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都内A 区のT 先生(教師歴6年)から,電話で次のようなご質問をいただきました。 「私は授業中に自作のワークシートをよく使うのですが,先日ある学校の研究授業を拝見したとき,その先生はワークシートを1時間に4枚使っていました。授業の初め,中間,終了直前,そして最後の1枚は宿題としてそれぞれ分けて生徒に配布し,すぐに解かせていました。 内容は,もちろんその日のレッスンに関連しているものと思っていましたが,授業内容と直接関係ないようなクイズめいたものや,応用問題のつもりで作成したらしいのですが,解答するのに時間がかかりそうな難しい問題も含まれていました。50分の授業の中では授業の要点を再確認するようなワークシートのみにすべきだと考えますが,いかがでしょうか。お伺いいたします。」 このご質問に対して,私は次のようにお答えしました。 T 先生のおっしゃる通り4枚は多すぎると思いますが,まず私の『ワークシート』についての考えを述べてみたいと思います。 (1) ワークシートには,各課または各セクションごとの要点が明示されていること,それに伴う問題が若干与えられていること,そしてその時間に学習した事項の確認を「その時間内」にするための補助のワークシートであることがポイントです。「その時間内に」というところが,言わば私の「ミソ」なのです。これはつまり一単位時間の学習事項は,その時間内で生徒に身に付けさせるという意図を持っているわけであり,そのための補助手段としての役割を果たすのがワークシートです。 (2) ワークシートは,一単位時間内で教科書と密接に連動させることも重要です。通常,授業ではいわゆる4技能を平均的に扱うわけですが,―――4技能については言語材料または題材によって必ずしも平均的に扱う必要はなく,一単位時間内に,例えば「聞く」「話す」を中心に徹底してその技能を身につける場合もあります。これについては後で稿を改めてお話しましょう。 私の実践例では,オーラルワークをかなり徹底して行い,それが定着したと判断したときに教科書を開き,今度は文字を通してオーラルワークを視覚化することでより正確な定着を図ったわけです。その時点で基本文を徹底して覚えこませる手段としてすかさずワークシートを配りました。それもごく簡単なもので,いわゆるパターンプラクティス的な手法のワークシートとして,「置き換え練習」(substitution)を軸に各セクションでバラエティに富んだワークシートの作成を心がけました。 下記ワークシートは,NEW CROWN BOOK 2 の44ページ,不定詞(名詞用法)を例にしたものです。 @ 基本文 I want to travel around the world. をまず暗唱しましょう。 (1)I want to ( ) my grandfather. (2)Eri wants to ( ) a musician. (3)I want to ( ) in the sea. be visit swim ( )組( )番 氏名( ) 実に簡単なワークシートですが,これならほぼ全員ができます。このようにして,この時間では不定詞の名詞用法を着実に身に付けていくことができます。このワークシートは採点して後で生徒に返すのですが,自己採点させた後,ワークシートを使ってペアで「読む」「聞く」活動をさせたり,また「書く」活動に応用させたりすることもできます。さらに基本文を疑問文に転換させたり,それに応答文を加え,ペアで「話す」活動にも発展させたりできます。(ワークシートを回収してしまう場合には,あらかじめ板書しておいた基本文を各自ノートに書かせ、同じような活動をします。)ですから1枚のワークシートだけでも使い方によっていろいろな技能を伸ばし身につけさせることができるのです。 そのレッスンでは不定詞の副詞用法,形容詞用法と学習していきますが,私はそれぞれのセクションのワークシート(単語の並べかえ問題や,手引きの語句がない問題などいろいろと趣向を変えたもの)の練習を終えた後に不定詞全体のワークシートをさせて,易しいものから難しいものへと発展学習を交えた内容に取り組ませるようにしてきました。 ただし私の場合,文法事項整理のためのワークシートはできるだけ避けました。「まとめとしての文法事項だから必要だ」と言う先生もいらっしゃいますが,私はそのことで文法が一人歩きするような気がしたからです。要するに基本文が書けないのに,スラスラと言えないのに,不定詞を文法的に説明しても生徒には何も身に付かないと思うからです。ですから文法についてはそのレッスンが終了してから,まとめとして教科書巻末の「文法のまとめ」を活用し,それで十分と判断しました。 余談ですが,私は不定詞の課を教えたとき,「文法のまとめ」にいくまで「不定詞」という文法用語をまったく使わなかったことを覚えています。またそのとき,生徒たちに次のように話しました。 「今まで習ってきた『to +動詞の原形』は,いろいろな訳し方があるのが分かったと思いますが,実はその形は文法では『不定詞』と呼んでいます。」生徒は「ああ,そうだったのか」と納得してくれました。ある生徒は「先生はやっと不定詞という文法用語を使った」と言っていました。(この生徒は塾などで早々と不定詞という用語を習っていたのですね。) したがって,以上のような実践から,私はワークシートは一単位時間に1枚を原則にしたわけです。参考になりましたでしょうか。ではまた。ご健闘を祈ります。
後関 正明 (ごせき まさあき) 先生
東京都墨田区立中学校で教諭,校長を長年務める。その後,東京都滝野川女子学園中・高校で教鞭をとる。現在,NPO法人「ILEC言語教育文化研究所」常務理事。2003年より國學院大学で教職課程履修の学生を教えている。 ご質問がございましたらニュークラウン指導相談ダイヤル(03-3230-9235 受付時間 月・火・木曜日 10:00 〜 16:00)へどうぞ。 Copyright (C) 2011 SANSEIDO publishing co.,ltd. All Rights Reserved. |