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前回のリレーコラムで,沖浜真治先生が,本校で取り組んでいる生徒主体の「学びの共同体」のねらいや進め方,中学校での取り組みについてお話しされていますので,今回は高校での実践報告,及び「学びの共同体」を取り入れて,学校がどう変わったかについて述べたいと思います。 まず,「学びの共同体」を取り入れた高校の英語での授業例です。 リーディングの授業で,新しいセクションに入るとき,全員で音読をした後でグループに分かれて内容理解をすることがよくあります。グループ内の4人で順番に訳してみるように指導します。もちろん,難しい箇所は習熟度の高い生徒が説明する場合もありますし,だれも訳せずにとばして進むこともあります。予習をしている生徒としていない生徒がいましたが,最近は全くやってこないと友だちにあきれられるので,少しずつ事前に教科書を見てくるようになったように思います。 もう1つ,これは英語が比較的得意な高3のクラスで昨年実際におこなった活動です。ディベートでよく取り上げられるようなテーマを選び,グループ内で英語によるディスカッションをさせました。高校生に英語でディスカッションは無理だろうと思われるかもしれませんが,生徒たちはなんとか英語で話そうと(時折り日本語の単語を交えつつも)よく頑張っていました。ちなみに話し合った題材は「コンピュータに子どもは何歳のとき出会うべきか」「英語教育は小学校から始めるべきか」などです。 なぜ可能だったかを考えてみますと,そのクラスは選択授業で,本校の中で実力のある生徒が集まっており,クラスサイズも17人と小さかったことも要因の1つでしょう。また1年生のときから1学年3クラス(全体で120人)という具合に,学年の人数規模が小さいこととも関係しているのでしょうか,男女を越えて生徒の仲がよいこともその要因に挙げられるでしょう。 しかし,やはり「学びの共同体」でグループ活動に慣れていることが,大きく貢献していると思われます。話し合いの後はグループの1人が起立し,話した内容を簡単に発表させることにしていました。うまくまとめられないこともありましたが,暖かいムードで励ましあうような雰囲気がありました。 では次に,「学びの共同体」導入の成果についてお話しましょう。 「学びの共同体」を取り入れてから何が変わったかという問いに対して,生徒は次のように答えました。「先生が授業中に回って来てくれるので,先生に直接質問をする機会が増え,先生との距離が近くなった」「必ずグループの人と話すので友だちが増えた」「友だちと答えを確認してからもう一度先生から説明を受けるので理解が深まった」など。もちろん課題も多く,教科によっては「進度が遅れる」という感想も聞かれますし,「学力の高い生徒に物足りないのではないか」という意見を聞いたこともあります。そのような意見に対してはさまざまな工夫をしているところですが,私たちとしては,わからない生徒に教えることによって,教えている生徒の理解も深まると考えています。実際,ある優秀な生徒が,高2の数学で(ことばは悪いのですが)最下位に近い生徒と同じグループになり,繰り返しその生徒が理解できるよう教え続けたということがありました。結果,教えていた生徒も教えたことでより深く理解し,かなり難しい期末試験で満点をとったことがありました。 「学びの共同体」によって教師側も変化しました。その一例として,まず授業検討会について触れなければなりません。5年前から私たちは,月に一度,同じ学年の担当者の授業を他教科であっても全員で見学し,授業後に授業のようすを撮影したビデオを観ながら「生徒がどのように学んでいったか」について意見交換するようになりました。「自分の授業ではいつもおとなしいA君がこの授業では生き生きとリーダー役を果たしていた」「自分の授業では発言の少ないBさんがこの授業では何回もC君に質問をしていた」などの意見が出され,自分の授業では見られなかった生徒の新しい面に出会い,驚いたり,感心したり,考えさせられたりしました。 またそれと同じくらい大きな,別の発見がありました。私たちは,職員室で隣に座っている他の教科の先生がどんな授業をしているか,それまで全く知らなかったのです。しかし工夫に満ちた情熱的でわかりやすい他教科の授業を見学し,学ぶところが多く,教員間の距離も以前よりぐっと近くなったように思います。専門外なので細かいところはわかりませんが,理科や数学の授業を見学したとき,それらの世界に引き込まれ,学ぶことの楽しさを改めて感じることもしばしばです。もちろん自分がある程度勉強した国語や社会の授業も大変興味深く,高校生のときこんな授業を受けたかったな,などと思います。 全校規模の授業検討会はすぐにできるものではないかもしれません。でも私は,以前勤めていた学校で英語科を中心に月に一度の勉強会をしたことがあります。その中で私たちは配布物を交換し,持ち回りで発表をする形をとりながら,指導法について議論しました。その集まりが2年続いた頃には,他教科の先生も何人か加わっていました。初めは数人からでよいと思うのです。授業をオープンにし,お互いに授業を見合うだけで何かが確実に変わるように思います。 「学びあい」によって,生徒が変わり,教師も変わり,そして学校全体が変わっていく,ということを日々実感しています。 松村厚子 (まつむら あつこ) Copyright (C) 2011 SANSEIDO publishing co.,ltd. All Rights Reserved. |