教育サポート書籍

力のつく 古典入門学習50のアイディア

教育文化研究会編

定価(本体2,200円+税) A5 224頁 ISBN 978-4-385-36170-3
2004年9月1日発行

楽しみながら古典に親しむための学習アイディア50編を収録。ただ名文にふれるというだけでなく、さまざまな角度から古典の世界にアプローチできる学習活動例を満載。古典に関するコラムも充実。

 

[品切れ]

[監修]
中島國太郎
 (なかじま くにたろう)

1927年(昭和2)生まれ。東京高等師範学校卒業。都内公立中学校教諭、東京都教育委員会指導主事、新宿区立戸山中学校長、ソニー学園湘北短期大学教授を歴任。教育文化研究会会長。

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崎 (いわさき じゅん)

1961年(昭和36)生まれ。早稲田大学大学院博士課程修了。学習院中等科教諭。都留文科大学・学習院女子大学講師。教育文化研究会理事。

杉山 るり子 (すぎやま るりこ)

1948年(昭和23)生まれ。中央大学文学部国文学科卒業。東京都江東区立深川第三中学校教諭。教育文化研究会理事。

松本 和博  (まつもと かずひろ)

1970年(昭和45年)生まれ。早稲田大学大学院修士課程修了。学習院中等科教諭。

崎 誠也 (やまざき せいや)

1933年(昭和8年)生まれ。東京学芸大学国語国文学科卒。都内公立中学校教諭、板橋区立板橋第一中学校長など歴任。現在、武蔵野音楽大学講師。教育文化研究会副会長。

脇本 清明 (わきもと きよあき)

1933年(昭和8)生まれ。日本大学文学部国文学科卒業。東京都墨田区立中学校教諭ほかを歴任。現在、墨田区区民講座講師。教育文化研究会理事。

 

大平浩哉

 アニメの長編映画『千と千尋の神隠し』の原作者・監督として著名な宮崎駿さんのことばに、「歴史をもたない人間、過去を忘れた民族はかげろうのように消えていく」というのがあります。
これは、過去に学ぶこと、歴史に学ぶことの大切さを説いたものですが、自分の国の言論文化、古典を学ぶことの大切さにもつながってくると思います。古典に親しむことによって、日本人が日本人であることの自己認識(アイデンティティ)を、少しでも深めていくことができるからです。

 世界の先進諸国では、つとに自国の古典の学習を大切にしています。例えば、フランスでは、フランス語(つまり「国語」)の教育目標に、基本的な言語表現力の育成と、フランス人がフランス人たり得るアイデンティティの形成に必要な言語文化の習得、との二つを掲げて週六時間(コレージュ〈中学校〉の基準時数)の授業を行っています。

 それに比べて日本の場合はどうでしょうか。中学校国語の授業時数は週四・三・三時間に減らされ、「学習指導要領(国語)」でも古典の学習に関しては、各学年とも授業時数すら明示されていません。

 また小学校国語でも、六年間で二二四時間減り、古典教材に至っては、わずかに詩歌や狂言などを載せるにとどまり、物語などを児童向きに書き改めたり口語訳で読ませたりして古典に親しませる工夫はゼロに近いのが現状です。そしてついに、古典教材がゼロになった教科書も現れました。これは小学校の「学習指導要領(国語)」に「易しい文語調の文章を音読し、文語の調子に親しむこと。」(五、六年生)とあるだけで、古典の学習にはひと言も触れていないことに起因しています(「文語調の文章」とあるだけですから、近代以降の文語文でも構わないわけです)。

 したがって今後、中学校では古典に全く触れたことのない生徒を対象に、授業を進める場合もあり得るのです。なぜこのように日本では、古典の学習を軽視するようになったのでしょうか。次の教育課程改訂のときは、厳しく検討し、改善する必要があります。

 ただし、実際に教室で古文や漢文を教えるとなると、さまざまな工夫が必要となることはいうまでもありません。古典教材に描かれている昔の人の風俗・習慣も、ことば遣いや語彙、表記の仕方も文法も、現代のそれとは相違があり、読むのにかなりの抵抗があるのは事実です。そして生徒たちの間には「なぜ古典を勉強する必要があるのか」と、疑問を持つ者も少なくないと思います。

 そこで古典の指導にあたっては、学習への興味・関心を持たせるよう工夫する必要があるのはもちろんのこと、古典の学習が必要かつ大切な理由についても、折りにふれて実感させることができるような配慮も必要かと思います。このあたりのことをめぐって、私たち教育文化研のメンバーは、ここ二年ほどの間、教室でのさまざまな実践例を持ち寄っては、指導上の効果的な工夫などについて検討、討議を重ねてきました。

 その結果、ご覧のような「古典入門」のアイディア集としてまとまりました。従来の類書には見られないような新教材や実践例がたくさん収められ、教室での学習指導に直接お役に立つ、重宝な資料集、アイディア集であると確信しております。広くご活用くださるよう望んでやみません。

(おおひら こうや・元早稲田大学教授)

あとがき

教育文化研究会会長 中島國太郎

▼私たちが「気軽に楽しく短い時間で力のつく50のアイディア」の四冊目として「古典入門」を取り上げたのは、二〇〇二年度を迎えたころでした。そのころは、生徒たちの力を過少にとらえ過ぎたのか、そんなに勉強をしなくていい、と考える人が多く見受けられるようでした。でも、実際には違います。国語の勉強をもっとしっかりやってほしい、さらに優秀な人が世に出ることを望む、という声が日に日に強くなり、「名文暗唱読本」などが続々発行されるようになりました。一方、学校で学ぶ国語の時間が減少し、そのうえ古典に関する教科書教材も数えるほどしか取り上げられなくなりました。これでは、力のつけようもありません。そこで私たち教育文化研究会員は、少なくなった学校の時間を工面して小・中学生の皆さんが興味をもつ素材を、「気軽に」見、実際には慎重に選び、できるだけ「楽しく短い時間で力のつく」方法を生み出し、何回も実験を重ねて、ようやくこれならばと思う自信作を得たのです。

▼つまり、①小学生から大人まで、②日本語ブームの折から、③稽古事として、生涯学習の課題として、あるいは欲している学習のテキストとして、④遊びの要素を含んだ、積み上げの効く練習学習として、ときによっては古くから伝えられた、今の子に伝える古典の学習として、⑤優れた指導、変わったユニークな指導法を開発して、教育文化研究会として取り上げることにしたのです。

▼言い換えれば、会員みんなが、学習としてぜひ取り上げたい古典の作品をあげ、それぞれの得意な分野で子どもたちが古典の作品を好きになり、読み解いたり創造したりする力がつく方法を探究し、子供の反応やいろいろに表現した作品例などを挙げ、何度も実験を重ね、それでいてごく自然な無理のないやり方に全神経を集中して繰り返し研究会を開き、議論を交わしながら覚えやすい、自分の子どもや孫に提供したくなる事例を選びました。

▼これから先も、子どもたちはもちろん、生徒も大人も学習する価値ある学習材を発見し、学習者が学びやすい、覚えやすい、自然にできてしまうような方法を開発したら、ここでの例を参考に、左にあててお知らせください。
東京都世田谷区北沢二の二六の三  教育文化研究会
その際、差出人、住所、氏名、職業、お差し支えなければ年齢も書き添えてください。私たちは、あなたを同志として歓迎します。どんなご職業の方でもけっこうです。

▼古典の指導に関するコラムには、末尾に執筆者名を記してありますが、アイディアについては執筆者名を記してはありません。研究会を重ねる中で、会員が相互にアイディアを提示し合い、授業で確かめ修正を加え、共同で開発した共有のアイディアということからです。

▼この本の編集を終わるに当たり、絶えず会に参加して励ましていただき御示唆も仰ぎ、序文までいただいた元早稲田大学教授大平浩哉さんをはじめ、いち早く実践事例を寄せてくださった方々、また三省堂の方々、とりわけ前事業部学事本部長岩屋正雄さんにはたいへんお世話になりました。厚くお礼を申しあげます。

(なかじま くにたろう)