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英語教育リレーコラム

リスニング指導 仲間とのつながりの中で学ぶリスニング

橋本 友明 豊岡市立但東中学校

1 はじめに

 生徒に「ふだん家で英語を聞いていますか」と尋ねると,ほとんどの生徒から「聞いていない」という答えが返ってくる。生徒にとって,リスニングはなかなか取り組みに くい活動のようである。

 さて,リスニングというとテープやCDを聞いたり,ALTの質問に答えたりという特別なことだけを考えてしまう。それも大事だが,リスニングの基本は相手の言うことに耳を傾けること,そして心を開き共感すること。ひいてはそれが,自分の主張を聞いてもらい,自分の存在価値を集団の中で確立することにつながることをまず押さえておきたい。

 では,実際に私が行っているリスニングの活動の一部を紹介したいと思う。つたない取り組みではあるが,参考にしていただければ幸いである。

2 クラスルームイングリッシュの充実

 「教室の中で,友達の生活や家族のことを英語で理解し合う,教師の人生観や思い出話を聞いて共感する,スピーチでメッセージを伝えそれを評価し合う,映画や歌を聞いて感想を伝え合う。その過程で人間同士のつながりが芽生え,安心して自分を表現できる集団が成立し,英語の習得を助ける」と私は考える。

 こんな集団を築きあげるためには,まず教師ができるだけ英語を使い(英語のみを使用すべきという意味ではない),そして生徒にできるだけ英語を使う場面を与えることであろう。お互いを認め合えれば,生徒は「間違ってもいいから英語を話してみよう」となるし,友達の話すことをいっそう集中して聞くようになる。また,できるだけ英語で伝えようとする教師の姿は,「私もあんなふうに話せるようになりたい」と生徒が思う動機付けになるだろう。

 さて,英語で授業を進めるためには,クラスルームイングリッシュ(教室英語)を充実させることが基本となろう。『NEW CROWN1』には教室で使う英語の例文がおよそ20文掲載されている。私はそれをベースにし,学習内容・学年によって適宜表現を増やしている。現在,担当している3年生では,およそ60文程度の表現をプリントにして生徒に持たせ,確認や練習を行っている。

3 授業スタイルと具体的なリスニング指導

 私はふだん,次の3つを授業の大きな柱としている。(スピーチやスキット,ディスカッション等の活動を行う場合はこの限りではない。)

(1) Daily Conversation(約10分間) :英語係が運営・進行する時間  
(2) Listening Marathon(約10分〜15分間) :まとまった英語を聞く時間
(3) Textbook(残りの時間) :教科書の学習を中心とする時間

 では,どのようにリスニング指導を行っているかを上記の(1),(2)についてさらに具体的に述べてみたい。

(1) Daily Conversation(毎日の会話)
 ウォーミングアップとして位置づけ,英語係(2〜3名,以下MC)が進行する。授業が始まるとMCは教室の前に立ち,英語で挨拶や出欠,持ち物点検,簡単な質問,show and tell等を行う。流れはおよそ次のとおりである。

(※DC…Daily Conversation)
MC 1: Hi, everyone. Let's start today's DC. Who is absent today, ST 1(委員長の生徒)?
ST 1: No one is absent.
MC 2: OK. Good. How are you, ST 2?
ST 2: I'm so-so. How are you?
MC 2: I'm fine, thank you. Now I'll check your preparation.
Do you have your textbook(notebooks, file, その他その授業に必要なもの)?
(中略)
MC 3: Now I'll ask you some questions. Answer, please.
What color does Mr Nakai, our science teacher, like? And why?
ST 2: I guess he likes black.
MC 3: Oh yes. One more. What color does he like?
ST 3: Yellow.
MC 3: Yes. He likes black and yellow. Why?
ST 4: Because he is a fan of Hanshin Tigers.
MC 3: That's right.
MC 2: That's all for today's DC. Thank you for your cooperation.
Now Mr Hashimoto, please.

 質問は,曜日や日付,天気,誕生日などの定型のものも含め,MCに次の時間までに7〜8個考えさせておき,事前に指導してから授業に臨ませる。毎回同じ質問になる とどうしても飽きてしまうので,MCにアドバイスを与えたり一緒に考えたりする時もある。今まで行った中では,他教科の先生方に関する質問や英語のなぞなぞが特に盛り上がった。もちろんALTにも参加してもらい,一緒に楽しんでもらう。

 この活動は英語を「聞く・話す」ことだけにとどまらず,授業の雰囲気を和やかにし, その後の活動を円滑に進めさせる効果があるように思える。

 ちなみに,私の役割は生徒の活動を見ながら援助するだけであるが,ついつい生徒の活動に参加してしまうことが多い。

(2) Listening Marathon(リスニングマラソン)
 生徒がリラックスしてきたところで,授業は次の活動に入る。集中して少しまとまった英語を聞く時間だ。時間にしてわずか15分程度である。生徒には「リスニングは量。わからない時があるかもしれないけど,練習のつもりでとにかく続けていこう」と話し,この活動をスタートさせた。

 リスニングは音を正確に聞き取ることの他に,耳以外からの情報を得ることも重要であるので,視覚に訴えるもの,例えば写真や絵などを利用するよう心がけている。さらに,英語を聞きながら推測する習慣をつけるために,自分の体験をふまえて次のようなことを折に触れて話している。

  • 単語がすべてわからなくても内容は理解できる。
  • つよくゆっくり話される語に大事な情報が含まれる。
  • つなぎ言葉(and,but)がヒントになる。
  • 今までの経験や知識をフルに活用する。
  • 話し手の気持ちになると理解しやすい。
  • 場面,人間関係,雰囲気がわかると聞き取りやすい。

 リスニングというとすぐ「リスニングテスト」が思い浮かぶ。しかし,私は,「どうすればうまく聞き取れるようになるか」を教え,生徒が学んでこそ初めて授業と呼べると思う。だから,自己評価,ペア(教え合いを目的としている)での話し合い・相互点検を取り入れながら進めている。

 では,例として,ここでは教科書を使ったディクテーションと歌・映画を利用した活動を紹介したい。

@教科書を利用したディクテーション
 既習のレッスン(前の学年の教科書も利用)でディクテーションを行っている。その進め方は以下の通りである。

  1. 『NEW CROWN Teacher's Manual 指導用CD-ROM』を活用して,教科書1ページ分のワークシートを作成する。ワークシートは,単語を空欄にしたり1文全部を問うものなどいろいろ可能である。1ページにはおよそ10文程度あるので,配点も10点前後にし,生徒には「目標は8割以上」と言っておく。
  2. 指導用CDの「リピート読み」を利用し,1回目は文ごとにポーズをとり,書く時間を与える。生徒の様子をよく観察しながら手の動きが止まったら次の文を流す。
  3. 一通り終わったら2回目はポーズを取らずにそのまま流す。この間,机間指導しながらどの単語や文が難しいかを把握する。
  4. 2回目が終了したら,ペアでワークシートを交換させ,教科書を見ながらチェックさせる。
  5. 4で聞き取りにくかった単語・文をもう一度確認させる。

A歌や映画の利用
 英語の歌や映画は,生徒が楽しみながら意欲的に取り組み,クラスを明るくさせる効果があるといえる。歌や映画を利用する場合は,日本語訳を添えた穴埋めのワークシートを作成し,ポーズを取りながら聞き取りをさせる。進め方は@の教科書を使ったディクテーションとおおむね同様である。余裕のある時は,感想を発表したり,みんなで歌を歌って楽しむこともある。

 『NEW CROWN 3』LESSON 2 Interview with Ms Kileoにはキリマンジャロ山が出てくるが(p.11),私はアル・ゴア「An Inconvenient Truth 不都合な真実」DVD(パラマウント ホーム エンタテイメント ジャパン)の中のキリマンジャロ山の氷河について述べられている部分を利用した。リスニングを通して,環境問題についても考える良い機会になった。

 ちなみに,ゴア氏とIPCCに2007年ノーベル平和賞が授与されたことは記憶に新しい。翌日の授業でさっそくこのニュースを取り上げた。

 

4 おわりに

 私は,他の技能と同様,リスニングにおいても,コミュニケーション能力を伸ばすことと人間的成長との両方をめざしていきたいと思っている。

 つまり,英語を聞いてわかろうとすること,感動して心が洗われること,自分の意見を持ち友達の意見にも耳を傾けること,まさにリスニングも人間教育につながるのだ。

 ところで,私は,この春より毎日片道32kmを車で通勤している。所要時間はおよそ50分。また,学校が小規模校なので,英語と技術科を担当している。教室で“Good morning, everybody! How are you?”と英語の授業をした直後,技術室でのこぎり挽きを教えるというような日もあった。今までのように英語だけ教材研究をすればいいというものではなくなった。

 しかし,環境の変化は人間が成長できうるチャンス。毎日100分は英語を聞けるようになったととらえている。私はもっぱらAFNとVOAを聞いているが,スピードが速いのでかなり難しく,聞き取れない方がはるかに多い。しかし,不思議なもので毎日聞いていると聞き取れなかった箇所がわかるようになったり,後で本を見て確認したら「なんだ,こんなことだったのか」と納得することもしょっちゅうだ。こんな体験を授業でもよく話す。

 生徒に「とにかく続けよう!」と言うように,私自身も英語を学び続ける‘マラソンランナー’であり続けたいと思う。

橋本 友明 (はしもと ともあき)
兵庫県豊岡市立但東中学校教諭。芦屋,豊岡市内の公立中学校で教員を勤め,今年で23年目。特に力を入れていることは「基礎・基本の定着」と「英語が好きになる授業作り」。

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