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巻頭エッセイ 忍足 亜希子(おしだり あきこ・女優) 初めて英語を知ったのは、小学部4年生の時でした。私のクラスメートが、ABC のアルファベットを教えてくれたことがきっかけです。アルファベットは、まるで絵のように不思議に感じて「おもしろいなあ」と、興味を持ちました。英語は中学生になったら学べると知り、首を長くして楽しみにしていたものです。ようやく中学生になって英語の勉強を始めたころ、うれしくてわくわくどきどきしました。英語を通して世界が広がり、外国にも興味を持ち、「いつかいろいろな国へ行ってみたい」と思うようになりました。英語は、日本語とは違う一つの言語。文化や生活習慣は違いますが、“違う”から興味も湧くし、「知りたい」と学ぶ意欲も起きるのだと思います。ろう者である私も、聴者とは違う『ろう文化』があります。視覚言語である「手話」を用いています。YES と NO がはっきりしている英語と似て、手話はストレートです。人は皆同じで平等であることに変わりません。ただ“違う”というだけ。目や膚の色、身体の違いや、コミュニケーションの方法が違います。昔、「目を見て話すは失礼にあたる」という古い習慣のあった日本は、特にコミュニケーションを苦手とするようです。私たちろう者は「見る」ことが基本で、相手の目を見て話します。手話のわからない人には筆談、空書、身ぶりなど、コミュニケーションの方法は様々に工夫します。私が必要なのは、介護や介助ではなく、通訳や情報です。福祉的発想で特別な見方をするのではなく、外国人のような感覚で接していただけたら、もっと通じ合えるのに、と感じることが多いですね。 私は、興味を持つと夢中になってハマる方です。英語と出会った時から気持ちは変わらず、流暢に話すのは難しいですが、好きなので今でも勉強を続けています。会話は筆談か、または ASL(アメリカン・サイン・ランゲージ)です。手話は音声言語と同様、世界各地違います。文化が違うので当然ですし、違うから関心も高まります。聞くことからは学べないので、書くことに専念、一生懸命勉強して少しずつ身に付けてきました。日頃から聴者と筆談することが習慣となっているお陰で、書くことには慣れています。いろいろな科目の中で、一番好きな授業は英語でした。英語との出会いから海外にも興味を持ち、世界を旅してコミュニケーションを楽しみたい、と思ったのです。今、それが現実になり、実際に海外各地を旅するようになりました。外国を知るだけでなく、日本を離れると自分の国が見えます。外国から見た日本文化など、“日本人としての自分”についても考えさせられました。英語にこだわらず、フランス語、イタリア語、スペイン語なども勉強してみたいと思っています。「郷に入っては郷に従え」で、行く先々のことばを尊重、その国のことばでコミュニケーションしたいです。ことばは、コミュニケーションを通して心を豊かにしてくれるし、異文化交流は新しい何かを生み出してくれます。互いの違いを認め合い、尊重し合うことが基本姿勢。コミュニケーションを楽しんで親しむことが大切ですね。 【プロフィール】 |
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