フーンコラム 第30回 後関正明

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大きな声を出させるには

 新年度を迎え、皆さんはりきって授業に精を出していらっしゃることと思います。

 この4月に都内の別の区に異動されたI先生から、先日お便りをいただきました。要旨は以下のようなものです。

 2年生3クラスと3年生1クラス、それに3年の選択授業などを受け持って教えている。私は1年生をはじめからみっちりと教えたかったが、これは学校の事情でしかたがないと思っている。ひとつ困っているのは、2年生のクラスで生徒の声が非常に小さいこと。どうにか大きな声を出させようと努力しているのだが、うまくいかない。どうしたらいいのだろうか。

 だいたいこんな内容です。そこでI先生にさっそく電話をしました。

私:  お手紙拝読しました。その後どんな様子ですか。
 
I 先生:  あまり変わりません。とにかく、コーラスで教科書を読ませても、30人もいるのに蚊の鳴くような小さい声なんです。1年生を受け持ったときは、はじめから大きな声を当たり前のように出させていたので、その生徒たちが2、3年生になっても大きな声が出ていたのですが。
 
私:  そうすると今の2年生は、昨年1年間はずっと小さい声で通してしまったというわけですね。
 
I 先生:  そうなんです。すっかりそういうくせがついてしまって。NEW CROWN1年生の13ページに“Please speak more loudly.”とか“Read the dialog aloud.”と出ているので、それも参考に指導しているのですが…。やはり「出だし」の習慣付けが大切なんですね。
 
私:  おっしゃるとおりです。実は私もかつて異動した年に、3年生を受け持ったことがあります。その生徒たちもやはり声が小さくて、とても苦労したことを覚えています。
 
I 先生:  彼らをどう指導されましたか?
 
私:   もう、“Speak loudly.”とか“Read it aloud.”の連発でした。“I’m sorry, I can’t hear you.”と何度も言って、やっとどうにかクラスの皆に聞こえる程度でした。

 声が小さいことには理由が2つあると思います。ひとつは、発音に自信がないということ。文章を読むのが下手だと自分で思い込んでしまっている。だから大きな声を出すのが恥ずかしくて、自然と声が小さくなってしまう。もうひとつは、大きな声ではっきりと読む習慣がついていないということ。これは国語科の問題でもあります。

 そこで私は、生徒たちにとにかく自信をつけさせるのが先決だと考えました。特に「読み」についてです。ここでいう「読み」とは、いわゆる「音読」を指しますが、すべてのレッスンをはじめ、練習問題やいろいろなプリント類に至るまで、徹底的に「読み」すなわち「音読」を優先して指導しました。「大きな声ではっきりと」「間違えてもかまわない」を合言葉にして2、3か月過ぎたころ、なんとか「さまになってきたな」と思えるようになりました。
 

I 先生:  生徒はよく素直に声を出すようになりましたね。
 
私:  そうですね。声を出す習慣が備わっていなかっただけで、もともとは明るくて素直な生徒たちだったのですね。でも1年生と比べると、まだまだ声は小さかったですね。1年生では、声の出し方が小さくなると、わざと「一番小さな声で!」と言ってコーラスさせます。すると蚊の鳴くような声でコーラスします。すかさず、「今度は一番大きな声で!」と言うと、生徒たちは割れんばかりの大声でコーラスします。1年生だからノリがいいのです。同じ事を3年生にも試してみましたが、白けてしまってなんとも気まずい思いをしたものです。
 
I 先生:  おもしろい方法ですね。2年生はどうでしょう。乗ってくるでしょうか。
 
私:

 うーん、何ともいえませんが、先生との心のコミュニケーションができていれば、生徒はおもしろがってついてくるでしょうね。実行してみてください。リーディングは、教師の発音を繰り返し真似ることによって次第に上手になり、自信が出てくるわけです。ひとたび自信がつくと、それは次にスピーキングやライティングの自信にもつながります。また、大きな声ではっきりと読んでいる仲間の英語をしっかり聞くことにもなり、リスニングにもつながるわけです。

  考えてみますと、ことばというものは音に出してはじめて相手に伝わるものですね。文字ももちろん伝える手段のひとつです。しかし世界には文字を持たない言語もたくさんあることを思えば、その場合は伝える手段は音声しかないわけですね。その意味でも、音声すなわち声を出すということがいかに大切かが伺えると思うのです。

I 先生:  そうですね。声を出すということは、単にリーディングを活発にするだけでなく、英語の授業全体を活性化させるのですね。また、生徒の一人ひとりに自信をつけさせることにもなるわけですね。
 
私:  その通りです。ある程度声が出せるようになったら、次にはもう少し細かいところまで気を配って指導してください。
 
I 先生:  例えばどんなところですか。
 
私:  細かい評価項目とも関連するのですが、例えば、区切り方はどうか、アクセントやイントネーション、リズムはどうか、感情を込めているか、内容をほぼ把握して読んでいるか、態度や姿勢はどうか、等々の問題です。
 
I 先生:  そういえば「読み」の評価も難しいですね。評価のこともまたいつか教えてください。ありがとうございました。
 
私:  がんばってください。
 

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後関 正明 (ごせき まさあき) 先生

東京都墨田区立中学校で教諭,校長を長年務める。その後,東京都滝野川女子学園中・高校で教鞭をとる。現在,NPO法人「ILEC言語教育文化研究所」常務理事。2003年より都内の私立大学で教職課程履修の学生を教えている。

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