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新学習指導要領をどう見るか新しい学習指導要領が出ると,そこには新しい「ことば」がいろいろと登場して,世間を賑わす。なにか「とんでもないこと」でも起こったかのごとく大騒ぎになることもある。 しかし,楽観的に考えよう。見方をちょっと変えてみることで,「どんな授業にしようか」,「こんな力をつけるにはどんな活動をすればよいだろうか」などといろいろな工夫や発想が頭を駆けめぐって,楽しくなるものだ。 ここでは,新しい高等学校の科目『英語表現』を取り上げる。学習指導要領に登場する文言をいくつか拾いながら,いわゆるPlan-Do-Checkサイクルの視点から,何が求められているのか[目標],そのためにはどのような授業実践を行えばよいのか[活動]を考えることで,評価の視点も明らかにしよう[評価]。
態度を育成し,評価する?! 英語を通じて,積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度を育成するとともに,(中略)伝える能力を養う。 何と言っても大切なのは,トピックやテーマだ。ただし,「若者受けする」トピック,というだけでは,生徒の意欲は意外と持続しないものだ。 たとえば,あるレッスンの文法事項は現在形,トピックはスポーツ。「I like 〜 にスポーツ名を続けて,言ってみよう」という活動は,途中段階ではあってもよいが,これだけではあまり面白くなさそうだ。 こんなプロジェクトを仕掛けてみよう。何回かの授業を通じて,「1分間で自分のことを英語で紹介する文章を作ろう!」というプロジェクトを掲げるのだ。1分間というのは決して短くない。ざっと100語程度は必要だから,生徒にとってはチャレンジングな課題である。これを3レッスン分くらいの時間をかけて創り上げていくのだ。 話題はスポーツに限定する必要はないだろう。スポーツというのは自己紹介の「ネタ」になる参考例だ。現在形のレッスンでは,「今,何か習慣にしていることは?」,「それは毎日,それとも週に何日かやっている?」,さらに,「それは楽しい?苦しい?それとも…?」,「それはなぜ?」などと問いかけながら,言いたいこと・書いてみたいことをイメージしてもらう。 論理的に考える力を育成し,評価する?! 事実や意見などを多様な観点から考察し,論理の展開や表現の方法を工夫しながら伝える能力を養う。 このことは,話すことを中心とした活動の「伝えたい内容を整理して論理的に話す」,書く活動に関する配慮事項の「つながりを示す語句などに注意しながら書くこと」などの記述とも関連する。ここでは,「論理の展開」に注目しよう。論理的に思考して話したり,書いたりすることが期待されているのである。 そもそも,「論理的」とはどういうことだろうか。梶原しげるさんの著書『即答するバカ』(新潮新書)には興味深いエピソードが紹介されている。「その「だから」は本物か」と題する一節から引用しよう。
子安大輔さん(筆者注:飲食業コンサルタント)とラジオでご一緒した。(中略) I am interested in agriculture __________ my parents grow apples. のように,前後関係を考えて接続表現を入れるタイプが基礎編だとすると, I think computers have more benefits than harm because _____________________. のように文を完成させるタイプは,コンピュータが有益である点を自分で考えなければならないから,いわば応用編である。 これを2〜3考えて,それぞれを説明・補足する文を追加し,導入と結語を加えると立派なパラグラフができあがる。このときにも,「コンピュータが有益だと思われるのはどんな点?」,「どうしてそんなふうに思うの?」などと問いかけ,論理的かどうかを意識しながら少しずつ文章をふくらませていくおもしろさをぜひ体験させたい。 授業では,@文脈に適切な接続表現を補うことができたか,A接続表現を使って,論理的に考え,適切な文を書くことができたか,B多様な視点で事象を捉えることができたか,Cそれぞれについて文を補足し,説得力のある文章を書くことができたか,などという点を評価すればよいだろう。こうしたステップを踏むことで,どこで生徒たちはつまずいたか,どのようなフィードバックが必要かが明らかになるだろう。 即興で話す力を育成し,評価する?! 与えられた話題について,即興で話す。 a. 言いたいことを考えて,書いてみる(プラニング)。 b. 書いたことを声に出して言ってみる(音読)。 c. 書いたものを見ないで言ってみる(暗唱)。Read & Look Up 方式でもよいし,ペアでaの形式を使って口頭練習してもよい。 こんな活動も有効である。いずれも,発音や語彙はもちろんのこと,文法操作力(つまり,文法を使う力)を鍛えることができる方法なのだ。 d. 口頭英作文:教科書の基本文を(あるいは練習問題も),口頭で音読練習したら,ペアになって,一人が日本語を読み上げ,もう一人はそれをすばやく英語で言う。言えなければ,Read & Look Up方式で練習。 e. 口頭並べ替え英作文:教科書の基本文を,3つのチャンクに区切って並べ替えたものを,口頭で正しい順序にして発話する。慣れてきたら,ペアで音声のみでやるとよい。 こうした活動を通して,@考えや意見を生み出す力,A質問したり,質問に応えたりする力,B語彙を使う力,C文法を使う力,などの自動化を促進することができ,即興で話すために必要な要素を訓練し,土台を築くことができる。この土台があれば,ディスカッションやディベートの練習の場を設定することも実現可能となってくるのだ。 おわりに新学習指導要領では,音声であれ文字であれ,英語で表現できるようになるために,これまで以上に,丁寧にステップを踏んで指導することが求められているように思う。そして,「発表の仕方や発表のために必要な表現などを学習し,実際に活用すること」などという学習指導要領の文言は,話したり書いたりするというアウトプット活動を設定することが,英語で表現する力をつけるためには有効であるというメッセージと受け取れる。どんな「仕掛け」をするか,そのためにはどのような活動が必要かを考えることが評価の視点を決めることになる。こんなふうに考えてみることで,新しい『英語表現』を意味あるものにしたい。 横川 博一 (よこかわ ひろかず) Copyright (C) 2011 SANSEIDO publishing co.,ltd. All Rights Reserved. |