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フーンコラム 第10回 後関正明

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aとtheと無冠詞

 以前,NEW CROWNで1年生を教えていたとき,

I have a key in my pocket. (ぼくはポケットにキーを持っています。)
This is the key. (これがそのキーです。)

という文が出てきました。定冠詞theの導入部分です。Kenがポケットからキーを取り出し,「これがそのキーです」と相手に説明しています。そのときは,実際にポケットからキーを取り出し,身振りを交えてaとtheの関係を説明し,その後,生徒全員にこの2文を言わせ,暗誦させました。ほとんどの生徒はaとtheをこの時点では理解できたと思いました。

 現行版NEW CROWNTにも29ページに同じような個所があります。

I have a toy in my bag.
This is the toy.

です。これも先生方は実物のけん玉をバッグから取り出してaとtheの関係を説明されたと思います。aとtheの関係は複雑で,まことに難しいのですが,この時点では,aとtheの区別はその程度できればよいと思います。

 また,次の30ページでも

Do you play kendama every day?

が出てきます。play kendamaは「けん玉をする」と教えて,そのまますっと通過できます。ところが49ページのPRACTICEに,

@ play the guitar A play tennis B practice kendo

と出てきます。これについてguitarにはtheが付き,tennisには何も付かないのはどうしてか,と生徒から質問がきました。以下,生徒とのやりとりです。

生徒: 先生,「ギターを弾く」はguitarにtheがついていて,「テニスをする」はtennisに何も付いていないのはなぜですか。同じplayの後なのに。
先生: これはねぇ,楽器の場合にはtheがついてスポーツの場合にはtheがつかない規則になっているんです。
生徒: ああそうですか。わかりました。

ということで生徒は「そういう規則なんだ。」と納得したようでしたが・・・

一年生への答えとしては(それで十分とはいかないまでも)それ以上の説明をすると,生徒が混乱するので避けた方がいいと思います。

 しかし,それ以上突っ込んだ質問にはどう対処したらいいでしょうか。あるとき,まだ釈然としない生徒がいたので,私は次のように答えました。

 theはもともとthatと同じような意味を持ち,従って,NEW CROWN 29ページのthe guitarの時のtheように,theには,「その」とか「あの」などの意味があります。ギターを弾くときも,そこには「自分のギター」という意味が含まれます。だからtheがついているわけです。play tennisもずっと昔はplay the tennisのように,tennisにtheがつき,「みんな知っているあのテニス」をするという意味合いを持っていました。それがいつの間にかtheが脱落してplay tennisとなったのです。play the guitar (ギターを弾く),play the piano (ピアノを弾く),やplay the flute (フルートを吹く) なども,これから何十年と経つうちに言葉が自然に変化し,theがとれてplay guitarとなるかも知れません。言葉や文法は時代と共に変化していくものなのですね。

 確かに,私が中学生のころには,今ではとんとお目にかからないshallなんていう単語がでてきて,I will・・・, I shall・・・, You will・・・, You shall・・・などと覚えましたが,いろいろ混乱して先生まで間違え,「shallも木から落ちるさ」などと言いながら,みんなで笑ったものです。

 また,副詞の最上級にはtheを付けなかったのが,最近では付けるのが普通になってきています。NEW CROWNUの「文法のまとめ」(88ページ)にも,形容詞の最上級の説明後の(注)にEmi runs the fastest of all.が参考文として出ています。このように考えてみると,文法もまさに生き物だということが分かり,興味がわいてきますね。

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後関 正明 (ごせき まさあき) 先生

東京都墨田区立中学校で教諭,校長を長年務める。その後,東京都滝野川女子学園中・高校で教鞭をとる。現在,NPO法人「ILEC言語教育文化研究所」常務理事。2003年より都内の私立大学で教職課程履修の学生を教えている。

フ〜ンコラム バックナンバー (第1回〜)

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