三省堂高校英語教育 2006年夏号
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「『VISTA English Series I New Edition』の改訂にあたり」玉川大学 池田 智

1. シリーズを通しての編集方針

 VISTA English Series の編集方針は、VISTAが今から30数年前に誕生した頃とそれほど異なっているわけではない。その揺るぎなき伝統がVISTAの人気の秘密かもしれない。もちろん文部科学省が提示する学習指導要領に改定があればすぐさま対応してきていることは言うまでもない。その編集方針をまずはここで取り上げたい。

  1. ことばと人間の関係やことばと社会との関係など、ことばへの関心を広く高め、豊かな言語観を育てる。
  2. ことば、文化、民族の多様性と共存、自然と人間との共生を国際理解の基本理念とし、国際感覚の育成と国際的な協調精神の育成を図る。
  3. 英語の基礎的・基本的な知識や技能を習得し、コミュニケーション能力の養成を図る。
  4. 実際のコミュニケーションを重視し、特に学習指導要領に示されている「言語の使用場面」の明確化を図り、「言語の働き」に留意しながら、創造的な言語活動を行うことを目指す。
  5. コミュニケーションにおけるメッセージの役割を重視し、生徒の興味や関心、知的好奇心や問題意識を喚起する題材内容を提示する。

 以上5 項目の内、@、A、DはBook T及びBookU(Step One, Step Two の2分冊)の題材内容と密接に関係している。その題材内容については主要英語圏の文化に偏らないように腐心している。その理由は言うまでもなくVISTAを利用する生徒が世界に広く眼を向け、国際的な感覚はもとよりグローバルな感覚を身につけ、グローバルレベルでの協調精神を育んでもらいたいと願っているからである。また、題材には文化受信型のみならず文化発信型を積極的に取り入れている。

 この文化発信型の題材は現代の英語教育において強く求められている要素だが、BookTでは自然との共生及びエコロジーの観点から鹿児島県出水市のツル、宮古島の風力発電、近海漁業になくてはならない「魚つき保安林」のことなどを取り上げた。BookU, Step Oneでは、文化遺産の観点から岐阜県白川郷の合掌造りに触れ、Step Twoでは絶滅危惧種保護の観点から小笠原のアオウミガメのこと、食文化の観点から今では世界の健康食となった“Sushi” を文化発信型として提示した。BookTでアイヌを父とするミュージシャン、加納 沖さんを紹介するのも、日本とて単一民族国家ではないことを認識するばかりでなく日本を海外へ紹介する上で文化発信型と捉えることが可能だからである。

 編集方針B及びCは、今更解説するまでもないが昨今の語学教育で最も求められている要素である。Bの英語の基礎的・基本的な知識や技能の習得という点についてはBookTをPart 1 と Part 2 に分けている点に注意していただきたい。Part 1 は徹底して中学英語の復習にあて「英語苦手」気分を払拭させることを狙いにしている。また、Part 2 も語数をできるだけ制限して生徒の負担を軽減するようにしている。内容をより深めたい場合にはTeacher’s ManualAの「題材資料編」(写真参照)をご活用いただきたい。

 Enjoy Communication! については、巻末に「音声スクリプト」を添えた。その理由は、リスニングの目的が用意されている質問に正しく解答をすることではなく、耳に入ってくる音をメッセージとして捉えようとする姿勢を育んでもらうことにあるからだ。内容がわからなければ単なる雑音に過ぎないということである。

 編集方針Cについては各レッスン冒頭の日本語イントロを生徒に読ませるときに認識させていただきたいし、Try It! でそれが更に明確化されると確信している。

2. 19年度版改訂の主旨・ポイント

 VISTAの編集部は現行テキストについてさまざまな角度からのアンケート調査を現場の先生方にお願いしている。その目的は先生方のご意見やご批判を取り込み、より良いVISTA を編集することにある。アンケートの結果を踏まえて今回改訂した点を以下に紹介したい。

  1. 「学校で使える日常会話表現」を扱ってほしいとのご希望にこたえてGet Ready! 2を全面的に変更した。
  2. 各レッスン冒頭に他社のテキストにあるような“Warm-Up” コーナーを設けてほしいというご意見があった。この意見にこたえるため日本語イントロに変更を加え「問題提起型」にした。その部分を利用されるについてはTeacher’s Manual Aの「題材資料編」を活用していただくと、Warm-Upの色彩が一層強まると確信している。
  3. Practice!(練習問題)にStudy It!(文法解説)のレファレンスを入れてほしいというご意見があった。これまではページ面の複雑化を避けるためこれを設けていなかったが、今回さりげない形で入れてみた。生徒が練習問題に取り組みやすくなったと確信している。
  4. Enjoy Communication! が使いにくいという意見があった。Listen! で始めていたためと判断しKey Expressions! で始めるようにした。これによってまず基本会話を定着させ4技能の活動をスムーズに行えるように図った。
  5. ゲームなど楽しみながら英語に触れられる工夫がもう少し欲しいという意見があった。この点はGet Ready! やTake a Break! などでカバーしてきたつもりだが、新たに動詞の変化形を楽しく学習することができるようにSlides and Laddersというゲームを加えた。
  6. レッスンそのものについては特に評価の低いレッスンはなかったが、新鮮味を出すために敢えて二つのレッスンを差し替えることにした。それを以下で紹介する。

3. 改訂に伴いVISTA I に収録された新レッスン

Lesson 5 Women’s Day and Teachers’ Day

 旧版では外国の高校生活を日本から遠いアフリカのケニアに求めたが、今回は東南アジアの国ベトナムに求めた。その理由は、ベトナムが比較的身近な国であり、料理なども紹介されていながら高校生の実情はあまり知られていないからである。Women’s Dayとは「国際婦人デー」(3 月8 日)に行われる行事で、べトナムの学校では男子が女子に贈り物をしたり、学校の掃除をしたりする日だという。またTeachers’Day はベトナム以外の国々でも行われているようだが、その日は授業を行わず先生と生徒とが一緒にゲームなどをして交流を深めることを目的とする日だそうである。日本での実施は可能だろうか?

Lesson 9 Footpaths

 英国の文化については、旧版ではサッカーを素材に国家の在り方を扱ったが、新版ではEnjoy Reading Aloud! でPeter Rabbit を扱っている関係から英国の美しい田園に設けられている「フットパス」という文化を紹介する題材に替えた。「フットパス」とは「遊歩道」のことだが、ただの遊歩道ではない。小川があれば飛び石づたいにウォーキングを続け、柵があればその柵を乗り越えて他人の敷地内にまで「侵入」することが許されている遊歩道のことである。どんなに狭い敷地でも塀で囲む文化をもつわが国ではまず発想しえない施設だ。ナショナルトラストを初めて設けたのも英国だが、そこまでして自然をこよなく愛し、「歩く」ことをもスポーツだと考える英国人気質を充分に味わえるだろうし、日本の遊歩道とのさまざまな比較もできるレッスンであると確信している。

改定新版 『VISTA English Series I New Edition』
現行版 『VISTA English Series I』


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