今回は前回に続いて指名の仕方,その2についてお話ししようと思います。前回は都内A校のB先生に指名の仕方についての基本的な4項目中の2項目について述べました。ここで本論に入る前にその4項目について簡単におさらいをしておきたいと思います。 1.教室内の緊張をほどよく保つ。2.指名するときの質問の内容を吟味し準備しておく。3.個々の生徒の実態に合わせた指名。4.答えた生徒のフォローが大切。などでした。そして今回は特に項目3と4について内容を深めていきたいと思います。 まず,3.の「個々の生徒の実態をよくつかんでおくことが必要で,できれば生徒の性格をある程度まで知っておくと指導に役に立つ」という点についてですが,具体的にどのように授業で実現させるのか……このような授業風景はいかがでしょうか。 NEW CROWN Book 1 LESSON 7 “Wheelchair Basketball” Part @ を例にとりますと,ここでは新言語材料としてcanを扱っています。どの教科書でも〈can+一般動詞〉の形は扱われているので参考になると思います。 This is my brother, Bob. この6文を実際のクラスの生徒たちに置き換えて導入や展開ができます。つまりBobを健に変え,brotherをfriendに,basketballをsoccer,baseball,tennisなどに置き換えて,まずパターンプラクティス的に文型練習ができます。この練習は指名でもいいのですが,列ごとに個別に言わせ,クラス全員が当たるように配慮し,その後練習した文が身についているかどうかをチェックするために習熟度の違う何人かの生徒を指名してもいいでしょう。その後にクラスの中にバスケット,バレー,野球,卓球,テニスなどの部員がいたらそれをさっそく利用し,例えば,Taro is a member of a baseball team. He can play baseball very well. Risa is a member of the tennis team(clubでもよい). She can play tennis very well.などと教師が予め生徒が属している部活名を覚えておき,それも運動部だけでなく文化部や生徒会などについても説明を加えれば生徒にとっては身近な事実なのでcanの用法はすぐ覚えます。その時,教師は文化部名や生徒会の組織の名前を英語で何というか調べておく必要があります。生徒にとっては未習の単語ですが,興味のある生徒はすぐ覚えるものです。Part A にいきますとcanを使った疑問文,それに対する肯定と否定の答えの文を習いますね。この時にも生徒個々の部活などの状況を把握しておくと,教師対生徒,または生徒同士のQ & A活動では現実味を帯び生徒の理解度も高まります。(題材に関しては車椅子バスケットボールについての記述なので身体に障害を持つ人たちへの理解を深めることを目的にしていますが,このことについては別の機会に扱うことにします。) さて,Taroを指名して……
などと内容を少しずつふくらませながらも生徒とのQ & A活動が活発にできるようになるわけです。次に否定の答えを含む文の練習は……
このような教師と生徒との対話は全員ができるとは限りません。理解の遅い生徒にはYes.とかNo.だけの答えでもGood!やGood job!などと褒め,その直後に教師がfull sentenceで言い,それを復唱させるというような教師のフォローが必要です。要するに基本の4で述べたように教師が生徒に寄り添うことが大切なのですね。そこから教師の生徒を思う温かい気持ちが伝わり,教師を信頼する気持ちが育ちます。ですから指名の仕方とフォローの仕方によって生徒の英語を学ぼうとするmotivationを喚起させることになり,また場合によっては逆にmotivationを失わせることにもなるわけです。 小生が行った指名に関してのもう一つの方法は「指名カード」なるものを生徒一人一人に持たせたことです。それを教科書の裏表紙の裏にカードの上の部分だけ糊づけさせました。そのカードには,一時間の授業でパターンプラクティスなど列ごとに一人ずつ発話した回数や挙手をして答えた回数など,要するに一人で発話した回数を記入させました。それを1〜2週間ごとに教師がざっと目を通し点検するとだいたいの個人の発話の回数がわかります。小生の経験では意外に指名の仕方がアンバランスの時がありました。その時は1か月ぐらいかけてそれとなく全員に指名がいくように調整しました。そうすると年間を通じてクラス全員の個人の発話回数が平均化しました。理解が最も遅れている生徒も発話回数は平均的になり,従って授業で置いていかれるというような雰囲気はなかったように思います。 ここで指名と評価の関係について少し触れておきましょう。個人の指名の回数は列ごとの場合はほぼ同じですが,その他の題材内容に関するQ & A活動についても主に評価の観点中の「コミュニケーションへの関心・意欲・態度」の項目で評価することができます。もちろんQ & Aの内容によっては「表現や理解の能力」または「言語や文化についての知識・理解」まで及ぶこともあります。それらの評価に関して小生は授業時で特に目立った生徒を覚えておき授業後に記録しておきました。授業中のチェック(記録)は生徒に余計なプレッシャーを与えるので小生はしませんでした。そしてQ & Aで自発的に挙手をして答えた生徒に関しては内容にもよりますが,「積極的に授業に参加できた」と評価して記録し,最終的な通知表の所見欄に記入してもらえるように担任の先生にお願いしました。 以上B先生のご参考になればと思いつつ,小生の経験談を交えてお話ししました。B先生の実践の結果などお聞かせいただければ幸いです。では頑張ってください。 後関 正明 (ごせき まさあき) 先生
東京都墨田区立中学校で教諭,校長を長年務める。その後,東京都滝野川女子学園中・高校で教鞭をとる。現在,NPO法人「ILEC言語教育文化研究所」常務理事。2003年より國學院大学で教職課程履修の学生を教えている。 ご質問がございましたらニュークラウン指導相談ダイヤル(03-3230-9235 受付時間 月・火・木曜日 10:00 〜 16:00)へどうぞ。 メールの場合は「問い合わせフォーム」へ |
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