このページを閉じる |
1.英語との出会い私と英語との出会いは小学校6年生の春でした。近所に住んでいるご婦人が小さな英語塾を経営していて友人となんとなく通い始めました。新しいことを学ぶときには、最初の体験が大きな意味を持つと思います。私はその塾で教科書を大きな声で何度もみんなで読みました。また先生の手作りプリントで、単語・文法・語法・本文などについての問題を繰り返し何度も解いて練習しました。このプロセスが私の語学学習の原点になっていると思います。十人十色。効果の上がる勉強方法は一人ひとり異なると思いますが、私にとっては“精読して納得して繰り返すこと”が結局一番言語の定着に繋がる方法のようです。 2.ティーム・ティーチングを一緒にしたALTとの出会い会話の勉強に目覚めたきっかけは、教職9年目のティーム・ティーチングを一緒にしたALTとの出会いでした。彼女はきれいなイギリス英語を話すとても元気な女性で、年齢が近かったこともあり授業以外でも親しくしてもらいました。彼女が話す表現をメモして、使えそうな場面で使ってみる、そんなことを繰り返しながら一人で授業をするときにも教室で少しずつ英語を使うようになりました。 3.日本文化を英語で表現する試み教員の海外研修で通訳のお仕事をさせていただくことになったときには、日本のことを英語で説明しなければならないので、日本文化を英語で表現するといった種類の書籍を読みあさりました。あのとき一番真剣に集中して英作文練習をしたかもしれません。英字新聞と日本語の新聞の記事を比較して読みながら、これはこんな風に英語で表現すればいいのか、とメモ魔になっていたころでした。 4.海外派遣先での交流次の大きな節目は英語教員の海外派遣でイギリスで勉強する機会を得たことでした。当時はコミュニカティブ・アプローチの全盛期で、教授法を勉強した時期でした。ホームステイ先のご夫婦には、私が間違った英語を話したときには必ず教えてなおしてくださいとお願いし、一緒にテレビを見て、その解説をしてもらったことがとても勉強になりました。あれをすべてメモにしてまとめておけばよかったと、今後悔しています。当時の私たちの指導教授がソニーのICリピーターを高く評価していたので、帰国後早速購入し、テープ付きの教材を手に入れては(当時はまだカセットテープが主流でした)よくディクテーションをしていました。 5.異文化間コミュニケーションの大切さその後健康を害したことで英語への情熱が一時なくなってしまいましたが、最近、短期の英語教員セミナーに参加する機会を得て、世界中から集まった英語教育関係の人たちと一緒に勉強したことは大きな刺激となりました。このとき一番感じたのは3人以上の文化が異なる人々とコミュニケーションをすることのむずかしさです。“自分はこのことについてこういう風に理解していて、こういう意見を持っている”と言えることが大切だと痛感しました。またこの研修で日本のこと、といっても文化というより、天皇制、原爆など政治・経済・歴史を中心とした話題を英語でディスカッションできるようになりたいという思いを持つようになりました。 そんなとき全英連の全国大会でたまたま見つけたのが、時事問題や社会問題を扱ったジャパンタイムズ社から出版されている NEWS DIGEST です。最近のニュースが20本収録されているクオータリーで、CD付きの教材です。それぞれの記事に全訳・注釈・簡単な背景知識・reading comprehension(3問)・listening comprehension(3問)がついています。300語前後の短いニュースなので通勤途中超軽量のデジタル・ミュージック・プレイヤーで気楽に聞いています。まず記事を数回、スクリプトを見ずに聞きます。電車のなかで座れたりして時間がある時にスクリプトを見るとほとんど内容のわかる程度のものですので、集中的に真剣に勉強しようと思う方には物足りないとは思いますが、今はこの時間をとても楽しく感じています。自宅でちょっとした時間があるときに、スクリプトを見ながらシャドウ・リーディングをすることもあります。しばらくさぼっていたのでナレーターと一緒に一気に読み上げるのは大変ですが、続ければ少しは上達するでしょう、というくらいの気持ちでやっています。また英文を見て新聞記事のように日本訳してみたり、反対に日本訳を見て記憶に残っているフレーズや英文を書いてみたりすることも練習になります。 6.これまでの歩みを振り返って私は元来怠け者なので自分で目標をしっかり立ててそれに向かってまっしぐらということは得意ではありません。こんな私が山あり谷ありをどうにか乗り越えてここまでくることができたのは、偶然と必然の組み合わせの中で、節目ごとにいろいろな方々との出会いがあったおかげだと思っています。 外からの力に押されるように、授業や研修、留学などのそれぞれの時期に集中して利用した勉強法があり、それが私の中でなんとなく繋がっているような感じです。この繋がりの中でスパイラルに少しずつでも上昇していれば良いと思いつつ、実はただ二次元を右往左往しているのが現状なのかもしれませんが。 このコラムを書く機会を与えていただいたことで、自分自身の勉強方法を振り返ることができました。これもまた私にとって外から力をいただいた節目の一つであり、もう少し勉強しなさいと背中を押されたように感じています。本当にありがとうございました。 辻本 千鶴子 東京都立三田高等学校教諭。国際教育部で帰国生及び国際理解教育を担当。1988年度文部省教員海外派遣団に通訳として参加。1995年度文部省英語教員長期海外研修(バーミンガム大学)でコミュニカティブ・アプローチを研修。2006年度フルブライトアメリカ研究セミナーに参加。高等学校英語教科書『CROWN English Series』(三省堂)編集委員。日本グローバル教育学会理事。『平成11年高等学校学習指導要領解説―総則編』(文部省)作成協力者。『高等学校学習指導要領の展開―総則編』(明治図書)執筆者。『全英連 高校生の英単語(CD付き)』(東進ブックス)執筆者。 Copyright (C) SANSEIDO publishing co.,ltd. All Rights Reserved. |