フーンコラム 第21回 後関正明

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板書再考

 先日,埼玉県S市K中のE先生から板書についての質問がありました。E先生は,今,1年生4クラスを教えていますが,板書をどう有効に使ったらいいか,悩んでいました。

E先生 毎日の授業で私は黒板を必ず利用しているのですが,生徒のノートをたまに提出させて点検すると,大半の生徒がどうも私の板書をただ写しているだけみたいなのです。つまり,このノートを復習や発展学習に結びつけたりしている形跡がないのです。
 
と,おっしゃいますと,生徒たちが自分のノートを使って復習しようとしても,復習しずらいということですか?
 
E先生 そうです。つまり,英語も日本語もただ断片的に書き写されているだけなので,そのノートを眺めていても,少しものちの勉強に役立っていないようなのです。
 

そうですか。もしかすると,1年生は教師の板書を写すのに精一杯なのかもしれませんね。短い時間の中で書き写す訳ですから。やはり,先生の方で考えて,あとで生徒の自習に役立つような板書をしないといけませんね。
 

E先生 それでは,あらかじめ板書の部分をパソコンで作成し,それを印刷して配った方が早いし,生徒の自習にも役立ちますね。それを何枚もとじておけば,テスト勉強にも使えますし。
 
確かに,その方がある意味で効率的だとは思いますし,生徒は簡単にプリントが手に入るので,ありがたいと思うでしょう。しかし,私はやはり50分の授業の中で,ある程度の時間をとり,例えば5分から10分くらいは時間を与え,苦労して筆写させる活動も必要だと思います。何でも簡単にすませるのではなく,たとえ非効率的な部分があっても,じっくり考えながら,整然とした先生の板書を書き写すということは,大切な言語活動の1つだと思うのです。
 
E先生 なるほど。そういう考えもあるのですね。ということは,私が整然とした板書,つまり,生徒があとでノートを開いてもよく分かるような板書をしなくてはいけないということですね。すると,これは私の反省の1つですね。それから,もう1つの反省点は説明しながら板書をすると,生徒の大半は私の説明をそっちのけで,書くのに夢中になってしまうということです。
 
それは,生徒にとっては何のプラスにもなりませんね。ですから,説明しながら板書をするときには,「今は書かないで。あとで書く時間をあげるから」と注意する必要があります。特に,1年生は,黒板を書き写しているときには,先生の言葉が耳に入らないことが多いですから。
 
E先生 分かりました。しかし,そう考えると,板書もおろそかにはできませんね。
 
本当にそう思います。それにも関わらず,板書を簡単に考えていいかげんに書く先生が実に多いですね。
 
E先生 これを改めるには板書の練習をするしかありませんか。
 
練習は必要でしょうね。そして,その練習の一方法として私は板書の下書きとしてのプリント作成をおすすめします。プリントを作るときは,基本事項や発展事項をいろいろ考えながらコンパクトにまとめますね。そのまとめたものを板書するのです。そうすると生徒にとってはよく分かる板書になります。「思いつき」の板書と「よく考えた末」の板書とは比べものにならないくらい生徒の受け取り方が違います。受け取り方が違うということは生徒の吸収度,または理解度がおのずと違ってきますね。また,よく練られた板書は先生にとっても自信があるわけだから,自然と熱が入り,授業そのものも活気に満ちたものになるのです。
 
E先生 板書ってとても大切なものなんですね。
 
そうです。板書は教師の授業技術を向上させるための重要な補助手段の1つなのです。
 
E先生 よく分かりました。ぜひ,9月からの授業にいかしていきたいと思います。ありがとうございました。
 
がんばってください。

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後関 正明 (ごせき まさあき) 先生

東京都墨田区立中学校で教諭,校長を長年務める。その後,東京都滝野川女子学園中・高校で教鞭をとる。現在,NPO法人「ILEC言語教育文化研究所」常務理事。2003年より都内の私立大学で教職課程履修の学生を教えている。

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