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新学習指導要領を読む 「中学校の授業はこう変わる! −「書くこと」の指導に焦点をあてて−」

原田尚孝(熊本市立京陵中学校)

1 はじめに

 平成19年11月7日に中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会から出された「教育課程部会におけるこれまでの審議のまとめ」によると,外国語の課題として,「中学校・高等学校を通じて,コミュニケーションの中で基本的な語彙や文構造を活用する力が十分身に付いていない,内容的にまとまりのある一貫した文章を書く力が十分身に付いていない」などの状況が挙げられた。実際の教育現場から見ても,このような文構造理解・活用力,文章構成力をつける指導が必ずしも十分ではなかったという現状もあると思われる。

 そのような中で,今回の新学習指導要領の「書くこと」の指導事項の中には,新しく「語と語のつながり」や「文と文のつながり」などに注意して文章を書くことが示されている。本稿では,新学習指導要領の主旨を踏まえた上で,中学生が意欲的に「書くこと」の学習に取り組み,豊かな表現力を身につけることのできる指導事例について報告する。これは以前に選択教科の中で行った実践ではあるが,時間数が増え,「読むこと」「書くこと」にもさらに力を入れることになる新学習指導要領において,参考になる実践であると思われる。


2 実践の方法

(1)目標の設定
  目標として,以下の3点を設定した。

  • 英語の構造や語順を理解し,正確な英文を書くことができる。
     (文構造理解力の育成)
     
  • 場面や状況に応じて,適切な英文を書くことができる。
     (文構造活用力の育成)
     
  • 日記,手紙,スピーチの原稿などのまとまりのある英文を書くことができる。
     (文章構成力の育成)

(2)実施形態
 3年生の選択教科としての英語の授業時間内に,計画的・継続的に段階的な指導を行った。

(3)指導段階と内容
 目標を達成するために,年間を通して次の3つの段階を設定し,それに応じた内容の指導を行った。

  1. ステージ1(基礎段階)
     語順や語句のまとまり,修飾・被修飾の関係などを含めた文構造の系統的指導や語彙,慣用表現,文型などの練習を十分に行う段階。(語句,1文レベル)
     
  2. ステージ2(応用段階)
      英文の正確さだけでなく,話題の一貫性,継続性を意識しながら,状況に応じて適切な英文を書く段階。(3文以上レベル)
     
  3. ステージ3(実践段階)
     さまざまなトピックについて,構成を考えながら,まとまりのある文章を書く段階。
    (10文以上レベル)

3 各ステージの具体的活動例

(1)ステージ 1 (基礎段階)の例
@「SVO+どどいつ」で英語の語順を理解する。

だれ・何が/は どうする だれ・何を/に どのように どこ いつ
(who・what   does   whom・what   how   where   when)

何が どうする 何を (どのように) (どこ) (いつ)
主語   動詞   目的語   状態   場所  

私は英語を勉強しました。
I studied English .

私は友だちと英語を勉強しました。
I studied English with my friends.

私は学校で友だちと英語を勉強しました。
I studied English with my friends at school.

私はきのう学校で友だちと英語を勉強しました。
I studied English with my friends at school yesterday.


A授業で学習した文型を使って,自己表現をさせる。
例:ask +人+to 不定詞の構文を使って

[生徒作品例 (※添削前の原文,以下同)]
・I asked Mickey Mouse to take me to Disneyland.
・I asked Santa Claus to give me a lot of presents on December 24.


BBになったつもりで,Aに対する応答を英語で自由に書かせる。
A : I didn't finish my homework last night.
B : (                        )

[生徒作品例]
・Me, either. Let's do it together!
・Oh, really? I finished it. You should do your homework now. Your teacher will scold you.
・Hurry up! You will be in trouble.
・Oh, shall I help you?

(2)ステージ 2 (応用段階)の例
与えられたトピックについて,3文以上のまとまりのある英文を書かせる。
課題:My Golden Week

[生徒作品例]
・I went to a shopping center with my sister and my mother. We saw a movie there. It was very exciting. I bought very cute clothes. I was very happy. It was fun.
・I played tennis and went shopping with my family. I wanted to travel. But I had to study hard.

(3)ステージ 3 (実践段階)の例
 文章の組み立て方等を指導したあとに,実際にトピックを与え,制限時間20分間で辞書等は使わずに20文以上の英文を書かせる。答案については,ALTとJTEで添削し,生徒にアドバイスをしながら返却した。以下にトピック例とある一人の生徒の作品例を示す。

(2006年 6月実施)
あなたは海外で語学研修に参加しています。授業で次の課題が出されました。
課題:あなたにとって,「親友」とはどのような友達であるべきですか? 今までにあったことや想像した事を例としてあげ,考えをまとめましょう。    
I didn't like English. But my friends taught me English. It is very fun for me to study English now. I think friends are more important than money. I think friends have to help their friends.

(2006年 12月実施)
あなたは海外で語学研修に参加しています。授業で次の課題が出されました。
課題:ふだんの学校生活であなたが楽しいと思うことは何ですか。またその理由は何ですか。身近な事例や経験などを取り上げて,あなた自身の考えを書きなさい。
I like talking with my friends in my school life.
First, we enjoy talking about many things in our classroom every day. For example, we talked about favorite musician last week and we talked about TV.
Second, if I have a lot of friends, they may help me when I am upset. One day I did not understand how to study math. But my friends taught me how to study math. So, it is fun for me to talk with friends and it is important for us to make a lot of friends. I want to make more friends when I am a junior high school student.


4 成果と課題

 このように段階を踏まえた指導を実施すれば,書こうとする内容や構成を論理的に考え,まとまった英文を書く力が向上すると考えられる。課題としては,トピックに応じて,必要な語彙や慣用表現を,もっと生徒に提示し,使いこなせるようにする必要がある。生徒の学習状況を見ながら,3つの段階(ステージ1,2,3)の指導を必要に応じてスパイラルに行うことで,定着の徹底が図れると考えられる。


5 おわりに

 「書くこと」の指導においては,新学習指導要領の主旨を十分踏まえ,様々な工夫を行っていく必要がある。特に語と語のつながりなどに注意して正しく文を書いたり,文と文のつながりなどに注意して文章を書くことができるようになることは,とても重要なことである。中学生が意欲的に「書くこと」の学習に取り組み,豊かな表現力を身につけることができるようになるために,今後も私たち英語教師が具体的な手だてを講じることが大切である。

【参考文献】

  • 「教育課程部会におけるこれまでの審議のまとめ」中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会(平成19年11月)
  • 田尻悟郎(2005).『英語がわかる! 自己表現お助けブック』教育出版

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原田尚孝(はらだ なおたか)
熊本県内の公立中学校,熊本大学教育学部附属中学校勤務などを経て,現在は熊本市立京陵中学校教諭。 「中学生が意欲的に書くことの活動に取り組む英語指導についての実践研究」を主なテーマに,日々の授業実践を重ねている。「指導の基礎・基本に立ち返ろう ―スピーキング評価の基礎・基本」(『英語教育』2006年4月号,大修館書店),「英語教師オピニオンコロシアム 生徒の自己表現を高めるための活動・評価方法」(『STEP英語情報』2006年7-8号,日本英語検定協会)など寄稿も多数。全国英語教育学会所属,九州英語教育学会評議員,熊本県中学校英語教育研究会事務局長。

英語教育リレーコラム第13回
新学習指導要領を読む
「中学校の授業はこう変わる! ―「書くこと」の指導に焦点をあてて―」 原田尚孝 (2008年6月9日更新)
「中学校英語について ―3つの課題の解決という視点で―」 松沢伸二 (2008年5月12日更新)
「小学校外国語活動について ―コミュニケーション能力の素地」に焦点をあてて―」 酒井英樹 (2008年4月17日更新)
 

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