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フーンコラム95回(2013年9月号) 後関正明

考えたことや思うことを「英語で表現」させたい

 ある研究会の後,B先生(教師歴8年)とお茶を飲みながらしばらく話し合いました。話題は主に「表現力の育成」について――今回は「英語で表現」できる能力育成に不可欠な活動について,述べたいと思います。

私 : 最近の教科書では単純な英文和訳や和文英訳ではなく,ある場面やその場面での出来事を描写したり,説明したり,また紹介・報告・要約などのための原稿作りといった“言語活動”が目立っています。そこには実際の場面で適切に「英語で表現」できる能力を身につけることが意図されているのです。
B先生: 単なる英文和訳・和文英訳と,場面に関連づけた“言語活動”とでは,どの辺りが違ってくるのでしょうか。
私 : かつては,場面や前後関係などの脈絡をあまり考慮せずに,日本語をそのまま英語に置き換えさせるような指導が多い傾向にあったのではないでしょうか。この方法では日本語の一字一句にとらわれ,さらに場面設定がないので不自然な英語になりがちです。例えば,次のような和文英訳問題です。

 Q:次の日本文を英文になおしなさい。
   1. 私の父は50歳です。
   2. 私は明日,大阪へ行くつもりです。
   3. ジョンは昨日友達と散歩しました。
   4. その公園にはテニスコートが2面あります。

私 : この4つの日本語の文は相互にまったく脈絡がありません。既習文には違いないのですが,生徒にしてみれば場面が定かではないので,いわば“出たとこ勝負”の英作文になりますね。まあ,これはちょっと極端すぎる例ではありますが……。
B先生: そういえば私が中学生のとき,30題ぐらいの日本文を英文になおすプリントをいつも宿題として出されたことを覚えています。今考えてみると,どんな場面での英作文かはまったく頓着なく出題され,ひたすら解いていました。
私 : その方法では先生のような優秀な生徒さんなら何とか努力して作文したでしょうが,英語が苦手な生徒にとっては,なかなかたいくつだったことでしょう。第一,前後の脈絡がないので自分の考えや思いを適切に伝えるような「表現活動」にはなかなか至りません。
B先生: それでは効果的な「表現活動」は,どのようにすればよいのでしょうか。
私 :

そうですね。その前に,誤解のないように申し上げておきたいのですが,今まで述べてきた英文和訳や和文英作の活動そのものは,扱い方次第では基礎・基本を身につけるための練習として活かすことができます。また単語の入れ替えなどしてパターンプラクティス的に練習するならば文構造を身につけることもできます。しかしそれで終わってしまっては真の「表現活動」とはいえません。そこから先をどのように工夫すれば効果的な「表現活動」となるかが問題です。これについては例示してご説明しましょう。

 例をNEW CROWN Book 1 の LESSON 8 “School Life in the USA”からとりましょう。この課の題材はアメリカの中学校の昼食について,言語材料は現在進行形の肯定文,疑問文,否定文です。進行形の文はその後に続くレッスンにもよく使われるので,教科書の本文を中心にGETでは,しっかりと文構造を身につけさせることが必要です。ペアやグループで,疑問文やYes,〜.  No,〜. などの応答文の練習も充分積ませてください。
 その際に,その練習はできるだけ実際の場面を設定するのが望ましいですね。例えば,先生が窓を開閉しながら,“I am opening the window.” / “I am closing the window.”などと言ってみせたり,また窓の外を見ながらであれば,“A bird is flying over there.” / “Some students are playing soccer.” など,未習語を使ってでも情景に合わせて練習を行うのが効果的ですし,場面をインプットしやすいので,後々の「表現活動」の基礎を身につけるのにも役立つと思います。場面や情景をイメージさせて言語活動をさせるという意味では,この場面でのピクチャーディスクリプションは特に効果的でしょう。
 そして教科書のGETの次には,USE Read が続きますが,このコーナーではアメリカの学校の様子がメールで紹介されていて,日本の学校の様子と比較します。言語材料としては,このRead にもふんだんに進行形が使われているので,音読や黙読を取り混ぜてじっくり読み込ませるようにしてください。そして Mini-project では,“Reading 活動”から“Writing 活動”へと移行しつつ本格的な「表現活動」に入るわけです。
 ここでのテーマは「ホームページを作ろう」となっていて,内容は自分の学校を海外の人たちに紹介することになっています。生徒の実態によってはホームページの作成とまでいかなくても,自分の学校の行事(school events)の写真や絵を用い,紹介する相手を決めて,英文で書き表す活動としてもよいと思います。
 そのとき,場面に合わせて@「何を書くか」,A「どのように書くか」を,まずペアまたはグループで話し合いをしながら考えさせると目標がはっきりしてきます。特にAの「どのように書くか」については,1年生には難しい課題ですから,できるだけテキストの写真と一致する動詞を使い,具体的に表現するように指導します。すなわち,合唱コンクールの写真の場合であれば,They are singing very hard.(hardは既習語で「むずかしい」という意味で使われていますがveryをつけて「一生懸命」の表現を教えると単語の意味内容の広がりが学べると思います。)運動会ならば,They are running fast.のように何をしているかを具体的に表すことで何の行事かの説明に結びつけ,They are enjoying the events.といった説明を加え,文章を締めくくるなど,英文を作っていくプロセスをスムーズに理解させられると思います。
 ここでは,たくさん書こうと欲張らずに3〜5文程度で書くように指示してください。そして出来上がったら,やはり先生が一人一人の作品を評価することが大切です。その評価もできるだけ褒めることを心がけてください。たとえ出来が悪くても一つでもよい点を見つけてあげることが,その生徒にとって次の学習につながる励みになるのです。この評価作業は多少時間がかかると思われますが,評価は一時的なものとせず,必ず次の学習活動への橋渡しになるような内容とすることが肝心です。つまり,「点の評価」から「線の評価」へと評価の内容を深めていくわけですね。「英語で表現」させるには,考えたことや思うことを表現したいという気持ちを高めさせることこそがますます重要になってきます。

 以上のように初めから欲張らずに小さいことの積み重ねこそ,やがて学年が進むにつれて自分の考えや思うことを自由に書き表す能力を身につけさせる鍵となります。3年生になると,LESSON 5 “Houses and Lives”のMini-project「日本紹介」では,来日予定の留学生に日本について説明できるように準備しよう,という「表現活動」が求められています。ここにも書き表し方の方法についての指示が細かく説明され,テキストの本文では例として「ゆかた」「ちょうちん」「かき氷」などがあげられていますが,この他にも日本独特の品物をいくつか提示しておいてもよいでしょう。なかには説明が難しい物もありますが,どう言ったら相手に伝わるのか,平易な言葉でいかに説明したらいいのか等,先生のアドバイスを混ぜながら,生徒自ら考えさせることも大切な言語活動になります。
B先生:

例えば,どんなものが例としてあげられますか。

私 :

いろいろあります。「扇子」「うちわ」「こたつ」「畳」「風呂敷」「箸」「浮世絵」「侍」「アニメ」「カラオケ」「下駄」「回転寿司」「天ぷら」……まだまだ沢山ありますね。生徒には伝統的なものから近代的なものまで日本文化の面白さを発見し,紹介するという大きな目標を持たせ,4技能を統合させながらいろいろな方法で「表現活動」に親しませることが大切です。NEW CROWNには各学年にわたって「表現活動」を活発に行うための“仕掛け”が随所にありますから,これをぜひ効果的に使っていただきたいと思っています。

B先生:

よく分かりました。少しずつですが頑張ってみようと思います。ありがとうございました。


後関 正明 (ごせき まさあき) 先生
東京都墨田区立中学校で教諭,校長を長年務める。その後,東京都滝野川女子学園中・高校で教鞭をとる。現在,NPO法人「ILEC言語教育文化研究所」常務理事。2003年より國學院大学で教職課程履修の学生を教えている。

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