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英語教育リレーコラム

スピーチ スピーチ基礎体力増強のススメ

望月尚子 (都立小石川中等教育学校)

 高校段階でのスピーチ指導は,より高度な内容について,自分の意見を論理的に述べるようになることを目指す。年に数回のスピーチ発表のほかに,日々の授業などでのちょっとした指導でも,スピーチ基礎体力をつけることができる。

スピーチ内容の充実を目指したディスカッション

 高校段階のスピーチでは,トピックの抽象度が増し,より高次な内容が求められる。そのため,いかに話す内容を充実させるかがポイントになる。英語は流暢に話せても,「話すべき内容がない」ということは,「聞くに値しない」ということになり,致命的である。物事について,多角的に考察し,確固たる根拠をもって自分の意見を構築できる思考力を,日々の授業で身につけさせなければならない。これには,英語T・IIの授業が最適であり,教科書本文で扱われた内容に関連したトピックを与え,短時間のディスカッションをさせるとよい。

  トピックは,議論性があり,複数の意見が考えられるcontroversialなものを提示する。例えば,絶滅寸前だったハワイ語復活を目指す活動について読んだ後,「日本で,英語で全ての科目を学ぶという教育が実践されている学校があるが,それについてどう思うか」というトピックについて考えさせる。

 生徒には,自分の意見を家で書いてくるように指導し,次の授業の始めに,まずペアでディスカッションを行う。次に,何人か指名をして,クラス全体に自分の意見と,ペアの意見をレポートさせる。その際,最初は自分の用意してきた原稿をread and look upで発表するように指導し,慣れてきたら,原稿を持たずに発表するように指導する。これを1年ほど続けると与えられたトピックについて,大体70語〜100語程度の英語で自分の意見を述べることができるようになってくる。

多角的なものの見方を目指してのミニディベート

 オーラル・コミュニケーションでのミニディベートも,多角的なものの見方を身につけるのにとても役に立つ。このディベートは,フォーマルなものではなく,日々の授業内容に関連した議題について賛成派・反対派に分かれ,意見のやりとりをする簡易なものである。トピックは,賛成派も反対派も理由を述べやすいものを選ぶのがコツである。

  生徒たちは賛成派・反対派に分かれてグループになり,自分側の意見だけではなく,相手がどのような意見を言うか推測し,またそれに対する反論までを準備する。その後,賛成派1人・反対派1人でペアとなりディベートをする。

 ディスカッション,ディベートいずれの活動もoutputの英語の正確さは問題にしない。それよりも,多角的に考察をし,自分の意見を持つことができるようになるのが目的である。言語的正確性を求めなければ,比較的短時間でできる活動で,日々の授業の中に取り入れやすい。何度も繰り返し行うことで,スピーチ基礎体力をつけさせることができる。

「抽象」→「具体」のスピーチ構成へ

 高校段階のスピーチでの難関の一つは,主張とそのサポート部分とを筋道立てて組み立てることである。生徒は,いわゆるパラグラフ・ライティングが不得意である。頭では,「抽象」→「具体」の書き方を理解しているが,実際書いてみると,「具体」→「抽象」となってしまったり,具体例があちこち点在し,主張がつながらなかったり,または主張がない文章となりがちである。

 そうならないためにも,まずは英語のエッセイを読ませ,文章のthesis statement,各パラグラフのtopic sentenceとsupporting pointsを確認させる。次に,スピーチ原稿を書く前に,自分のスピーチ全体のthesis statement,パラグラフごとの主張,そのサポートとなるポイントなど,アウトラインを書かせる。そして,それを見ながら原稿を書いていくのだ。ただし,実際に書かせると,やはり「具体」→「抽象」に戻ってしまうことがあるので,教師のチェックが不可欠である。

 スピーチの原稿では,英語の正確性よりも,文章やパラグラフ構成が,しっかりできているかどうかにポイントを絞って指導する。これもまた,何度もやらないと身につかない。スピーチ原稿を授業で頻繁に書かせる事は難しいかもしれないが,英語のエッセイを読んでその構成を考察させる事は,授業の中の一つの活動として容易に取り入れることができる。

終わりに

 高校でのスピーチ指導は,まず生徒に「言いたいこと」が無ければ始まらない。この「言いたいこと」を持ち,それを効果的に述べる,というスピーチ基礎体力は,日々の授業で機を捉えて継続的に行うことにより,十分身につけることのできる力であり,実は,スピーチ指導の核になるのではないか,と感じている。

望月 尚子 (もちづき なおこ)
東京都立小石川中等教育学校教諭。ELEC同友会英語教育学会会員。著書に,高等学校検定教科書『CROWN English Series New Edition I・II 』(編著,三省堂),『中学校・高校英語 段階的スピーキング活動42』(編著,三省堂)などがある。

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