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英語教育リレーコラム

新学習指導要領を読む 松沢伸二

松沢伸二(新潟大学)

1.はじめに

 学習指導要領は国の教育計画を示しており,その改訂はPDCAサイクルに位置づけられます。現行の中学校英語は『中学校学習指導要領』(平成10年12月)に計画され(Plan),その実践が平成14年4月に始まりました(Do)。数年後その成果が教育課程実施状況調査で点検され(Check),平成16年12月から本格的な検討が行われました(Action)。その結果は『中学校学習指導要領』(平成20年3月)にまとまり(Plan),この新学習指導要領に基づく英語教育が平成24年4月にスタートします(Do)。

2.課題の検討

 社会や経済のグローバル化に対応するため,自分の考えなどを相手に伝える発信力を重視する。これが今回の改訂の基本認識です。その上で関係者は,現行の教育を見直し、その結果を以下に示しています(教育課程部会「これまでの審議のまとめ」平成19年11月)。

  • 中学校・高等学校を通じて,コミュニケーションの中で基本的な語彙や文構造を活用する力が十分身に付いていない,内容的にまとまりのある一貫した文章を書く力が十分身に付いていない状況なども見られる。
  • 英語が大切,普段の生活や社会に出て役に立つと考えている生徒は,他の教科に比べて多いのに対して,学年が進むにつれて英語が好きな生徒は減少する傾向が見られるとともに,中学校において,授業が分からない生徒の割合が他の教科と比べて高い傾向が見られる。

 ここには中学校英語の課題として,@語彙や文構造を活用する力,Aまとまりのある一貫した文章を書く力,B英語の授業が好き・分かる生徒の割合,が挙げられています。

3.改善案の作成

 @の語彙・文法指導を改善するために学習指導要領が新しく盛り込んだ対策は,「発音と綴りとを関連付けて指導する」「文法を言語活動と効果的に関連付けて指導する」「関連のある文法事項はまとまりをもって整理する」「日本語との違いに留意して指導する」などです。

 Aの発信力の課題については,語彙を充実し(現行の900語から1200語に引き上げ),話す言語活動を追加し(「与えられたテーマについて簡単なスピーチをする」),書く指導を文章レベルで充実させる(「文と文のつながりなどに注意して文章を書く」)などをします。

 Bの意欲・理解については,教科の整理(選択を止め必修英語のみとする),授業時数の増加(週3時間から週4時間へ),学年間でのスパイラル指導(「学習内容を繰り返して指導し定着を図る」)などの対応が採られています。

4.課題解決の実行

 新学習指導要領によって中学校英語教育が最も恩恵を受けるのは,週4時間の授業時間の確保です。この措置で英語の教員が増える学校も出現するでしょう。筆者は「完全週3時間体制」時代に中学校の教壇に立ちましたが,学校行事などで実質週2.7時間になる学期もあり,当時の生徒にとって英語の勉強は「忘却との闘い」でした。

 人も時間も増える状況を活かし,生徒が今以上に英語を「活用する」「発信する」「好きになる・分かる」教育を確実にしたいものです。新しい「総則」は,従来の個に応じた指導(個別指導,グループ別指導,習熟の程度に応じた指導,興味・関心等に応じた課題学習,補充的な学習,発展的な学習,教師間の協力的な指導)に,「繰り返し指導」を加え,基礎・基本の習得と活用を強調しました。こうした指導にも英語科として組織的に取り組んで,先の3つの課題を解決したいと思います。

5.おわりに

 新学習指導要領が加えた「与えられたテーマについて簡単なスピーチをする」などの言語活動は,行動目標に具体化して中学校3年間の英語教育の最終到達目標に設定できます。生徒がこの目標に向かって「学習の見通しを立てたり学習したことを振り返ったりする活動」(総則)に取り組むようにすると,新しい形の指導と評価の一体化が可能になります。

松沢伸二(まつざわ しんじ)
新潟県糸魚川中学校教諭,大妻女子大学中野女子高校教諭などを経て,現在は新潟大学教育学部教授。専門分野は英語教育学。特に,外国語コミュニケーション能力の養成を重視するコミュニカティブ・ティーチング理論を,日本の学校英語教育でのカリキュラム,教材,学習指導,テスト・評価,教員養成,教員研修,校内研究などに応用する研究を行っている。主な著書に『基礎能力をつける英語指導法』(共著,大修館書店),『英語教師のための新しい評価法』(大修館書店)などがある。新潟大学教育学部英語学会会長,コミュニカティブ・ティーチング研究会顧問,関東甲信越英語教育学会理事。

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