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『小学校英語で身につくコミュニケーション能力』

付きリスニングテストDVD湯川笑子・高梨庸雄・小山哲春 著

本体2500円+税 A5判 212ページ
ISBN 978-4-385-36401-8
2009年3月10日刊 

小学校英語で児童が身につけた「コミュニケーション能力」とは? 外国語活動が必修化された今、児童・教師を対象にした調査を通してこれまでの成果を検証し、今後の展開の可能性を探る。リスニングテストDVD付き。

著者紹介 目次 はじめに

著者紹介

湯川笑子 (ゆかわ・えみこ)

滋賀県出身。滋賀県立高校教諭,京都ノートルダム女子大学助教授を経て,現在立命館大学教授。専門分野はバイリンガリズム、応用言語学。主な著書に『L1 Japanese Attrition and Regaining: Three case studies of two early bilingual children』(くろしお出版)などがある。

高梨庸雄 (たかなし・つねお)

山形県出身。青森県立弘前高校教諭,青森県教育センター指導主事,弘前大学教授,京都ノートルダム女子大学大学院教授を経て,現在弘前大学名誉教授。専門分野は英語教育学。主な編著書に『教師の「授業力」を高めるために』(三省堂),『教室英語活用事典』,『英語リーディング事典』(共に研究社)などがある。

小山哲春 (こやま・てつはる)

兵庫県出身。京都ノートルダム女子大学准教授。専門分野はコミュニケーション学,語用論。主な編著書に『ことばと認知のメカニズム』(ひつじ書房)などがある。


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目次

第1章 小学校英語と評価 
     1.1 はじめに
     1.2 評価について
     1.3 英語コミュニケーション能力の評価についての先行研究
     1.4 本書の構成

第2章 小学校英語の到達目標
     2.1 総合的な学習の時間の中での小学校英語
     2.2 研究課題
     2.3 調査方法
     2.4 結果と考察
     2.5. 第2章のまとめ

第3章 YTKリスニングテスト(「英語ちからだめし」)の構築と内容
     3.1 学校訪問による英語授業内容の把握
     3.2 テスト構築のための言語能力モデル
     3.3 テストスクリプトと解答
     3.4 「英語ちからだめし」解答用紙
     3.5 YTKリスニングテストと同時に実施した「英語学習についてのアンケート」の目的と概要
     3.6 YTKリスニングテストと同時に実施した「英語力についての自己診断シート」の目的と概要
     3.7 第3章のまとめ

第4章 YTKリスニングテストの結果
     4.1 YTKリスニングテストほか2点の調査で問うたこと(研究課題)
     4.2 テスト参加者
     4.3 テスト実施要領
     4.4 結果
     4.5 第4章のまとめ

第5章 YTKスピーキングテスト(「Let's talk」)の構築と内容
     5.1 小学生の「スピーキング力」を測りたい理由
     5.2 スキャフォールディング(scaffolding)のあるスピーキングテスト
     5.3 YTKスピーキングテストの評価表
     5.4 YTKスピーキングテストの実施と評価作業
     5.5 第5章のまとめ

第6章 YTKスピーキングテストの結果
     6.1 研究課題
     6.2 YTKスピーキングテストの参加校と参加人数
     6.3 結果
     6.4 第6章のまとめ

第7章 評価を生かした小学校英語と中学校との連携
     7.1 到達目標アンケート,YTKリスニングテスト,YTKスピーキングテストからわかったこと
     7.2 YTKテスト結果を取り入れた小学校英語カリキュラムへの提言
     7.3 YTKテストの有用性―j小学校でのケーススタディー
     7.4 中学校のカリキュラムと指導方法への提言
     7.5 第7章のまとめ


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はじめに

 あれは,筆者らが英語教育分野のニーズと勤務校の要請に応えて,小学校英語の調査を始めた2000年頃のことであった。ある教育大学の附属小学校で熱心に英語活動を推進していたK先生がこう漏らされた。「とにかく子どもたちが楽しくやってくれれば,それが目的なんだし十分だと思ってはいるんです。ただね,高学年になると,これだけ何時間もやってきたんだから少しは英語も残っていてほしい,そうでないとちょっと時間がもったいないと思ってしまうんですね。」

 あの頃はまだ,2002年実施の現行の学習指導要領で初めて英語活動を取り入れてもよいと決まったばかりで,そのことが日本中で大きな話題となっていた時期であった。英語活動を先行実施していた学校も,多くは年間実施回数がほんの数回にすぎず,しかも全学年で実施できるような予算措置はなくて,特定の学年だけで実践するといったことが珍しくはない頃であった。外国人ゲストを迎えて一緒に活動をしたという体験そのものが,何らかの教育的価値を生んだに違いないと誰もが考えるだけの新鮮さがあり,それを通して英語の何がわかり,英語で何ができるようになったなどということを問題にする(できる)ような学校はほとんどなかったといってよい。しかし,あれから約10年がたち,K先生の当時の赴任校のように,3年生から6年生まで約週1時間かそれ以上の英語活動を実施する学校も増えてきた。その結果として,K先生の思いを共有する人は年々増えているに違いない。

 小学校英語について継続的に調べる中,筆者らが小学校関係の先生方と出会う頻度も年を追うごとに増していった。M先生はそうした交流の中で今年(2008年)出会ったある小学校の校長先生である。M校長先生は全体的に落ち着いた学区で,力量の高い教師集団が先進的に小学校英語活動を推進している公立学校に勤務されている。その学校の児童が進学し,中学校で英語学習をする様子を評してこうおっしゃった。「これだけやっているんですからね,やはり英語を聞く力なんかが昔とは違うらしいですよ。でもね,それは最初だけで,中学2年生くらいになるともう昔の生徒と変わりません。」英語活動のねらいが,この時点では情意面でのいわば「向上目標」のような性質のものであり,それぞれの学年やそれぞれの単元で明確に設定された「達成目標」でない以上,小学校の実践が進み,何らかの力が身についていたとしても,身についた力は測られることも記述して申し送られることもない。中学校教員には成果が見えにくく,実際のところ,身についた力を中学校で継続的に生かす試みはまだほとんど進んでいない。「歌とゲームで遊んできただけだから,さして何も身についているわけじゃなし」と,小学校で育った力を把握する意義を認めない教員もいる。同じ学区内にある複数の小学校の実践に差があることが多いのに加え,塾をはじめとした学校外の教育力が大きく関与する科目だけに,生徒のレベルが一様でないという難しさも手伝って,小中のカリキュラム上の連携はまだまだ進みそうもない。ただ,そのために学習の進んでいる児童が退屈し,進んでいない児童は(特別の手当てがないため)ほかの児童に気後れするのでは,そもそも「意欲・関心・態度」を育てようとしたはずの小学校英語のねらいすら,存在意義が薄れてしまう。小学校卒業時の児童の状態をまず把握し,どのような対応が可能なのかを模索する時期に来ているのではないだろうか。

 こうした状況をふまえ,筆者らは小学校英語担当者が児童らにどのような到達目標をたてて指導したいと考えているのか,また,実際に児童らはどのような英語なら聞いてわかるのか,英語でどのような「コミュニケーション」ができるようになっているのかを調べようと考えた。その際に,2007年当時の文部科学省の調査で約2割は存在すると考えられる,3-6年生で年間20時間程度かそれ以上の英語活動を実施している学校の児童を調査対象とした。今後の英語活動の広がりにいわば先んじる形で傾向をつかみ,今後のカリキュラム整備や小学校での英語活動の指導法,中学校への連携に貢献したいと考えたからである。本書はこうした意図をもって実施した一連の研究の成果をまとめたものである。

 本書を準備している間に新しい学習指導要領が告示され(2008年3月),全国で500を超える英語活動推進のための「拠点校」に,『英語ノート』という教科書に準じた教材の試作版が配布された。『英語ノート』は2009年には全国に配布されると言われており,2011年の新学習指導要領の完全実施に向けて,全国的な英語活動のカリキュラム整備がようやく進み始めた。今後さらに検討・整備が必要となる小学校英語教育の向上のために,本書の実証データが一助となれば幸いである。


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