東京学芸大学教育学部附属高等学校 渡辺 聡
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1. 全体的な傾向
形式(出題、設問)、内容は全体的に昨年度と変わらず。全体として基本的な問題が多く、難問はない。しかし、まぎらわしい設問選択肢がいくつかあるのと(これは例年同様)、長文問題文の総語数が増加したため平均点は昨年よりダウンした。
コミュニケーション能力と正確な読解力が問われる内容が一段と顕著になっている。
コミュニケーション能力では会話の中で音声の強弱を判断する能力(第1問B)、対話の流れを正確に読み取り、補う能力(第2問B)、会話の内容からわかる情報を的確に引き出す能力(第5問)が例年通り求められている。
また読解力では文章の構成を論理的に思考する能力(第3問)、図表をもとに文章を正確に読み取る能力(第4問)、登場人物の心境も考えあわせ、物語の筋や流れを正確に追いながら長文を読み取る能力(第6問)が試される。いずれも文章の全体的な流れをつかんだ上で的確な情報を得る日頃の学習姿勢が問われるものである。
長文問題(第4問、第5問、第6問)の総語数は昨年度より約1割増加している。しかし内容は全般的に素直で読みやすく、生徒の身近な話題を取り上げているため、難易度はそれほど変化がないと思われる。
全体の流れとして、長文問題文の総語数の増加には注意を払う必要があろう。ただ、総語数が増えても設問自体が難しくなっている訳ではないので、あまり神経質になり過ぎる必要はない。
2. 具体的内容分析
実際に出題された問題は、大学入試センターHP(http://www.dnc.ac.jp/)を参照されたい。
<第1問>
形式、配点ともに昨年度と変わらず。
A アクセント(4点)
文脈の中で単語のアクセントを問う問題。例年出題されていたカタカナ英語のアクセントは出題なし。ただし昨年度出題されなかった品詞によりアクセントが異なる位置にある単語は復活した。いずれにせよ基本的な頻出語が出題されている。
B 文中での単語の強勢(12点)
会話の流れや前後の発言内容からポイントとなる語を判断する問題。対照・対比されている事項や、対話の中で新たに出てきた事柄が何であるかを読み取る能力が問われる。
<第2問>
形式、配点ともに昨年度と変わらず。
A 文法、語法、語彙(20点)
文法、熟語、構文、語彙能力を判断する問題。文法では動詞の形(自動詞と他動詞[問6]、態[問7]、仮定法[問10])が出題され、特に仮定法は頻出事項である。語自体の定義問題は減少し、文脈やコロケーションの力を併せて要求する問題が目立つ。単なる文や単語レベルのルールだけではなく、実際のコミュニケーション活動において出てくる表現を出題する意図がますますうかがえるようになってきた。
B 対話文完成(6点)
対話文を完成させる問題。基本的な会話特有の慣用表現を理解し、全体の文脈の流れをしっかりつかむ力が試される。特に、英語特有の表現(mind[問1]、否定疑問文[問2])で、日本語的な発想では誤りやすいものは必ず押さえておきたいポイントである。
C 語句整序(12点)
文法事項(関係代名詞の省略、仮主語とto不定詞、動名詞)を使って意味の通った文を作る問題。文法とともに文脈を理解した上での語句と語句のつながりを考える能力が問われる。
<第3問>
形式、配点ともに昨年度と変わらず。
A 接続語補充(6点)
文と文をつなぐ語(句)を選ぶ問題。空所の前後の文脈を把握し、順接や逆接、理由、譲歩、要約等のつながりを正しく理解し、論の展開がどのようになされているのかを読み取る力が問われる。
B 文整序(10点)
短いパッセージの中で文を適切な順に並びかえる問題。空所の前後の文脈を理解してから解くことになる。選択肢の文中の代名詞や指示語が何を指すのか、また、ほぼ同じ意味の単語がどのように言い換えられているか(claimとsuggest[問1]、sickとdisease[問2])をヒントにしてから全体の流れを押さえることが大切となる。
C 適文補充(18点)
冒頭に示された文を段落のどちらかの場所に一つずつあてはめる問題。
選択肢の文中及び挿入箇所前後の代名詞や指示語、接続する語(句)に気をつけ、論が正しく展開するよう当てはめてゆく。その際、挿入する前後の部分的な箇所だけにとらわれるのではなく、全体の流れを十分に把握して読み進める必要がある。語句レベルでの表現の言い換え(lifestyle
changes [31] とchanged their regular daily activities[本文16〜17行目]、forget
the common belief that you have to suffer [32] とneed not be uncomfortable[本文8行目]等)を読み取る力も欲しいところである。
<第4問> (35点)
図表読み取り読解。問題の総語数は昨年度より約40語増加。解答数、配点はともに昨年度と変わらず。
図表を参考に、展開される論から的確な情報を得る力を問う問題。例年通り、3〜4項目が比較対照される説明文になっている。図表があるといっても、あくまでも本文を正確に読み取る力が基本となる。計算をして答えを導く問題は出題されていないが、図表読み取りの力は依然要求される。
また、正誤問題(問4)では、本文では間接的にしか述べられていない箇所を読み取らなくてはならない所が問題を難しくしている。
<第5問>(32点)
会話文読解。問題の総語数は昨年度より約60語増加。解答数、配点はともに昨年と変わらず。ただし、昨年度イラストを使って答える問題数が1問に減ったが、今年度は2問に復活。また、昨年度新たにできた代名詞が指す内容を問う問題はなくなった。
空所補充は基本的な会話表現が入る場所を問う問題。前後の文脈がわかれば問題はないであろう。イラストを選ぶ問題では本文の途中で選んでしまうことのないように。ある一文だけで判断すると過った答えを導いてしまう可能性も。一つ一つの事項を最後まで順を追って確認していく慎重さが要求される。
内容一致問題では、本文を読み進めながら述べられている内容を正確につかむことが大切である。
<第6問>(45点)
長文読解。問題の総語数は昨年度より約100語増加。解答数、配点はともに昨年度と変わらず。
物語文を読んで質問に答える問題と内容一致問題の2種類。物語ではあるが、時間の経過に伴う場面展開の把握に注意する必要がある。今年度は登場人物の細かな心情は問われなかったが、会話や話の展開からより深い読み方ができる力は養っておく必要がある。また、正解の選択肢は本文に載っていない単語(表現)で求められる場合も多いので、基本的な類義語力も必要である。
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