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1. はじめに みなさんは、生徒全員が英語の授業を楽しみにしていて、目を輝かせている、そんな夢を見たことはないだろうか。私はよくうなされる。いつかそんな授業をしてみたいという願望の現れであろう。 私は小学4年生の時には、将来は学校の先生になると決めていた。英語が好きだった3才年上の姉の影響を受け、英語教師を選んだ。本棚に並べてあったシェイクスピアの本を見たり、カーペンターズの歌を聴いたりしたのも彼女の影響である。英語ができるって何だかかっこいいとも思っていた。
教師になってからは、努めて本を読むことにしている。ある意味、活字中毒である。書店は宝の山に見えて、行くと2〜3時間は立ち読みしてしまう。そんな私が英語教師として影響を受けた本を挙げるなら、福岡教育大学教育学部附属小倉中学校の長期研修員時代に読んだ『生徒を変えるコミュニケーション活動』(松本茂編著、教育出版、1999)である。 その当時、私は、研究テーマを何にするか迷っていた。日々の授業や会議を終えた後、翌日の授業の準備をし、夜遅くまで研究室に残り、時には朝方まで夢中になって英語教育に関する本を読みあさっていた。4月と5月の2ヶ月間で、20冊以上を読破した。苦しかったけれども、英語教師として学ぶこと、知ることの楽しさを知ったのはこの時期かもしれない。本の中の使えそうだと思った活動や資料には印をして、大事なことや理論的なことはノートに書き留めた。すぐにノートやファイルは一杯になった。実践的コミュニケーション能力の基礎を養う英語科指導法、さらに絞り込んで、スピーキングについて研究し、授業はALTとのTTでコミュニケーションを主体として行いたい、というのはすでに決めていた。そんな時に出会ったのがこの本である。 この本は、自己表現活動の留意点と進め方が、中学1年生から高校1年生までのレベルに応じて、具体的な活動と共に紹介されている。コミュニケーションのための英語教育を実践してきた4名の先生方が、各章を執筆しており、その通りにやってみると確かに生徒の反応がいい。現場で使いやすいように工夫されていて、中でも蒔田守氏の書いた「中1でもできるShow and Tell」には、感動すら覚えた。時折しも平成14年度の学習指導要領の改訂があり、評価などを工夫すれば自分らしさも出せるかもしれない。さっそく自分の研究テーマの参考にさせていただいた。
Show and Tell(見せてお話)は、主に欧米などで行われている、小学校低学年の児童たちに自分の思いや考えを表現させるための活動である。自分の大切なものを友だちに見せながら、それに込められた思いなどを話す。自分の身近にあるものだから話しやすいし、話す動機付けにもなる。絵や写真を見せることによって、聞き手の注意を引きつけることもできるし、英語の苦手な生徒や語彙の少ない中学1年生でも楽しみながら行うことができる。さらに、カットアウト・ピクチャー(B4の用紙などに広告や写真、ポスターなどを切り抜いて貼り付けたもの)を用いれば、簡単に取り組むことができる。テーマを「自己紹介」「将来の夢」「私の故郷」等と広げることもできるので、学年を問わず今でも授業の中で使わせていただいている。 この本を読んで、コミュニケーションを重視した上手な英語授業のコツは、教師が具体例の提示の仕方等を工夫し、生徒に「学んだもので自分に何が表現できるか」「これなら自分もできそうだ」と思わせることだとわかった。また、生徒の反応を見ながら課題を見つけて、改良を加えていくことの大切さも学んだ。スポーツと同じように、英語の指導も、最初は上手な人の模倣からはじまり、試行錯誤を繰り返しながら自分のオリジナルの指導法へとつながっていくものだと思っている。
来年度で教師生活20年の節目を迎える。何とかなるさと楽観的に考えて、いろんな事にチャレンジしてきた。何とかならなかったことも多いが、英語教師として大切なのは、自分自身が学び続けることだと思う。変化や失敗を恐れないこと。環境の変化や新しい分野への挑戦は、失敗をして恥をかくこともあるかもしれないが、成功するためには必要な過程だと信じ、あきらめないこと。もしかしたら、失敗は自分自身が成長できるチャンスかもしれない。私が英語を学ぶこと、教えることを楽しんでいれば、生徒も興味を持つのではないか。今、授業をしていて一番楽しい。今後も楽しくわかりやすい授業づくりをめざして研修に励みたいと考えている。 山本 司 (やまもと つかさ) Copyright (C) SANSEIDO publishing co.,ltd. All Rights Reserved. |