フーンコラム93回(2013年4月号) 後関正明

「4技能の統合」を活かせる指導方法について その2

  前回は「読むこと」と「書くこと」を統合させた(言語)活動の導法について,都内A区,B先生から頂いたご質問にお答えしました。今回はその続きとして,主に「読むこと」と「話すこと」を統合させた(言語)活動についてお話しようと思います。

 前回ご説明した通り,「統合」とは4技能のそれぞれの指導内容を深めるために二つ以上の技能を合わせて関連付け,一つのまとまりのある技能とする(=統合する)わけです。したがってこうすることによって4技能が相乗的にその機能を発揮し,生徒がそれらの技能を身につけ,活用力を鍛えることをねらいとしています。そこで,今回は「読むこと」「話すこと」の技能を中心に,「聞くこと」「書くこと」の技能をも統合した場合の指導について,実例を交えてご説明していきます。

 例をNEW CROWN BOOK 3 Lesson 6 “I Have a Dream”にいたしましょう。この課はGET(本文)のPart 1・2でMartin Luther King, Jr.についてDialogとNarrativeで説明があり,続いてUSE Readで本格的にキング牧師の物語になります。(文法項目は「後置修飾」ですが,これはこの課の終わりにまとめとして指導するためここでは一切触れません。その理由についてはいずれこのコラムで取り上げたいと思っています。)そしてこのUSE Readにはキング牧師の実際の演説が入っています。生徒は順を追って「読むこと」から自然に「話すこと」への雰囲気に浸ることができるよう構成されているのですが,教える側としては,この「読むこと」から「話すこと」への言語活動を意識的に統合する指導をすることが望ましいと言えるでしょう。

 さて実際の指導過程を考えるにあたり,言語活動を下記のような順序で行います。

(1)物語を読んで内容を読み取る(GET Part 1・2,USE Read対応)
(2)キング牧師のスピーチを聞いて要点を捉える(USE Read のスピーチ部分対応)
(3)生徒がそれぞれ尊敬する人物を選び,スピーチの原稿を書き,実際にスピーチをする(USE Mini-project 対応)となります。

 この一連の過程は(1)「読むこと」,(2)「聞くこと」,(3)「書くこと」「話すこと」の4技能の言語活動を統合することになりますが,ここからは主に「読むこと」「話すこと」に焦点を当てていきたいと思います。

 「読むこと」の言語活動ではGET(本文)のPart 1・2を2〜4時間かけてじっくり取り組む必要があります。なぜならばこの課の目標は生徒一人一人のスピーチがメインですが,その前提となる「読むこと」を通して内容を深く理解し,スピーチにつなげることが重要です。(さらにスピーチ原稿を「書くこと」という活動も入ります。)オーラルイントロダクションでは写真や絵を活用しながらexplanation に入ります。その際,後置修飾を含んだ文が始めから出てきますがその文法の説明は後回しにして,英文そのものをとにかく理解させるため,下記のようなパターンプラクティスをしながら全員が発話できるようにしながら最終的には暗唱させます。

板書 Look at these men drinking water.

 教師がこれを繰り返して読み,できれば全員に読ませます。(2〜3分ほどでできる活動です。)次に教師が「水を飲んでいる」から「テニスをしている」に言い換えます。

板書 Look at these men playing tennis.

 これも全員に言わせます。次に「テニスをしている」から「サッカーをしている」に変え,Look at these men playing soccer.を全員に言わせます。この3つの文を暗唱させるのに5分もあれば充分でしょう。この後theseをthoseに,menをboysやgirlsに変えたり,文尾にover thereなどをつけたりして,文構造の確認練習をします。また教科書68ページの写真を使って,Look at the man making a speech.(He is Martin Luther King, Jr.)などの文も提示しておくと,教科書をフルに活用でき,その後の活動にもつながります。

 同じように,

板書 This photo taken in 1962 shows a dark side of the history of the United States.

 ここはthe United StatesをJapanにしたりしながら,とにかく曲がりなりにでも英文を全員に言わせます。この「一人一人,全員に言わせる」ことが大きなポイントです。更にThis magazine written by Tezuka Osamu is mine. などと発展させます。

板書 The book I read tells the story of Martin Luther King, Jr.

→The book I read tells the story of the United States.
→The country I want to visit is Canada.
→The person I respect is Martin Luther King, Jr.

 このようなパターンプラクティス活動の時間は15分程続けることで,その間生徒たちは終始口を動かして発音していることになります。表現活動のための口慣らしと考えると,これらの活動は重要な基礎過程として位置づけられるでしょう。

 こうしてGET を一通り終えたところでUSE Readへと移ります。ここはテープや教師の範読により要点を聞き取るように指導しますが,やはり重要な語句や文章の説明も必要です。特にキング牧師の“I have a dream that my four little children 〜”のスピーチ部分はこの課のハイライトですから,丁寧に日本語を交えて説明し生徒の理解を深める必要があります。全体を読み終えたら(教科書該当箇所の)ピクチャーカードなどを黒板に貼るなどしてexplanationの補助教材として使います。

 最後に,いよいよスピーチ活動に入るわけですがここは教科書のUSE Mini-projectを活用して授業を進めましょう。尊敬する人物が対象になっていますが,ここは生徒のやる気を引き出すために生徒個々の好みに任せてもいいでしょう。つまり好きな人物でもいいし,あこがれている人物,または関心のある人物でも良いことにします。Teacher’s Manualでは登山家の田部井淳子さんとプロ野球のイチロー選手が例として示されています。都内のある先生に聞いたところ,生徒が選んだ人物はサッカーや野球のスポーツ選手が一番多く,次に歌手やロックバンド,俳優などの芸能人,そして坂本龍馬などの歴史上の人物と続いたようでした。また特定の人物ではなく東日本大震災のボランティアで活躍した無名の人々を扱った作品もあったそうです。生徒一人一人にスピーチをさせたところ,自分で好きなように書いた原稿なので喜んで暗唱し,積極的にクラス皆の前で発表したそうです。

 この「生徒の作品」ともいえるスピーチの評価の仕方については,次のような方法が考えられます。

  1. 小さな文法的なミスには目をつぶり意味が通じにくい大きなエラーには朱を入れ訂正してから暗唱させ個々のスピーチに移る。
  2. 暗唱できない生徒も当然出てくるので,その場合は原稿を読んでも良いことにする。このようにある程度ハードルを下げる必要もある。
  3. その場で一人一人チェックして評価すると生徒はプレッシャーを感じるので,教師は2〜3段階ぐらいに分けた評価を記憶しておき,活動終了後に記録する。

 スピーチ活動の実践は生徒たちに更なるやる気を起こさせます。また大勢の生徒たちの関心を集め,次の活動のへのステップとするため作品を模造紙に貼り,教室または廊下の壁面に提示すると一層効果的です。

 ここまで指導するには先生方の並大抵でない労力がかかります。限られた授業時間数の中でこれだけの活動をするには他の課で少々時間の節約をする必要があるかもしれません。しかしこの課の4技能を統合した授業は生徒たちに英語学習への強烈なインパクトを与えることと私は確信しております。ぜひ生徒たちのためにもう一ふんばりしてください。

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後関 正明 (ごせき まさあき) 先生
東京都墨田区立中学校で教諭,校長を長年務める。その後,東京都滝野川女子学園中・高校で教鞭をとる。現在,NPO法人「ILEC言語教育文化研究所」常務理事。2003年より國學院大学で教職課程履修の学生を教えている。

フ〜ンコラムバックナンバー (第1回〜92回)

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