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三省堂 英語ホーム > 高等学校英語 > 『三省堂高校英語教育』 > 2002年 秋号 巻頭エッセイ 吉田兄弟

三省堂高校英語教育 2002年秋号
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巻頭エッセイ
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吉田兄弟
(左:兄の良一郎/右:弟の健一)

吉田良一郎
 (津軽三味線演奏家)

 めて英語に出会ったのは小学校6年生の頃だと思います。当然アルファベットの書き方から入って、そして自分の名前を書いたときのちょっとした感動。自分の名前がひらがな、漢字ではなく、英語になって“カッコイイ”なんてね。僕はその頃すでに三味線を弾いていたので、その“感動”は英語にはつながりませんでしたが。どうせ中学生になったら嫌と言っても習うことだろうし……くらいの想いだったかなあ。だから、小学生の頃はその書き方で終わってしまいました。手にしていたのが三味線ではなくギターだったらどうだったんでしょうか。そんなわけで英語はむしろどちらかといえば苦手の分野でした。

 しかし、その中学に入ると運悪く(?)担任が英語の先生になってしまいまして、まさに嫌でも英語を勉強するはめに陥りました。英語を初めて“正面”から捉えたのはそのときですね。でも、当然のことですが、文法も違うし、何といってもあの発音は苦手でした。英語圏の人はどうやって覚えたのかと、まじめに考えていましたよ。どうやら僕の「タイム感」には合ってなかったらしく、結局高校生に至るまで得意科目になることはなく、何とか赤点ギリギリのまま卒業してしまいました。

 でも、社会に出ると痛感させられることが多々ありますね。例えば仕事でもそうです。僕の場合、おかげさまで三味線という楽器で自分を表現し続けた結果、その環境のなかで仕事をすることができるようになりました。当然、日本の伝統芸能である三味線を国内だけではなく、海外にも広めたい、知ってもらいたいと思うなかで、今年の夏にそういった機会にめぐり会え、オーストラリアやフランスに行きました。 

 アーティストとして演奏が上手ければそれだけで良いと思われがちですが、そういうわけにもいかないのです。せっかく興味を持ってくれたのに“それ以上”のことを伝えられない状況がありました。やはり三味線というのは世界的にポピュラーなものではないので、その分興味を持ってくれる人はけっこういましたが、そのとき何も話せない自分に苛立ちみたいなものを感じました。(まあ、僕の場合、飛行機内の乗務員とのやりとりで既に「学生の頃もっと勉強しとけば……」と思っていましたが。)現地スタッフやプレイヤーとのことばの壁はダイレクトに自分の演奏にも多かれ少なかれ影響があるわけですから、そういった部分から見ても、日本のものを正確に伝えるからこそ、余計に英語が必要なんですね。このエッセイに合わせたセリフではなく、十分に痛感させられているこの頃です。


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