今回は,F市M中M先生からのご質問,「reproductionさせたあと,プラスアルファでcreativeな1文を加えて表現させるための指導」についてお答えしようと思います。
そもそもreproductionとは「複製,複写,模写,再生」のことで,演劇でいえば「再演」の意味にあたります(三省堂
『ウィズダム英和辞典 第2版』)。英語教育でreproductionといえば「再生」のことで,一度理解した一連の内容について,メモやイラスト・写真などの助けをかり,記憶を頼りに自分なりに表現することです。M先生は,この理論を基本に,reproductionを単なる「再生」から発展させ,教科書の本文をもとに,プラスアルファとして,生徒にcreativeな表現をさせたいとおっしゃいました。そのためには,どんな場面でどんな方法をとれば効果的か,とのご質問で,メールのやりとりをしたり,電話で話したりしました。以下はそのあらましです。
私 : |
先生の意図されていることは,どんな場面でどのようにして生徒からcreativeな表現を引き出すか,ということですね。 |
M先生: |
はい,そうです。 |
私 : |
生徒にreproductionさせ,creativeな表現をプラスアルファとして引き出そうとするならば,まず先生が生徒にある種の刺激を与え,その刺激に生徒をうまく反応させることです。 |
M先生: |
刺激とはどういうことですか。 |
私 : |
私は,教室で英語の授業の雰囲気をつくるのは,教師対生徒の刺激と反応のやりとりだと考えています。刺激と反応の往復運動の積み重ねということですね。生徒からの発言を引き出すためには,目標がreproductionであろうと,creativeなプラスアルファの表現であろうと,「はい,これは英語で何と表現しますか」とか,「〜について自由に表現してください」などと,いきなり課題を与えてそれで終わりとするのではなく,刺激として,一文を与えて模倣させたり,それができたら一部の単語やヒントを与えて,全文を言わせたりするなどのサポートが重要になります。その時々で,生徒の反応をよく確かめながら進んだり,戻ったりするわけですね。教師にとっては,生徒の反応が逆に刺激になります。教師が受けるこの刺激は大事にしたいと思います。 |
M先生: |
教師の受ける刺激って何でしょうか。
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私 : |
生徒にまず刺激を与えますね。すると反応が返ってきます。その反応を教師が受ける刺激と考えるわけです。ある生徒のどこが弱点か,生徒の理解の回路のどこが滞っていて,どこから先に進めないのかをとっさに見てとり,教師の次の刺激に活かすわけですね。 |
M先生: |
よく分かりました。では,creativeなプラスアルファの表現をさせるには,どのような刺激を与えたらよいでしょうか。 |
私 : |
creativeなプラスアルファの表現をさせる段階は,授業中の作業としては最終段階だと思います。しかも,結構レベルの高い活動といえますので,いきなりそのような表現をさせることはできません。そこで,普段の授業からreproductionをさせ,かつ,それができているという前提でお話をします。教科書から具体例をあげてご説明いたします。
例えば,NEW CROWN 3 Lesson 8“Sharing with Language”Section
2 (p.71) は,久美がsign languageを学ぶくだりです。久美は,手話言語が単なる手話単語だけで成り立っているのではなく,顔の表情や身振り,すなわち体全体で表すことによってコミュニケーションが成立することを学びます。「うれしい」を表すときは,両手を胸の前で上下させるわけですが,そのときの顔が「うれしさ」を表すようににこやかな表情にならないと,相手に気持ちが伝わらないというわけです。
このように,ここは手話が題材となっているので,手話の単語を先生からの「刺激」として提示し,生徒にcreativeなプラスアルファの表現をさせてみるのも面白いです。例えば,「私」「勉強」「英語」を手話でどのように言うか,生徒に提示します。そうすれば生徒は,それを手だてとして,reproduction後に,手話を交えながら“I
study English.”とcreativeなプラスアルファの文をつけ加えさせることができます。(今はインターネットが発達しているので,「手話辞典」などの用語で検索をかければ,手話を動画で示してくれるサイトも見つかります。それらを参考にしても多くの手話表現を知ることができるでしょう。)さらに興味を覚えた生徒には,“I
learned that facial expressions and gestures are important for communication.”という複雑な表現まで,手話で表現させながら,同時に英語でプラスアルファの文として表現させることもできるでしょう。
このようにして,生徒に「面白い」「ためになる」「もっとやってみよう」という気持ちにさせる刺激を与えることがreproductionに加え,プラスアルファの文を表現させるポイントとなると思います。
なお,これらの過程をふむことで,生徒は,さらに手話も言語の1つであることを実感し,また,Section 3で述べられているような,他の言語への認識もある程度深まると思います。その指導中にM先生ご自身も・・・
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M先生: |
あっ,分かりました。私自身も手話についての認識が深まりますね。 |
私 : |
そうですね。余談になりますが,授業中にcreativeなプラスアルファの表現をさせるには,生徒に刺激を与え,サポートをする必要があると言いました。そのためには,題材について多くのことを知らなければなりません。その過程で,先生自身も,生徒と同様の刺激を多く得て,気づかぬうちに,題材を深く読み込んでいることになるのです。 |
M先生: |
よく分かりました。ありがとうございました。 |
後関 正明 (ごせき まさあき) 先生
東京都墨田区立中学校で教諭,校長を長年務める。その後,東京都滝野川女子学園中・高校で教鞭をとる。現在,NPO法人「ILEC言語教育文化研究所」常務理事。2003年より都内の私立大学で教職課程履修の学生を教えている。
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