三省堂 英語ホーム > 高等学校英語 > 『三省堂高校英語教育』 > 2002年 秋号 理想の教科書(2) | ||||||||||||||||
東京大学 山本史郎 [Level 3 の内容] 本文が終わると、内容の理解度をためす Comprehension Check、グラマーポイントを定着させるための Exercises、英語を書かせる Writing Practice、聞き取り練習である Listening Practice と続く。Listening Practice は本文の1部を抜粋したディクテーションや、本文に関連して書かれた英文を聞いて答える練習である。また Writing Practice は、本文の中から、2〜3つのセンテンスで構成される部分を選び出し、それと同じタイプの言い回しや、文章としての論理構成を持っている発展例を3つ練習する。学習者はあらかじめ、本文に出てくるものを暗記しておき、それを思い出しながら、練習問題に取り組むことが期待されている。やや大袈裟に言うなら、この練習は2つの思想に基づいている。その第1は、1つのセンテンスではなく、論理的にまとまった複数のセンテンスを記憶すること、そのリズムを体得することが、英語の真の実力の養成につながるということである。第2に、やみくもに暗記することはどんな語学の習得にも必要不可欠な努力だという考えである。 Level 3 の内容についての以上の説明からお分かりいただけたことと思うが、CROWN PLUS English Series は、読解、文法、作文、聴解などを総合的に学べるよう構成された教科書である。しかも、文法をはじめとして、作文、聴解についても、読解のテクストから派生しているので、生徒が興味を持続させながら、多面的な能力を自然に身につけることができるように工夫されている。 [考える英語] 1つは、単純にそのまま日本語に置き換えてもよく分からず、前後のセンテンスの中でどういう意味になるかを、考えなければならないような部分が含まれているという意味である。英語、日本語などを読んだり聴いたりすることにとどまらず、学問的活動の多くの部分にいたるまで、人間の知的活動はものごとを解釈するということに関わっている。有名な物理学者のファインマンは幼児のころ父親が自分を膝に抱き、大人の百科事典を読んでくれ、それを幼い自分に分かるよう、易しく言い換えてくれたという体験を語りながら、それがもとで、物理的現象を含めて世界の中の森羅万象について、常に解釈しようという自分の心の習慣が育ったと述べている。たとえ数行の英語であれ、表現を論理的に解釈し、前後と一貫する意味を心に作り上げようとする(つまり理解しようとする)活動はきわめて重要である。 2つめは、内容そのものが知的刺激に満ちているということである。民主主義という思想の礎を築いたジェファソン、アメリカの人種差別の撤廃に功績があったキング牧師といった社会思想的なものから、ゼンメルヴァイスによる細菌の感染防止法の発見、映画の発明など科学史的なもの、地球環境問題、動物と人間における情報伝達、ポンペイの噴火と発掘、小説の1節(『ジキル博士とハイド氏』)など、きわめて幅の広い分野から、特定の思想に偏ることなく選ばれている。著者の1人である Brendan Wilson が半分以上のテキストを書いているが、同氏はオクスフォードの学位を持つ哲学者である。専門の著作のほか、哲学の入門書も出版しており、難しい内容を易しく語る名手である。時に繊細、時に骨太の議論を展開する Wilson の文章は、上に述べたようなまさに2つの意味で「考える英語」そのものであると言えよう。あえて、ここにわたしが夢に思い描いた教科書ができ上がったのだと言いたい。 [考える人間の育成] 1 | 2 |
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