このページを閉じる |
1)はじめに私は,2年間の指導主事としての勤務期間をはさみ,これまで25年にわたって中学校の英語教員として勤務してきた。 私が行ってきた自主研修の一端を述べることを通して,皆様の参考になれば幸いである。 2)子どもの頃から子どもの頃から飛行機に関することに興味があり,百科事典や図鑑などを何度も読み返していた。また,私の祖母の妹にあたる人がアメリカのロサンゼルスに住んでいたことも関係していたのか,「外国」や「英語」にとても関心があった。中学校では,他の教科についてはあまり成績が良くなかったが,英語だけは一生懸命に学習していたように思う。 「自分は,子どもの頃から英語が好きで,将来は英語が活かせる仕事につきたい」と思った気持ちを忘れずにいることが,英語担当教員としての資質を向上させると信じている。 3)ALTとの出会いJETプログラムが本格的に始まったのが昭和62年度からである。それまでは,ALTの数が極めて少なく,年間に1,2回の訪問がある程度だった。したがって,私は英語を「話す」ことについては,英語担当教員でありながら,苦手意識を持っていた。また,英語担当教員に「実践的コミュニケーション能力」がそれほど要求されていなかった時代だったと思う。 しかし,昭和62年度以降,私が勤務していた学校では,ALTがほぼ常駐することになった。最初は,英語で話すときに間違いを恐れてばかりいる自分がいた。年度当初にALTに対して学校の概要を説明するとき,“Our school begins at 8:30.”と言う際に,beginsの‘s’を落とさないで言うことに神経を集中させていたのをよく覚えている。このままでは英語担当教員としてはダメだと,危機感をもって自主研修に励みだしたのは,JETプログラム本格実施がきっかけだった。30歳のときだった。 4)ネイティブスピーカーの英語から学ぶ英語担当教員として,「このままではいけない!」と悲壮感にも似た思いにかられ,とにかくネイティブスピーカーが使う英語を「盗んだ」。使えそうなフレーズを覚えておいて,後で可能な限りノートに書き取っておくことを始めた。今でも続けている。ネイティブスピーカーたちとコミュニケーションをする中で気づいたのは,彼らはmake,have,let,get,look,take,goなど,中学校で学習する基礎的な語を多用し,比較的短い文章で話をするということや,必ずしも完全な文ではなく,句などもよく使っているということだ。中でも大切であると気づいたのは,間違いを恐れないで発話することである。さらに,コミュニケーション能力のうち,社会的言語能力,談話能力および方略的能力も重要な力であることに気づいた。 5)自己の英語運用能力を高めるためにa. 「聞くこと」「書くこと」平成9年と10年の2年間,広島県教育委員会事務局に英語教育担当の指導主事として勤務した。文部省(現文部科学省)へ出張で行くときには,宿泊先のホテルでCNNのテレビ番組を必ずカセットテープに1本録音して帰った。今でもそうだが,私が住んでいる地域は,ケーブルテレビなどを利用することができず,CNNを日常的に見ることができなかったのである。そこで,その録音したテープを通勤の車の中でくり返し聞いた。現在は,カセットテープに録音したものをMDにダビングして聞いている。とにかくシャワーのように英語を浴びると,耳が慣れて聞き取る力を保つことができる。また,車を運転中は,エアバンド(航空無線)をよく聞いている。航空機のパイロットと管制官の交信は英語で行われており,趣味も兼ねてエアバンドを聞くのが習慣となっている。子どもの頃からの興味が,こんなところで役に立っているわけである。 また,講演会などに行くと,英語でメモを取るように心がけている。そのまま英語にならない語句がある場合には,ローマ字で書き残しておいて後で調べる。隣に座っている人は,何か不思議そうな顔をして見ている。そのままを翻訳して書くのではなく,要旨を考えながらポイントをまとめてキーワードで書くようにすると,整理して聞き取る力も身につく。後で報告するときにも要点だけを書いているので,日本語に直すのも比較的楽である。 b. 「話すこと」「読むこと」「話すこと」について,英語運用能力を高める最もよい方法は,日常の授業において可能な限り英語を使用して授業を進めることである。オールイングリッシュが理想だとは思うが,状況によって,日本語を使用することも有効である。板書をしていてチョークを落としてしまったときに“Oops!”を使っていると,生徒たちは自然と習得するものである。つい,「はい,教科書の○○ページを開いてください」と言ってしまいがちであるが,“Open your textbooks to page XX.” と言えば,‘open’をreal life situationで使用し,提示することができる。 学校で,複数の英語担当教員がいる場合は,日常会話を英語で行うのもよい方法だ。特に,英語科の授業にかかわる内容は,英語のほうがコミュニケーションをとり易い場合が多い。その際に,場の雰囲気をわきまえて行うことが肝要で,まわりが不愉快な思いをしないような配慮は必要である。 「読むこと」については,一人になった時間を利用して,何でもいいので5分程度音読することである。私は,英語検定の過去問題などをよく利用している。 c. 文法的能力も大切実践的コミュニケーション能力について語るのに,文法軽視の傾向があるが,私は文法的な能力も大切な要素であると思う。私の文法能力のベースになっているもののひとつは,30年前に学習した「受験英語」である。それらに社会的言語能力,談話能力及び方略的能力をつけ加えると,実践的コミュニケーション能力になり得ると信じている。 6)おわりに「僕は,英語の成績はあまり良くありませんでしたが,先生の英語の授業は好きでした」と言って卒業していった生徒がいる。私は,このようなことばを聞くと,「英語担当教員」になってよかったとつくづく思う。子どもたちの実践的コミュニケーション能力を育成することはもちろんのこと,一人でも多くの子どもたちに楽しく英語を学ばせるとともに,意欲的に学習に取り組ませたい。 これまで,未熟な私に研修の機会を与えてくださった皆様に厚く感謝申し上げるとともに,多くの方々との出会いを大切にして,さらに自主研修に励みたい。 ※このコラムの内容は,近刊 『がんばろう! イングリッシュ・ティーチャーズ!』 の掲載内容を編集したものです。 巣守 敏史 (すもり としのり) 広島県安芸高田市立吉田中学校教諭。平成9〜10年,広島県教育委員会事務局勤務。平成10年度に広島県で開催された文部省(現文部科学省)主催の英語教育指導者講座の企画・運営にあたるなど,英語教員の研修に携わる。学校現場に戻ったのちは,日々の授業で,実践的コミュニケーション能力の基礎の育成にあたる一方,教務主任及び総合調整役のKP(Key Person)として,学校運営に積極的に携わっている。 Copyright (C) SANSEIDO publishing co.,ltd. All Rights Reserved. |