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課題 |
比率〔%〕 |
|---|---|
指導する教員の研修 |
84.7 |
英語ノート以外の教材・教具の整備 |
37.6 |
ALTなどの配置 |
34.4 |
中学校とのつながりなど小中連携 |
34.0 |
評価のあり方 |
27.9 |
上記の結果から言えることは,@「授業を担当できる教員が絶対的に不足している」,A「魅力ある授業を行うには『英語ノート』(文部科学省)だけではおぼつかない」,B「ALTの配置が不十分である」,という実態があるという点です。なお,ここで留意すべきことは,調査対象が教育委員会であり,特にALTに関しては,実際は配置を望んでいる教員の比率はもっと高いと推測される点です。また,自治体によりALTの配置に関しては相当な差があることも見逃すことができません。
(2) 長野県調査報告(2008年11月実施アンケートのまとめ)
信濃毎日新聞社の協力を得て,筆者が長野県の小学校4〜6年生担当教員を対象に無作為抽出により調査しました。回収率70.0%。
質問 |
回答 |
|---|---|
[1] 「英語活動」を担当したことがあるか |
・ある(68.9%)※ |
| ※「ある」と答えた教員の年間指導時数5回以内(31.4%),10回以内(27.5%) |
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[2] 不安なことは何か (複数回答可) |
・英語の発音(18.3%) |
[3] 意見の自由記述 |
・回答者の90%以上がALTの配置を強く求めている。 |
この調査から明らかになったことは,質問[1]で「英語活動関連の授業をまったく担当したことがない教員」が31.1%,そして「ある」と回答した教員のうち,「年間指導時数が5回以内(2ヶ月に1回程度)に過ぎない教員」が31.4%(全回答者の21.6%)で,両方を合わせると,回答者の52.7%を占めていることでした。
また,質問[2]で,英語の「発音」,「指導法」そして「文法」が上位3つを占めました。比較的経済的に豊かな小規模の市町村は別として,長野市,上田市,松本市などをはじめ,学校数の多い市や町は,予算の関係で小学校「外国語活動」のためのALTを十分に採用できずにいます。
このことは,質問[3]でALTの配置を強く求めている教員が回答者の90%を超えている事実に反映されています。
「外国語活動」を行うのに『英語ノート』のCDだけでは,子どもたちに十分な英語のインプットを与えることはできません。このような状況は長野県に限ったことではないでしょう。しかし,高学年を担当する教員は,移行措置を実施している場合,今年度から「外国語活動」を担当しなければなりません。(1)の全国調査報告の調査結果を見ると,85%近くの教育委員会が担当教員の研修を課題の1位または2位に挙げていますが,その理由が分かるように思います。
そこで今回は,英語に自信がなく,しかもALTが十分に配置されていない環境で,授業をほとんど単独で担当される多数の先生方を対象に,授業の進め方や研修のあり方などについて,アドバイスをしたいと思います。
ALTの配置が十分ではない中,英語の発音や使用について自信のない多数の教員が,単独で授業を進めるにはどうしたらよいでしょう。
「外国語活動」の大きな目標は,コミュニケーションの「素地」を育てることです。そのためには,生徒ができるだけ英語に触れるように環境を整えなければなりません。
しかし,「自分は思うように英語を話すことはできないし,『英語ノート』だけでは同じCDの繰り返しになり,期待されているような,楽しく多量なインプットを提供することは難しい」と考え,悩んでいる教員が少なくないと思います。そのような教員にとって,参考になったり励みになったりするアイディアやアドバイスが,本コラムの第6回から第10回までの執筆者の提案の中にたくさんあります。授業を担当するにあたって,励みになり,役立つと思われる考え方や具体的なアイディアを,以下まとめておきます。
[1] HRTの大切な役割は,「英語を流暢に話すことではなく,学習者の1人になって(学習者のモデルとして),学習を楽しむこと」です。子どもたちと一緒に楽しみましょう。
HRTが絵や地図やイラストなどを使って,英語の指示を子どもたちに分かりやすく工夫し,子どもたちと一生懸命にコミュニケーションしようとしている姿こそ,子どもたちに大きな刺激となり,やる気を起こさせます。HRTの英語だけでなく,様々な音源を活用して,子どもたちが英語に触れる機会を増やし,子どもたちと歌やゲームを一緒に楽しみましょう。
[2] 「一つひとつの単語の意味や文法的な知識を教え込むのではなく,ジェスチャーや表情,絵や写真などを活用して,CDやHRTの話す英語の全体的な意味を大まかに理解できる子どもを育てること」を大切にしましょう。
このような授業を繰り返し進めることが「外国語活動」の目標でもあり,いわゆる「素地」を築くことになるのです。
[3] 「英語のリズム」は大切です。自分の英語に自信がないHRTは,まず英語のリズムの特徴をある程度理解し,そして『英語ノート』のチャンツやその他の教材を活用して,英語のリズムをしっかりマスターしましょう。
英語らしいリズムが習得できると,自然に英語に対する自信が湧いてきます。また,チャンツの指導にも役立つでしょう。同時に,Classroom Englishを正しいリズムで徐々に使えるようになってほしいと思います。『小学校外国語活動研修ガイドブック』(文部科学省)に紹介されているClassroom Englishの一覧表の中から,その日に必要な表現をいくつか選び,例えば,@Today we’re going to learn a new song. AFirst, let’s listen to the CD. BNow, let’s sing the song together. などという具合に,その時々の授業内容に合った一連のcommunication patternを作ってはいかがでしょうか。そして別の授業では,gameをする場合のpatternという具合に,patternを自ら開発すると,次第に英語運用力に自信がついてくるでしょう。
[4] 楽しい活動(ゲームや歌)から始めましょう。
最初から,無理して英語で長々と話そうとしたりせず,ゲームや歌を英語で楽しむような授業をお勧めします。子どもたちも抵抗感を持たず自然に英語の世界に入れるでしょう。同じ歌詞を繰り返し歌うだけでなく,慣れてきたら,歌詞の一部を変えて歌うなど,常に工夫することが必要です。
[5] 子どもたちには,英語を話すことを強要せず,英語を聞く機会をできるだけたくさん与えましょう。
基本的な英語の文をたくさん覚えさせたり,機械的に暗唱させたりすることは,「外国語活動」の目標ではありません。相手の話す英語を聞いて,その内容を大まかに理解できるようになることが一番大切です。
また,小学校の子どもは,そのような力が強いことも知られています。やがて英語を使えるようになるための素地として,「聞いて分かる力」を育てることが非常に大切です。英語を話すことを強要すると,英語嫌いの子どもたちが増えることも報告されています。
ただ,自分には十分な英語のインプットを与えるほどの英語力がない,とお考えの先生も少なくないと思われます。英語を使うことが不得意と思われている教員の方は,多様な音源の発掘に努力してほしいと思います。
※『英語ノート』のCDだけでは不十分だとお考えの方は,市販の教材や,インターネットからダウンロードできる音源を活用されてはいかがでしょうか。
※『KIDS CROWN』(三省堂)の指導資料付属のCDなどを,音源の1つとして活用されるのもお勧めします。『英語ノート』と組み合わせた使用も効果的です。
[6] 教材の発掘や指導法の工夫など,1人で考え込むのではなく,同僚などとの協働作業を大切にしましょう。
テーマや教材の発掘,制作,活用などの仕事は1人ではできません。少なくとも,同じ中学校に子どもを送り出す近隣の小学校の教員同士の交流が大切と思われます。そのような協力体制は,やがて小中の連携へと発展するものと信じています。
[7] ALTとのT-Tにおいては,HRTが主導権を握り授業を進めましょう。
英語が不得意とお考えの教員は,とかくALTにすべてを任せてしまいがちです。しかし,他教科の場合と同様,子どもたちの性格についてはもちろんのこと,他教科で学んでいる内容や,一人ひとりの生活環境まで熟知しているHRTが授業の中心になることが大切です。テーマや話題の選定,指導案の作成,ALTとの打ち合わせ,授業の進行,タイムキーパーとしての役割(ALTが長く話しすぎている場合にはストップをかける)など,主体性を発揮して授業にあたってほしいと思います。
[8] ことばや文化について子どもたちの気づきを高めることも「外国語活動」のねらいであることを大切にしましょう。単に英語の単語や文を理解したり,表現できるようになるだけが「外国語活動」の目標ではありません。ことばや文化について気づく力(awareness)を高めるよう常に教材の収集に努めましょう。
この点は英語力のあるなしには無関係です。例えば,英語はstressまたはaccent(音の強弱)が重要な役割を果たしていますが,日本語の場合はpitch(音の高低)が大切であることなどに気づかせる,といったことが考えられます。このことは「橋」と「箸」の違いだけでなく「葉が黄色い」と「歯が黄色い」を言わせてみると,その違いに気づかせることができます。
また,英語では「手の指」は‘finger’,「足の指」は‘toe’と異なった単語を使うが,日本語の場合は手も足も同じ「指」という単語を使うこと,また,日本語では「人差し指」と呼ばれている指は英語では‘first finger’,‘forefinger’や‘index finger’などと呼ばれていることや,英語圏の人々にとって,指で人をさすことは,望ましいことではない,などの話をすることは意味のあることと思います。自文化の尺度で他文化の人々の行動を推し量ってはいけないこと(自文化から解放され,文化相対主義の考え方に立てること)の大切さを徐々に学ばせたいと思います。
上記にまとめた考え方やアイディアを日々実践することによって,英語に対する抵抗感が弱まるだけでなく,「外国語活動」の授業に自信を持って取り組むことができるようになると信じています。
今回はどちらかと言えば英語が苦手な教員の皆さん向けの内容になりましたが,ある程度英語を使うことができ,ALTとのT-Tを頻繁に実践している教員も少なくないと思います。
そこで,次回は,英語を得意としている教員や,ALTとのT-Tを一層効果的に進めたいと願っている教員へのご提案や,2学期に向けてさらにステップアップするための準備などについて述べてみたいと思います。
※読者の皆様からコメントやたくさんの経験談などを期待しています。
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