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英語教育リレーコラム

学び合い:「学びの共同体」による協同学習に取り組んで

沖浜真治(東京大学教育学部附属中等教育学校)

私の勤務校では,2005年度から東京大学大学院教育学研究科の佐藤学教授にアドバイスをいただきながら,「学びの共同体」と呼ばれる「協同学習」を全校体制で導入し,実践と研究を続けてきています。ひと口に「協同学習」と言っても,その考え方や実際のやり方,呼び名にもいろいろあるようですが,「小グループでの学習活動を取り入れて,生徒同士での学びあいを高めていくことで,学習のレベルを向上させようとする」という点では共通しています。ここでは,私たちの学校で行ってきた「学びの共同体」の様子について簡単にご報告させていただきます。

最初に全校体制と書きましたが,「学びの共同体」の特徴の1つは「すべての教員が行う」という点です。ですから,すべての授業で何かしらのグループ活動が行われるということになります。と言っても必要なときにグループ活動を行うということであって,1時間中ずっとグループでいるというわけではありません(もちろんそういう場合もあります)。グループ活動が行いやすいように,教室の机の配置もコの字型になっていて,HR活動など授業以外の時間でもそのままで行われることが多くなっています。こうしたことは,生徒に対して「学習は人と学びあいながら行うもの」という強烈なメッセージになっているのではないかと思います。授業中に課題がうまく解決できない場面や,時にはテスト前まで(!?)「先生,学びの共同体(やろう)!」というリクエストが出ることがありますが,こんな時,生徒の中に協同学習が定着しているのだなと感じます。

こう書くと学びあいの効果について,「いつも人に頼っている生徒は実力がつかないのではないか?」と不安になる方もいると思います。またこうした「ただ乗り」を防止するための工夫について書いてある本もあります。でも「学びの共同体」では,過度にこの点を心配してはいないようです。勉強が苦手な生徒ほど自分で解決しようとする傾向があるという調査結果もあります。自分からヘルプを要請できるようになれば,問題の半分以上は解決したというのが多くの教師の実感ではないでしょうか。佐藤先生は常々,「教えてあげなさい」ではなくて,「わからない人はグループの人に質問しなさい」と指示するようにアドバイスしてくださっています。

グループ活動では,どんなグループを作るのかが大きな問題になります。何らかの形で均質なグループをつくるのも1つのやり方ですが,「学びの共同体」では無作為の4人グループを使っています。もちろん集まったメンバー同士の関係がうまくいかない時もありますが,定期的にグループ替えを行なうことと,そのようなグループに集中的に教師が援助することでその弊害を最小限にするよう努力しています。またグループで無理やり意見を1つにするのではなく,グループで学びあいながら各自が自分の意見を持てるようにすることも大切だと言われています。

ではどんな課題が適当なのでしょうか。佐藤先生はやさしい課題に短時間で取り組ませる「個人学習の共同化」のためのグループ活動と,「高いレベルの課題を設定し,主にグループ活動を活用して低学力層の学力を引き上げると共に,高学力層の子どもの発想力や創造性を培う学び」の「ジャンプと背伸び」の課題の2つがあり,どちらも大切であると指摘しています。中学校での授業で言えば,前者では教科書のチェインリーディング,日本語訳確認,練習問題への取り組み・答え合せ,後者ではキーワードによる教科書の内容の口頭要約,群読,ミニ台本演技発表,分担しての英文読解(ジグソー),単語カードを並べかえての英文づくり,スキットづくりなどを行なってきました。この他にマイクロディベートなどもできそうです。

学び合いの活動を2つほど少し具体的に紹介しましょう。チェインリーディングでは,音読練習のバリエーションの1つとして,ワンレッスンを1文ずつ交代で読んでいって読み方の復習をします。変形として,1行ずつ(文の途中でも)交代していって,途切れずにまるで1人で読んでいるかのように読むというのもおもしろがってやります(これは明治大学教授の齋藤孝さんの日本語音読指導練習法の英語版)。ミニ台本演技発表では,3年生のキング牧師のレッスン終了後に教師用指導書 C言語活動ワークシート集にある「差別されるってどんな感じ?」をグループで演技練習し,発表会をやりました。キング牧師やローザ・パークスさんになりきって,当時の社会状況をにじませる場面を演じる活動ですが,迫真の演技があったり,動いてみると当日のできごとのディテールについて想像しあったり,質問してくるグループもあってより学びが深まりました。でも私たちもまだまだ試行錯誤の最中です。特に「ジャンプと背伸び」の課題設定の難しさを感じています。

ここまでお読みになっていただいた方も「附属学校だから」「全校体制でやっているから」できるのではないかとお感じの方もいらっしゃると思います。何回か行なった生徒へのアンケートによればいずれも70〜90%の生徒が支持しています。生徒は(そして教師も)一方通行の授業ではなく,人とのやり取りの中から学ぶ授業を求めています。また感覚的な表現で恐縮ですが,以前にくらべて生徒がおだやかでよりなごやかな雰囲気になってきました。私の知っている方の中には,まず自分の授業で「協同学習」を始め,職場で自主的な勉強会を開いて少しずつ広げようとしている方,管理職と相談し学校体制で始めようとしている方などもいらっしゃいます。1人だから何も効果がないとは言えないでしょう。興味をお持ちになった方なら,とりあえず自分で始めてみる価値は絶対にあると申し上げておきたいと思います。

注:「共同」と「協同」の漢字の使い分けについて。
「学びの共同体」は佐藤学先生の命名によっています。「協同学習」はcooperative learningの一般的な訳語に準じました。

<参考文献>
「公立中学校の挑戦」佐藤雅彰,佐藤学 ぎょうせい
「学校の挑戦 学びの共同体を創る」佐藤学 小学館
「先生のためのアイディアブック −協同学習の基本原則とテクニック」 ナカニシヤ出版
“Circles of Learning ? Cooperation in the Classroom” D. Johnson, R. Johnson

沖浜真治 (おきはま しんじ)
東京大学教育学部附属中等教育学校教諭。都内公立中学校数校の勤務をへて,現職校に。

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