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英語教育リレーコラム

英語の音を楽しもう! 〜カタカナ語と英語〜

貫井洋(駒澤大学高等学校)

 日本語には英語由来の外来語がたくさんあります。しかし,いざその語を英語で使おうとすると,音が違い,通じなかったという経験をお持ちの方も多いと思います。日本語化された音から,英語の発音やつづり字を比較的容易に想像できるものも中にはありますが,当然のことながら日本語と英語では発音が違います。今日は日本語でのカタカナ語と英語との音の関係を数例取り上げて,授業の余談にでも使えるものを扱ってみました。これから夏に向けてなかなか授業がはかどらないときに、生徒が飽きてしまったときに、また最近流行りの学校PR向けの体験授業会などの機会に話せるネタです。先生方も、お仕事に疲れたときにでもお読みください。
 

プリン

 プリンは英語ではpuddingというつづりで,発音はpuddingの発音記号です。日本語での発音をローマ字で表せばpu・li・nとなるでしょう。日本語ではpu音が高い音で入り発音します。一方英語で発音するとuの位置に強勢が置かれます。逆にdiの部分は弱音化されます。dは舌先を上歯の後ろあたりに接触させて作る破裂音ですが,弱音化されると破裂の度合いが少なくなり,日本人には舌先がほぼ同じ辺りにくるl音のように聞こえます。ここから「プリン」という表記が生まれたのだと想像できます。実際に教室でpuddingから日本語の「プリン」になる変化を口頭で生徒に聞かせてみると英語と日本語との違いに生徒は興味を示してくれます。英語はstressにより発音が支配され,日本語では音の高低で発音される違いをこのような具体例で生徒に説明してみると,結構興味を持ってくれることでしょう。ちなみに日本で一般的に食されるプリンは英語ではcustard puddingのことです。同様な例にはトンネルがあるでしょうか。英語ではtunneltunnelの発音記号です。この発音記号音は日本語の「ア」音に近いとされていますが,日本語よりも短く発音され鋭い発音です。しかも後にtとnの子音に挟まれて発音されると,「オ」音に近く聞こえます。また,日本語では子音+母音で構成されているので,最後のnとlの後にも母音が差し挟まれて,to・n・ne・luができたと思われます。そういえば“とんねるず”というタレントがいます。これを外国人に言ったら,Toe Nails「足の爪」と勘違いされて,びっくりしたことがありました。もっともなぜあのお二人が“とんねるず”なのかその由来ははっきりしませんが,一説によると,二人のイニシャルのTとNをとって適当に事務所がつけたのだとか。それはともかく私がショックだったのはトンネルという言葉は,そのまま発音しては足の爪になりかねないということでした。以上ご紹介した例は,英語が訛って日本語化された単語です。特に“プリン”の例は,広辞苑にも英語からの訛であることが記されています。日本語と英語の発音が同じであるはずがないので,その意味ではすべてが訛っていると言っていいわけですが。
 

ラップ

 今度は,日本語では同じ音として捉えられてしまう例を紹介しましょう。「ラップ」というカタカナ語を聞いてどんな英語のつづりと音を想像するでしょうか。答えは lap  rap  wrap の3つです。いずれも日本語化されています。まずlapとrapですが日本語ではラの音ではl音とr音が混在され区別しません。lapはもともとは“重なる”“折り返す”という意味です。そこから,陸上競技でトラックを何度も重ねて周回したり,折り返すときの1周分をlapと言うようになり,lap time「ラップタイム」という言い方でもよく使います。一方rapは音楽の用語で使われるrap music「ラップミュージック」です。rapは“軽くたたく音”を意味する単語です。しかし,rapは米語で「おしゃべりをする」の俗語で,音楽用語に転じたと言われています。言葉をリズミカルに刻んでいく新しい音楽のスタイルとして定着しました。さらに「サランラップ」などでおなじみのwrapは“包む”の意味です。もともとはw音があったものと考えられますが,現代の英語では,rapと同音です。日本語では同じにされてしまう語でも,英語では発音とつづりが異なること,特にl音とr音の練習には使えるでしょうか。これと同様な例では,listとwrist,日本語で「ア」音に関連するものとしてfirstとfastなどもあげられるでしょう。ついでにですが何度か生徒から質問を受けたことのある語に「ジュース」があります。テニスなどで最終局面で同点になるときになぜジュースと言うのか不思議だと言うのです。実際このふたつも別々の単語で,飲み物のjuiceはjuiceの発音記号で,同点を表す方はdeucedeuceの発音記号です。こちらはラテン語の2を表すduoがフランス語に入ったものが基のようです。先に2得点挙げた方が勝ちになることに由来します。日本語では発音記号音と発音記号音も明確には区別しませんからこのような質問が出てくることになります。正しい発音とつづりと意味を教えたら大変に驚いていたことをよく覚えています。現在のテニスはフランスが発祥とされているため,フランス語由来の言葉が多いようです。テニスついでに余談をひとつ。片方が0点で終わる試合のことをlove gameと言います。英語でもloveが使われますが,loveにこのような意味があるのは不思議です。実はこれもフランス語で「玉子」を意味するl’oeufから来ています。丸い形の玉子は数字の0を意味する隠語となり,さらに発音がloveと似ているため英語に入ったときに変化したものです。音も源を探ると結構興味深い事実にあたることの一例です。
 

トューニューヨーク,フォーニューヨーク,エートニューヨーク

 この原稿を考えている6月のある日曜日にNHKテレビで「日本の話芸」という番組を見ていました。落語家の三遊亭楽太郎氏が「西行」という落語を演じていました。その中で次のような下りがありました。

「・・・日本人の英語はだいたい文法ばかりが頭にあって,すぐ文法を思い浮かべてしゃべろうとするから誤解されてしまうんですよ。この前ある日本人がですね,現地の国内線でニューヨークまでの切符を買おうとして,何て言うんだか文法を一生懸命考えて,そうそう前置詞をつけるんだと思い立って,“〜まで”は確かtoを使うんだということを思い出して,自信を持って思いっ切りto New Yorkと言ったつもりが,切符が2枚で出てきてしまった。あわててこれはforを使うんだったかと思って,for New Yorkと言い直したら今度は券が4枚になっちゃった。その人困ってしまって思わず“え〜と〜”と言ったもんだから今度は8枚券が出てきたんですよ・・・」

確かに日本人は文法の細かいところに気を取られ,なかなか思ったことを素直に出せない側面が,皮肉っぽく話されていて楽しく見させていただきました。でも,この場合どうすれば誤解をなくすことができたのでしょうか。文法の話になってしまうので本末転倒かもしれませんが,前置詞は機能語です。後の名詞と一体になってひとつの意味単位をなすものです。そして一般に機能語には強勢が置かれません。toも実際にはアクセントは付かず,しかも発音記号と母音はあいまいに発音されます。to New Yorkはto New York の発音記号と発音されるものです。このような例を話題に出して,機能語の役割や発音との関係を説明してみると,生徒にも抵抗感なく受け入れられるのではないでしょうか。
 

最後に

 私は趣味で長年合唱をやっています。もっとも今は校務が忙しくてお休みしていますが,長年合唱を習っていた先生は,発音をとても大切にされている先生でした。曲と歌詞には相関関係があって,訳詞で歌うと曲想が変わってしまうため,原詞で歌うことを合唱団のモットーとしていました。ときには英語の歌も取り上げましたが,アマチュアの合唱団ですから英語が得意な方ばかりではありません。あるとき歌詞の中に,sitという単語があった際に,shitと同じ発音をしてしまったことがありました。日本語では[si]の音は日常的に使いませんから,いわゆる日本語の“し”に近い発音記号音になったのですが,それでは「座る」が「クソする」になっちゃうよ,と尾籠ながらも冗談交じりで先生が指導されていたのを思い出しました。現実には,発話された状況や,他の語との結びつきで言葉は理解されるわけで,そう一概に誤解されるわけではありませんが,正しい発音を身につけさせるには,単に発音の練習を重ねるだけでなく,何かきっかけとなる話題があると素直に受け止められることもあるのだと感じました。今回,書きましたことは取り留めもないことではありますが,授業中の雑談として,授業のヒントになれれば幸いです。

 なお,三省堂高等学校英語教科書VISTAではSAY IT!の中でカタカナ語との関連を取り上げています。VISTAT p.85の“英語と日本語の音を比較してみよう”,また,VISTAU Step Two p.13の“最も強く発音する母音などに注意して言ってみよう”の指導の際にも,参考になればと思っています。

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