フーンコラム87回(2012年5月号) 後関正明

新教科書と長文読解力の育成

 前回(第87回)のフーンコラム「中学校・新学習指導要領全面実施元年を迎えて」の最後に,次回は「異文化理解にどう取り組むか」について述べると書きました。ですが平成24年度版NEW CROWN に新しく導入されたUSE Read の扱いについての質問が多く寄せられましたので,今回は予定を変更して主に長文読解をターゲットに,USE Read の意図,扱い方の具体例,訳出について述べたいと思います。(「異文化理解」は次回に掲載いたしますのでご了承ください。)

1. USE Read の目的
 USE Readの目的はGET(文法などの言語事項を習得するパート)で身につけた知識を活用して長文を読む力を育てることです。従来のテキストにはLET’S READ が各学年とも2編ずつあり,それぞれ読み物教材としての役割を果たしてきました。今回の新教科書ではそれの拡大版として長文に慣れ親しみながら読解力を身につけさせたいわけです。

 そこで1年生の後半から3年生の終わりまで,各レッスンのGETの後にUSE Readのパートを2ページないし4ページずつ設け,Reading を主体とした言語活動を通して内容を理解させるようにしました。つまり,ここでは生徒にひたすら「読むこと」に専念させたいのです。USE ReadをGETと同じように扱っていると必ず時間不足になり,学年末になっても教科書が終わらないということにもなりかねません。そうならないためにはReading以外の活動はあえて無視してもいいと思います。とにかく「読むこと」を徹底させたいですね。徹底的に「読む」といってもReadingにはいろいろな活動があります。

2. Readingの扱い方について
 「読むこと」の活動にはざっと見ても次のような種類があります。model reading, chorus reading, shadow reading, pair reading, group reading, chain reading, reading & looking up, individual reading, recitationなどですね。これらは,音読のための活動です。

 しかし,入試の長文を読解するときに声に出して読むことはしませんし,新聞を声に出しながら読んだりはしません。「読む」活動は黙読して内容理解することが本来の姿です。そして,USE Readのねらいはこの黙読する力をブラッシュアップしていくことです。指導にあたっては,教科書中のPre-Reading,In-Reading,Post-Readingの指示や問いに答えていけばよいと思いますが,それぞれ位置づけを理解した上で取り組んでください。

  • Pre-Readingでは,本文に入る前に,読む動機づけを与えたり,内容への興味を喚起させたりする。
  • In-Readingは,USE Readの中心の活動で,本文の内容理解をさせる。
  • Post-Readingでは,本文内容を振り返り,読んだ内容を整理したり,内容についての自分の考えを表現したりする。

それぞれのタスクを下記の点に留意しながら指導されるとよいと思います。

  1. オーラルイントロダクションで内容理解させてからではなく,音声なしで黙読する自力で読む体験をさせる。
  2. 全文を一気に読み,概要や要点を把握させる。一度で内容を理解させるのは無理なので,In-readingの答をさがすつもりで,くりかえし何度も読ませる。ポイントがおさえられたところで,次に単語・連語,語法や文法などに注意しながら,細かい部分について意味を抑えさせる。概要から詳細へ,の順番。
  3. 新語は,場合によって先に導入しておくことは可能。しかし,文脈から推測する力をつけていくことも大切なので,ポイントとなる新語だけでもよい。

そしてsilent readingがひと区切りついたら次のようなactivityはどうでしょう。

 例えば,3人一組になり次のようなactivityが考えられます。(A=英語話者,B=通訳,C=日本語話者と設定)

 Aが英語を読む(できれば暗唱して教科書を見ないで話す)。  ⇒B がそれを日本語に訳しC に伝える。  ⇒Cは聞いた日本語をもう一度繰り返して確認し,それについての質問文を日本語で作る。  ⇒Bはそれを英語に訳してA に伝える。  ⇒Aは英語で答える。  ⇒Bはさらにそれを日本語に訳してCに伝える。

 これはかなり難しいactivity ですが,上位者は何とかやり遂げようとします。私はかつてこれと似たような「通訳ごっこ活動」をしました(フーンコラム第15回参照)。塾などで先回りをしてほとんど学習し終わった生徒たちにとってこの活動は有効です。なぜかと言うと塾ではこういう活動はほとんどしていませんから目新しいのです。しかし上記の例のようにすべてがうまく回転するとは限りませんね。静かに読む雰囲気を作れない教室もあるかと思います。そのときは一文ずつチェーンをつなげるように読ませます。よく聞いていないと隣や前後の生徒がどこまで読んだのか分かりません。集中力が不可欠ですから自然と静かになるわけです。

3. 訳出はどうするか
 次に訳出についてです。ご質問の中に「GETの本文と同じように訳さないと生徒が満足しないのでは……?」というのがありました。確かに生徒は内容も分からずにただ読まされていると感じたり,何度か読んだ後でもどうしても内容がつかめなければ当然不満は残ります。だからといってUSE Readもすべてを丁寧に訳出したのでは本文と同じ扱いになってしまいます。ですから原則的にここではすべてを訳出する必要はないと思います。必要に応じて部分的に強調して訳出する程度でいいのです。全体的な生徒の理解の度合いは,内容に関する2,3の質問をしてみるとよくつかめます。理解の遅い生徒でも大体の内容がつかめていればよしとしていいでしょう。そして全訳のプリントを最後に渡しておけば万全です。

 とにかくUSE Read では,一気に読む習慣をつけることも目標の一つとし,多少分からないところがあっても後戻りすることなく先に進んでいくことが大切なのです。ひと言で言うならGETで「精読」,USE Readで「速読」といったところでしょうか。

4. 長文に慣れること
 さて平成24年度の都立高校入試問題の英語で使われている語数を調べてみると 1のリスニングテストを除いて2から4までは,以下の語数になりました。解答時間は50分です。

 2 → 327語
 3 → 471語
 4 → 622語  合計 1420語

 つまり1420語の英文を50分間で読破し,設問に答えるわけです。(さらに各大問の設問中,英語の指示文などの語数は合計546語もあるのです。)仮に平均的な生徒で1分間に50語読めておよその意味が取れるとしても,1420語を読むには単純計算でも28分かかります。残り22分の試験時間で設問の英語を読んで解答もしなければならないわけですから,やはり受験生にとって長文読解問題は難しいといえるでしょう。

 従って,平成24年度版NEW CROWN では,1年の後半から3年の終わりまでUSE Read という新しいページを設け,少しでも「長文」に慣れるように配慮しているわけです。USE Read をはじめ,教科書全体のレッスン構成が一新しましたので内容を再度吟味していただき,授業に臨んでいただければ幸いです。先生方のご健闘をお祈りいたします。

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後関 正明 (ごせき まさあき) 先生
東京都墨田区立中学校で教諭,校長を長年務める。その後,東京都滝野川女子学園中・高校で教鞭をとる。現在,NPO法人「ILEC言語教育文化研究所」常務理事。2003年より國學院大学で教職課程履修の学生を教えている。

フ〜ンコラムバックナンバー (第1回〜87回)

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