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今回と次回のコラムは,小学校の外国語活動必修化の初年度を振り返り,「小学校外国語活動の成果」について,渡邉時夫先生が行った担当教員の意識調査をご報告いたします。 ※このコラムについてのご意見・ご感想をお受けいたしております。 渡邉時夫 1.はじめに小学校の外国語活動は,必修化されてから1年が経ちました。前年度末(平成24年3月)に,長野県内の小学校6年生ご担任の教員を対象にアンケート調査を実施し,外国語活動について多面的考察を試みました。その一部を紹介しながら,「コミュニケーション能力の素地の形成」に関する教員の意識について考えてみたいと思います。
2.調査結果(1)英語を聞き,話す力について まず,英語を聞いたり,話したりする点について,担当教員による子どもたちの評価を見てみましょう。 下記の3つの質問に答えていただき,その結果がグラフです。 <質問1> 英語を聞いて理解する力は相当伸びたと思うか。 <質問1について> この結果の背景として,指導に当たる教員が英語を話す機会が少ない,単に,What sports do you like? ―I like baseball.などのターゲット・センテンスを繰り返しているような授業内容が多い,子どもたちにとってわかりにくい英語を使い過ぎることなどが原因になっているかも知れません。 次のグラフをご覧ください。 これを見ると,ALTとのT–Tの授業時間数が年間14時間以下だった学校が多いことがわかります(51%)。つまり,外国人のALT(Assistant Language Teacher: 英語指導助手)とのT-T(ティーム・ティーチング)の授業が少なく,英語のインプット量が十分でないことがその背景にあることも考えられるのです。 T-Tの授業時間数が年間30時間を超えている学校の67%が,「英語を聞いて理解する力」が伸びたについて,Yesと答えたのに対し,30時間以下の学校のではYesはわずか37%にすぎず,大きな開きがありました。さらに記述式で,「今後どのような改善を求めたいか」回答を求めたところ,90%の教員が「ネイティブ・スピーカーまたは英語のできる日本人のALTの増加」を求めていました。また,「外国語活動は英語のできる教員が担当すべきだ」というコメントも散見されました。 <質問2について> <質問3について> クラスの中で半分以上の子どもが,このような自己表現ができるという回答をいただいた教員は20校(33%)で全体の3分の1でした。残りの3分の2に当たる37校(62%)の教員によると,そのような自己表現のできる子どもはクラスの半分に満たない(あるいは一部に過ぎない)という評価でした。 (2)積極的な態度の育成について 「積極的な態度」を 「大多数の子どもは積極的な態度を身につけた」と考えた教員は,60校中9校(15 %)に過ぎず,「半数程度か一部のみ」,と評価している教員は60校中46校(77%)にも及んでいます。「積極性を修得した子ども」は,クラスの中で半数以上いる,という意識を持った教員がもっと増えてほしいです。 積極的な態度について,筆者は,「英語の学習を通して,考え,気づき,自分の(個性的な)意見を明確にして,仲間や他人の前で,その意見を述べることができる姿勢」だと考えています。小学校の段階では,子どもたちは先生や仲間からの問いかけに対して,Yes,No,あるいは単語やフレーズひとつひとつをはっきり発音したり,逆に相手に対して聞きたいことをジェスチャーや絵などの実物を援用したりして,コミュニケーションの糸口を引き出す工夫のできる子どもを育てたいと思います。大声を上げて,ただゲームを楽しんでいるだけの子どもが,積極性があるとは言えません。 (3)素地の育成について 「できたと思う(Yes)」という回答は60校中23校(38%)に過ぎませんでした。注目すべきは「どの程度の成果があればコミュニケーション能力の素地を築いたことになるのか(素地の程度が不明)」という疑問をもっている教員が3分の1(20校)を占めている点であり,「素地を築いたとは思えない(No)」と回答した教員を含めると33校(55%)に上っています。 学習指導要領では,「コミュニケーション能力の素地を養う」ことが目標となっていますが,その内容と程度が明示されていないため,目標が定かではなく,教育上深刻な問題,と言わざるを得ません。このような状況で教育を進めていかなければならない直接的で主たる原因は外国語活動が「教科ではない」という事実だと思います。教科でないが故に,「教科書」もなく,「専門性」を持った教員もいない,という状況は再考しなければなりません。 3.おわりにALTの増員のALTの採用数については,自治体によって,放置できないほどの差がついているようです。これは,憲法で保障されている「教育の機会均等」の原則を考えると,深刻な情況だと言わなければなりません。しかも,今回の調査によって,ALTとのT-Tの多少が教育効果の差を生んでいることがある程度露呈された以上,各自治体(市町村),あるいは各都道府県で,この問題の解決に取り組むことが急務です。 また,小学校教員の多くが英語運用力向上のための研修を望んでいながら,自治体がその機会を計画的に提供していない現実もあります。教員の負担に配慮しつつ,効果的な研修の機会を工夫してほしいと願っています。 次回(第29回)は,4月に新入生を受け入れた中学校教員の意識調査の結果について述べてみたいと思います。 ![]() ![]() |
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