三省堂 英語ホーム > 高等学校英語 > 『三省堂高校英語教育』 > 2004年 夏号 連載コラム 英国便り | ||||||||||||||||
同志社女子大学 飯田 毅
英国の外国語教育(Modern Foreign Language)は、他のヨーロッパ諸国と較べると一般にあまりうまくいっていないと言われる。その原因の一つに英国人は英語以外の言語を学ぶ必要がない、という考え方がある。しかし、このような時代だからこそ他の外国語を学ぶ意義があるのだ、と主張する英国人もいる。実際の英国の公立学校では、外国語は必修ではあるが、生徒はYear 7の一年間だけフランス語やドイツ語を勉強して、後は自由に選択するようになっている。日本のように大学入試にほぼ必ず外国語が要求されるわけではないので、中等教育を通してずっと外国語を選択したという生徒はわずかである。 英国で外国語科目の地位が確定されたのはほんの十数年前の出来事である。National Curriculumの成立によって、外国語が主要科目に格上げされたのである。因みに、その本は日本の学習指導要領と違って実にカラフルな体裁である。なぜなら、教師だけではなく、一般の人々をも読者としているからである。特に親を意識している点がおもしろい(詳しくは、ホームページ参照:www.nc.uk.net)。 このことはNational Curriculum成立以前の外国語教育は振るわなかった、というわけではない。1980年代に外国語教師を中心とした自主的な外国語改良運動であるLanguage Awareness Movementがイングランド地方を中心に広まっていった。その背景には、運動を進めた教師達に共通の危機感があったからである。それは、読み書き能力の低下、言語差別等の言語教育に対する危機感である。運動の根本は、日常当たり前すぎてあまり振り返ることをしない言葉について、さまざまな興味あるテーマを取り上げながら、生徒にそのおもしろさを気づかせることであり、外国語教育においては言葉の原理を指導に役立てようとするものであった。 写真の彼女はそのような考え方を今でも引き続いて実践している数少ないドイツ語の教師の一人である。私が訪問した時に、Language Awareness Dayという日を設け、全校で一時間ほど時間を取って、それぞれのクラスで言葉のおもしろさを実践していた。彼女の授業を数回参観することができたが、Year 7の生徒に対して常にドイツ語を使って、表情豊かに、生徒をうまく掌握しながら、生き生きと授業を展開していたことが今でも印象に残っている。 |
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