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三省堂 英語ホーム > 高等学校英語 > 『三省堂高校英語教育』 > 2002年 秋号 コーパスを活用した辞書編集(2)

三省堂高校英語教育 2002年秋号
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コーパスを活用した辞書編集 ―『ウィズダム英和辞典』刊行にあたり―

徳島大学      井上永幸
京都外国語大学   赤野一郎

2.コーパスで何が変わるのか
(1) 使用頻度に基づく記述
 辞書編集にコーパスを活用する最も大きな利点は頻度に関する情報を得られることであろう。語義配列や用例の提示を使用頻度順で行えば、検索ヒット率の格段の向上が期待できる。語義配列に関しては、例えば、kid の項目の第1語義は「子ヤギ」ではなく「子供」となり、want の項目では、want apple juice のような直接目的語を従える用法ではなく、want to do や want A to do といった to不定詞を従える用法が第1語義となる。一方、用例の配列に関しても、world の項目では、the rest of the world というコロケーションに始まり、the world’s longest bridge や the longest bridge in the world といった最上級を含む用例、from all over [from around, from all around] the world や around [all over] the world などのコロケーションを含む用例が続くことになる。

 また、頻度の情報に基づいて、高頻度の語は記述を厚く、低頻度の語は記述を薄くという方針で記述量を見直せば、ユーザーの求める情報をバランスよく記述してゆくことが可能となる。


拡大イメージ (60KB/jpg)

例えば、句動詞は日常英語で頻繁に用いられているのにもかかわらず、日本人英語学習者が不得意とする表現形式のひとつである。これは学習英和辞書などにおいて用法の記述が十分でなく、活用のための情報が少なすぎるといったことも要因であろう。頻度の高いものには積極的に用例や語法情報を与えてゆけば、こういった状況も改善することができる。get back の項目では、次のような記述 (右図) が可能になる。


(2) きめ細かな語法分析
 日本の学習英和辞書は語法情報が非常に詳しいことで定評がある。ところが、これらの記述は主に英米の辞書や参考書、学術論文の記述によるところが大きい。これは見方を変えれば、依拠された語法解説は辞書に盛り込まれるが、それ以外の言語事実は見過ごされてしまうことにもなりかねない。ひいては、どの辞書を引いても同じような解説しか見られないといった状況をも生み出すこととなる。

 『ウィズダム英和辞典』では、最新のコーパス言語学の方法論を導入し、日本人英語学習者が知りたい語法情報を取り入れるとともに、従来の語法記述を再検討してより正確で実態に即した語法記述を心がけた。as if の項では、「as though も as if と同様に用いるが、頻度は as if の3分の1にも満たず、どちらかというと《米》より《英》で好まれる」、ask の項では、「ask B〈質問〉of A〈人〉の文型は《かたく》だが《まれ》ではない.特に B を主語にした受け身は B is asked A より B is asked of A の方が普通」、because の項では、「because 節だけでなく主節の内容にも焦点をおきたい場合、主節を文末におくため because 節を文頭に移動することもあるが、こういった語順は全体の1割にも満たない」といった具合である。

 また、コーパスはシノニム情報の提示にも格段の効果を発揮する。alive の項では、living との違いを明確にした下記 (右図) のような記述が可能となる。

 さらに、今回初の試みで、従来から学習英和辞書で行われている動詞・形容詞・前置詞の選択制限表示に加えて、副詞に関しても動詞との選択制限表示を与えることができるようになった。straight の項では、「すぐに、直接〈行く・来る〉」、squarely の項では、「真正面に、まともに、直接〈見る・向けるなど〉」といったように、それぞれの副詞の訳語と共起する典型的な動詞を示すことによって、似た訳語を含む副詞であっても、細かいニュアンスの違いが把握できるようになっている。

(3) 生活英語の重視

 学校教育でのオーラルコミュニケーションの重視、急増する海外留学、インターネットの普及に代表されるグローバルな社会情勢など、日常生活を生き抜くための英語に関心が集まるのは当然の成り行きといった状況である。こういった事情をふまえて、日常生活語彙を収集するための独自のコーパスソースを加え、これまで辞書から漏れていた語義・用法の充実を図った。特に、日常会話でよく用いられる定型句については、語用論的解説を添えて積極的に採用した。roll up の項目では、「roll one’s sleeves up 袖をまくり上げる( 難解・不快な仕事を始める前の典型的な動作)」、breakfast の項では、「Breakfast in bed tomorrow for you. 明日は朝食を寝床に持っていってあげるわ(breakfast in bed は大事にされることや贅沢の象徴としてしばしば用いられる)」などである。高尚で文学的な用例に偏ることを避け、実際の生活に根差した実用的用例を与え、高校生にとって分かりやすく、また使いやすい用例を目指した。

(4) 使用域レーベルの吟味

 従来の英和辞典も、主に海外ESL/EFL辞書などの Informal / Formal / Spoken / Written といった表示を参考にして使用域レーベルを表示していたが、『ウィズダム英和辞典』では、コーパスに基づいてこれらの表示をさらに使いやすい形に見直した。それぞれ、 《くだけて》/《かたく》/《話》/《書》といった直感的な表示を用い、場合によって《くだけた話》や《かたい書》といった複数の使用域を組み合わせた表示を用いるなどして、きめ細かく実態に即した表示を行った。above の副詞用法の項、you の項の成句 You(,) too.では、それぞれ下記のような記述を行っている。

3.おわりに

 以上、使用頻度に基づく記述、きめ細かな語法分析、生活英語の重視、使用域レーベルの吟味の観点から『ウィズダム英和辞典』をご紹介した。ご利用いただいた皆様からのご意見・ご助言を賜れれば幸いである。

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