三省堂高校英語教育 2006年夏号
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「『CROWN English Series I New Edition』の編集にあたって」慶應義塾大学 霜崎 實

はじめに

 題材の新鮮さを大切にしつつ、4技能の有機的な融合を取り入れた新しいタイプの英語教科書として、現行版『CROWN English SeriesT』を世に問うたのが2003年のことである。幸い多くの先生方からの支持を受けることができたのは、われわれ編集委員にとってたいへん有難いことであった。それから3 年が経過し、今回、2007年度の使用開始に向けて、改訂版『CROWN English Series T New Edition』を編纂するに至った。

 今回の改訂は、学習指導要領の部分的な見直しを受けたものであるため、現行版のときのような全面改訂ではなく、部分的な改訂に留めているのが特徴である。したがって、基本的な編集方針は堅持しつつ、(1)本課2レッスンの差し替え、(2)リーディング教材2 編の差し替え、(3)発展的学習の導入、(4)レッスンの再編成、(5)Activity Workshop の再編成などを行った。以下、こうした改訂のポイントについて、その概要を説明しておきたい。

改訂のポイント

(1)本課2レッスンの差し替え

 今回の改訂では、現場からの声を参考にしつつ、本課8 レッスンのうち、第1 課と第3 課を差し替えることにした。

 Lesson 1: New Faces, New Places では、各課で取り上げる人物に登場してもらい、生徒へメッセージを伝えてもらう形式を採用した。これは全く新しい試みであるが、いわば『CROWN English Series T』への導入のレッスンとして、教科書の全体像を俯瞰することによって、第2課からの学習が容易になるよう意図したものである。

 Lesson 3: Abu Simbel ─ Rebirth on the Nile では、アブシンベル神殿の危機と人間の叡智をテーマとして取り上げた。この神殿は、ダム建設により水没する危機にさらされるが、ユネスコとエジプト政府の働きかけによって、世界各国から技術的、経済的援助を受け、最終的にはこの巨大な遺跡を60メートルほど上の丘に移築することに成功した。これが契機となり、世界遺産の保護運動が始まったのは、注目に値することでもある。

(2)リーディング教材2編の差し替え

 リーディング教材は、生徒に英語による読書体験の面白さを味わってもらうことを主眼としたものだが、今回は次の2編を新たに取り上げた。

 Reading 1: Fast Food は、ショートショートの第一人者である星新一の作品の英訳版である。野菜の生育を促進する薬品を手に入れた人物が、それを使って一儲けをしようと考えるが、その結果は果たして如何に。楽しんで読めるだけではなく、ささやかな教訓を導き出すこともできるような作品である。

 Reading 2: The Green Door は、O. Henryによる短編である。彼の作品はこれまでにも何度も教科書で取り上げられているが、今回は、趣の異なる作品を取り上げることにした。ある青年がふとした偶然からある女性と出会う。人生における出会いの不思議さを感じさせてくれる作品である。

(3)発展的学習の導入

 今回の改訂では、学習指導要領の基準を超えた学習内容を一定の制限のもとに取り扱うことが可能になったことから、Optional LessonおよびOptional Reading を「発展的学習」として導入した。

 Optional Lesson: The Making of Scientific Revolutions では、ドイツ人の気象学者Alfred Wegener(1880-1930)の「大陸移動説」を取り上げる。自らの好奇心を原動力として、小さな証拠を積み重ねることによって構築した大陸移動説は、学会の権威からは拒絶されるが、後にプレートテクトニクス理論に繋がる理論として高い評価を受けることになる。困難に直面しつつも、自己の理論の正しさを確信し、研究を発展させた科学者の生き方から、高校生に何かを感じとってもらいたいと考えている。

 Optional Reading: A Visit from Saint Nicholas は、アメリカの作家James Thurber による短編である。クリスマスイヴに、子供たちはサンタクロースを待ち望んで、なかなか眠れない。物音を聞きつけた父親が、リビングルームに行ってみると、そこには……、といったストーリーで、不思議な雰囲気が漂う短編である。

(4)レッスンの再編成

 各レッスンの基本的構成は現行版と大きく異なるものではないが、改訂版ではpost-reading activity のひとつとして、Comprehensionの直後にFeedbackを新設した。本課を学んだ後で生徒からのフィードバックを引き出し、コミュニケーション活動に結びつけることを狙いとしたもので、英文で3つの指示を提示する形式をとった。生徒は、指示に従って自分の考えを英文でまとめ、それをもとにグループ・ディスカッションをしたり、口頭発表したりすることになる。他にもさまざまな活用法が考えられるが、要は、生徒が本課の内容を自分自身の経験と関連付けることができれば成功である。

 ちなみに、Feedback の新設に伴い、同様の趣旨で設けられていたWhat do you think? は削除し、Words & Expressions はExercises の冒頭に移動した。

(5)Activity Workshopの再編成

 Activity Workshop は、4技能を有機的に関連させたコミュニケーション活動を目指したものであるが、今回の改訂でより使いやすいものに改めた。現行版で3ページ構成になっていた部分を2ページに圧縮し、よりコンパクトな構成にするのと同時に、新たにListen up! を設けた。センター試験でリスニング試験が導入されたことに対応して、リスニングに特化したセクションを設けたものである。もとより、リスニング能力の養成がこのセクションのみで十分だという認識をもっているわけではないが、少なくともその重要性を喚起するためには役立つものと考える。また、Listen up! のセクションと見開きのページにSound Studioを配置することによって、聴き取りと発音のセクションがまとめて提示されたことで、より統一感が増したものと思われる。ぜひ積極的な活用をお願いしたい。

おわりに

 以上が改訂の概要であるが、この改訂によって、総ページ数も現行版の172 ページから改訂版の192 ページに増え、『CROWN English Series T New Edition』が、一段と進化した教科書となったことがお分かりいただけたのではないだろうか。本課の題材の多様性、新鮮さ、高校生の知的好奇心に訴える力、そうした現行版のメリットを最大限活かしつつ、さらに、発展的学習として位置づけられたOptional LessonおよびOptional Reading を加えることによって、より高度な英語に接する機会を提供することが可能になった。『CROWN English Series T New Edition』が、日本の高校英語教育をあらたな高みへと導く教科書として活用されることを期待したい。末筆ではあるが、今回の改訂にあたっては、多くの有益なご意見を現場の先生方からいただいたことを記して、編集委員を代表して心からの感謝の意を表したい。

改定新版『CROWN English Series I New Edition』
現行版 『CROWN English Series I』


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