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英語教育リレーコラム

リスニング指導 小学生に英語を聞かせるテクニック

粕谷恭子 東京学芸大学准教授

1.子どもにとってリスニングとは

 母語であれ外国語であれことばと出会うとき多くの場合、音声と出会います。文字から入るということはあまりないでしょう。また、自分から言葉を発する前にはことばを受け取って過ごす段階があります。

 子ども達にとってリスニング活動は、まさに新しいことばとの出会いの入り口なのです。文字がないのですから、英語のすべてが音に宿って子ども達に届きます。この段階での「聞いていればわかった」とか「先生の英語の指示を聞いていたら、何かができた」という成功体験が、これから続く長い英語学習の原動力になっていきます。このような成功体験を実感させるには、何をどう聞かせればいいのでしょうか。

2.何をどう聞かせるか

 大人とちがって「練習のために聞くこと」につきあってくれないのが子どもの特徴です。子ども達が本当に聞きたいと思うことを聞かせるようにしましょう。情報として価値があること、聞き落としたら大変なこと、聞いているとおもしろいこと、そうした子どもにとって意味のある内容を聞かせます。

 たとえば、1学期の最後の授業では “This is the last English class in the first term. You have to bring your textbook home today. Don’t put them back in your lockers.” というような指示を英語で聞かせたり、週明けの授業では “Yesterday I went to Yokohama to buy a new bicycle. Do you have a bicycle? I have a bicycle, but it is a mama-chari. I went to Yokohama to buy a mountain bike, and I bought one. Can you guess what color it is?” というような話を英語で聞かせたりします。

 そうした内容を、英語らしい音で聞かせることが肝心です。わかりやすいようにという親心から単語ごとに区切ったり、異常にゆっくり聞かせたりするのではなく、自然なよい音を聞かせます。

 英語を聞かせるのですから、日本語のように何もかもわかるというものではありません。が、「最後まで何がなんだかさっぱりわからなかった」では自信につながりませんので、動作や絵や実物などの言語外情報を上手に使いながら「わかった気にさせる」のがコツです。そのときに、日本語に直訳することは極力避けます。

 よく「英語のシャワー」といいますが、それでは子ども達の「わかった! どうにかなった!」という喜びにつながらない場合もあります。子どもにわかるように話をするというのは、英語であれ日本語であれ特殊な技能です。母語話者なら誰でもできるというものではありません。目の前にいる子ども達の理解力を見極めて、話の順序を工夫したり、強調する点を考えておいたり、語彙や文型を適切に選んだりして、子どもにわかる話し方をします。くどい印象にならないようにくり返し同じことを聞かせるテクニックも必要になります。

 たとえば子どもの服を題材にする場合、“Your shirt is pretty. It has a star on it. Look at his shirt. His shirt has a dinosaur. Her shirt has three dogs. One, two, three. Three dogs. Her shirt has three dogs. Who else has a dog on your shirt?” というように、シャツの柄が話題になっていることをわからせた上で個別のシャツについて何を言っているのか理解できた手ごたえを与え、さらに自分の服について表現したくなるような進め方をします。

 リスニングの指導だからといって教師だけが一方的に話すのではなく、子どもが反応しやすいように働きかけるのも大切です。子ども達はうなずいたり日本語で何か言ったりするだけかもしれませんが、それも立派な反応ですから、教師が大いにそのやりとりを楽しむことが大切です。子ども達はそんな教師の姿からコミュニケーションの楽しさをも学んでいくのだと思います。

 子どもに日本語でわかりやすく話をする訓練をすると、英語での話し方も上達しますので、結局それが近道かもしれません。

3.おわりに

 子ども達には、教室の中でいきいきとことばが使われる経験をさせてあげたいものです。教師からの働きかけがとても大切になりますので、本当に伝えたいことを簡単な英語や短い英語でどんどん聞かせてみましょう。

粕谷 恭子 (かすや きょうこ)
東京学芸大学准教授。聖マリア小学校英語科講師。著書に『えいごリアン』(テキスト監修・NHK出版)、『うたって遊ぼう 小学生英語の歌』(共著・小学館)、『みんなあつまれ!はじめての子どもえいご』(アルク)、『小学校の英語 教室で使える基本表現200』(共著・三省堂)、『KIDS CROWN』(共著・三省堂)、『ここがポイント! 小学校英語』(共著・三省堂)など。

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