではなく、英語による読書への入門を意識して吟味される方が望ましい。 本稿では、検定教科書を使った「リーディング」の授業活動を通じて、受験英語学習を単なる受験目的だけに終わらせることなく、生徒のリーディング力全般を向上させる方策について考察してみたい。
2. 語彙的結束性(Lexical cohesion) では「リーディング」において、各課の内容に重点をおいた授業活動を展開するためには、どのようなテキスト分析装置が考えられるのであろうか。本稿では、テキストの結束性(cohesion)、中でも、特に語彙的結束性(lexical cohesion)に注目したい。そもそも結束性とは、テキストを単語や文の単なる機械的な羅列ではなく、なんらかの目的のために組織化された文の集合体とせしめているものと考えられている。つまり、単語の集まりをある意味を持った文としている規則をいわゆる統語法とするならば、文の集合体を単なる文の集まりではなく意味を持ったテキストたらしめている指標を結束性(cohesion)と呼んでいるのである。結束性に関する研究はHalliday & HasanのCohesion in Englishに詳しく述べられている。それによると、テキストの結束性は、文法的結束性(grammatical cohesion)と語彙的結束性(lexical cohesion)に大別され、両者とも更に幾つかの下位範疇からなる結束装置(cohesion devices)に細分化されている。語彙的結束性は、単語の繰り返し(repetition)と関連語(collocation)により発生し、繰り返しは更に以下のような下位範疇からなっている。 (1)繰り返し(reiteration) b. 同一語(same item)によるもの c. 一般語(general item)によるもの d. 同義語(synonym)によるもの (2)関連語(collocation) 結束性のうち文法的結束性は、基本的には意味的連関の上に成り立っているとはいえ、形式や文の構造と深く関係しており、読解過程においてはボトムアップ型処理と結びつきやすい。それに対し、語彙的結束性は、単語や語句の意味に基づいて形成される。したがって、テキストの構成単位のつながりを意味の面から明示する言語学的な情報の1つであり、そこから全体のテキスト構造を知る手がかりとして利用することができる。そのためトップダウン型処理の読解過程の援用を促すのである。換言すれば、語彙的結束性は、文と文との表層的関連性を分析するツールとして重要な役割を果たし、パラグラフを構成する文と文との意味連関を明示することにより、パラグラフの主題がどのような構造を持っているかを表出するのである。 したがって、文を単位とする文文法による英文解析の指導だけでは、学習者にとって文と文の有機的なつながりやパラグラフを構成する連続した文を一つの論理的な流れの中で正確に読む手助けとはならない。それに対し語彙的結束性に注目し、パラグラフリーディングの手法に基づいた読解指導を行うことは、文と文やパラグラフとパラグラフの主題どうしの意味連関を明らかにし、テキスト全体の構造の型や情報構造を把握し、その結果テキストの内容を正確に理解するのに大いに役立つのである。
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