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英語教育リレーコラム

スピーチ 豊かな心を育てましょう ―小学校外国語活動でスピーチの場を

吉田晴世 (大阪教育大学)

小学校・中学校でのスピーチ活動の違い

 小学6年生用の『英語ノート 2』(文部科学省)の最後の単元は「将来の夢を紹介しよう」で,“I want to be a ....” という表現を学び,それを使った英語スピーチを卒業前におこないます。これまでの英語活動の集大成としてスピーチをすることで,児童は自信を持って中学校へ進学するよう仕組まれています。そして,NEW CROWN (三省堂)では,中学2年で「将来の夢」という同じトピックで,再度スピーチ活動を行います。

 では,小学6年と中学2年でのスピーチ活動の「違い」は何でしょうか。発話量,使用語彙,表現等があげられますが,一番の違いは文字(書き言葉)情報の有無があげられるでしょう。文字情報がない状況でのスピーチ活動を円滑に進めるにはどのようにすればよいのでしょうか。
 

毎レッスンの最終目標をスピーチに

 突然,『英語ノート 2』の最終レッスンで,「さあ,スピーチしてみましょう」と取り組んでも,なかなかうまくはいかないでしょう。これまでのレッスンで,“I am …. I like …. I have …. I want ….” などの表現がでてきますが,各レッスンの仕上げに,3文程度(I like meat. I like fruit. But I don’t like fish. のような3文)の,とてもとても簡単なスピーチ活動を行います。

 これらの活動を積み重ねると,最終レッスンの「将来の夢」では,“I am Hitomi. I like flowers. We have a flower garden in my school. Tulips and roses are beautiful. I want to be a florist.” というような5文程度の文章を,それほどの困難さを感じずに「自分の力」で作り上げることができます。
 

プロジェクトとしての指導の手順

 毎回のレッスンでの簡単なスピーチ活動は,繰り返しと積み重ねによる表現の定着が期待できます。それでは,児童が自ら取り組んで行うスピーチ指導は,具体的にはどうすればよいでしょうか。たとえば『英語ノート 2』のLesson 6(I want to …. の表現)「行ってみたい国を紹介しよう」を例にあげてみましょう。

 いきなり,「グループに分かれて,行きたい国とその理由について話し合って,スピーチ文を作ってみましょう」と指導しても,児童は戸惑ってしまいます。

 グループ活動では,全員が話し合って,無理なく進めるよう仕向けることが肝要です。

=「行ってみたい国を紹介しよう」(『英語ノート 2』Lesson 6)の指導の手順=

@行ってみたい国の旗を書いてみよう。

Aその国について,どんなことを知っているかな?

Bその国に行きたい理由はいくつあるかな?

※ここで大切なのは,児童にWhyの概念を定着させることでしょう。言葉を話し始めた幼児が事あるごとに母親に向かって「なんで?なんで?」と尋ねるとの同様に,「何故その国に行きたいのか」「何故このスピーチをするのか」ということを常に考えさせながら活動をすることは,論理的思考力の育成にもつながります。

C発表のために描いたイラストを持ちながら,スピーチをします。

※絵や写真などの視覚情報を活用することは,聞き手にとっては理解を促し,話し手にとっては発話の補助になるので,スピーチ活動の負荷を軽減することができます。

Dグループで役割分担(スピーチをする,絵を見せる)発表したあと,ペアになり,最終的にひとりで発表できるように,段階的に組み立てましょう。

※その際も,強制的に指名するのではなく,自発的に発表したくなるような雰囲気作りが必要です

 以下,雰囲気作りを中心にした「聞くことの大切さ」について説明します。
 

聞く態度を育成

 クラスメートのスピーチを聴く態度の育成が大切です。コミュニケーションは,複数の人間が,感情,意思,情報などを,受け取りあうことです。

  スピーチ活動を円滑に行うためには,一人ひとりの発表の場を大切にし,その都度,「聴きとれた? なんて言っていた?」と問いかけ,数人が挙手し,聴きとれたことを発表することから始めます。続いて,教師は「今の発表の良かったところは?」「ここを変えたら良くなるかな,と思うとことは?」と建設的な問いかけをします。

  最後に,教師は,「声がはっきりしていて良かったね」,「イタリアへ行ってジェラード食べたくなったね」など,肯定的なコメントを加えます。当初挙手する児童は数名であっても,クラスメートのユニークな発表を聞き,児童や教員のコメントが否定的でないことに安堵を覚え,挙手する数が次第に増え,最後にはほとんどの児童が自主的にスピーチを行うことが可能となります。

  ひとりでスピーチができ,拍手をもらったという成功体験は,今後の英語学習への意欲にも繋がりますし,同時に,相手のスピーチを聞くことの大切さも育成することができます。

 スピーチを聴き終わったあとの賞賛表現の指導も,円滑なスピーチ活動の有効な手立てとなります。それぞれの発表の後に,“Wonderful!” “Good!” “Nice!” “Cool!” “Great!” “Good job!” などの表現を拍手とともに全員が発表者に「ワンダフル・シャワー」を浴びせてあげるのです。各表情を表すピクチャーカードを示しながらほめるのも効果的でしょう。ほめられるのは児童だけでなく,大人でも嬉しいものです。
 

振り返り

 授業の最後には,自己評価に移ります。1) 声は十分大きかったですか 2) 笑顔で言えました 3) クラスメートに目を向けていましたか 4) ジェスチャーはできていましたか 5) 早口にならずに間は取れていましたか,の5点を評価基準とし,自己の振り返りを行います。教師は,児童の振り返りに対して,たとえ短くともフィードバックをすることを忘れてはなりません。評価は一方向なものではなく,児童の教師との相互コミュニケーションの場であることが重要です。

吉田 晴世 (よしだ はるよ)
大阪教育大学教授。専門は,ICTによる英語教育,英語教育学,外国語教育。著書に『スペシャリストによる英語教育の理論と応用』(編著,松柏社),『ICTを活用した外国語教育』(編著,東京電機大学出版局),『英語教育の基礎知識』(編著,大修館書店)などがある。

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