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渡邉 時夫 (清泉女学院大学) 1. はじめに夏休みのような長期の休みの後には,子どもたちの英語に対する気持ちは様々でしょう。英語の授業が待ちきれない子どももいれば,英語から遠のいていたので,不安な気持ちで授業に臨む子どもも少なくないと思われます。そこで,まず,@「学期はじめ,子どもたちの不安を取り除き,英語の学習への意欲をさらに高めるための,授業の留意点」について,具体例を挙げながらご提案します。次に,A「英語を使って授業を進めることに次第に慣れてきたHRTがALTとのT-Tを効果的に実施するための工夫」について,種々提案します。 2. 学期はじめの授業(1) Teacher Talk ─休み中のエピソード Greetingの後,前学期に学習した英語の歌のうち,子どもたちに好評だった歌をもう一度歌うことから始めるのもよいでしょう。また,英語にかなり慣れ親しんできているクラスの場合には,例えば次のように,先生が休み中のエピソードを地図やイラストなどを使いながら,英語でユーモラスに話すことも刺激になると思います。 (カレンダーを指しながら)On August 8, Saturday, I went to Shikoku in my car. Do you know why? I had two reasons.(「理由は2つあります」) (地図を使って)My son lives here in Matsuyama city in Shikoku. Do you know the other reason?(「もう1つの理由が分かりますか」) August 8 was Saturday.(子どもたちの中には,「週末の高速道料金が安いから」と発言する者もいるかもしれません) Yes, from Tokyo to Matsuyama city, I paid very little money. Do you know how much money I paid?(「1,000円」などと反応する子どももいるでしょう) Right. From Tokyo to Shikoku, only 1,000 yen.(黒板に「1,000円」と板書) I was very happy. And my son was very happy, too, to see his parents. But I was very tired.(大げさなジェスチャーで疲れを表現) そして,(子どもたちに向かって)Did you travel? Did you go somewhere in your summer holidays? Raise your hand. などと話を続けてもよいでしょう。子どもたちの表情を見て,難しそうに見えたら,日本語を多少入れて説明してもよいと思いますが,大切なことは,視覚教材を援用したり,表現や表情・ジェスチャーなどを工夫したりし,子どもたちに分かる英語を使うように努めることです。この部分はあくまでも導入ですから,あまり時間をかけ過ぎないことが大切です。 (2) Listen and Act 子どもたちには「英語を話す」ことを強要せず,「聞いて動作で反応する」多様なアクティビティーを考えます。具体例を挙げましょう。 まず,単語を想起させる活動を考えます。本稿では《野菜・果物》を取り上げますが,《教室にあるもの》《動物》《スポーツ》など,どんな分野でも結構です。 <Activity 1> Please look at the pictures. I say a word. Please touch the picture. Are you ready? Banana, carrot, watermelon, ... 英語を聞いて,子どもたちは単語を思い出しながら,次々と該当するイラストに触れます。先生の話す速度を速めていくと,ゲーム性は高まります。 <Activity 2> (さらにリスニング活動を重ねるために) This time, I say a word and you’ll tell me the number. Are you ready? Tomato, orange, cabbage, ... 子どもたちは,Seven, one, eleven, ... などと反応します。きっと数字を言うことには抵抗がないでしょう。速度を速めると,子どもたちは喜び,集中します。 <Activity 3> Now, I say a number and you’ll say the English word. Are your ready? Four, nine, two, ... 子どもたちは,与えられた単語の音声に十分親しみます。子どもたちは,Onion, peach, cucumber, ... などと反応します。速度を速めたり,時には意図的に Thirteen. などと,与えられていない番号を言ったりするのも刺激になり,motivationを高めるのに役立ちます。 <Activity 4> 「Do you have 〜? ―カード集めゲーム」 [準備] [手順] [留意点] 上記のように,子どもたちの反応がListen ⇒ Give a physical response ⇒ Give a short oral response ⇒ Give a longer oral response という順序になるように工夫して授業を進めるよう心がけましょう。 3. ALTとのT-Tを効果的に行う工夫 (※第8回の提案を是非ご覧ください。)学習指導要領の目標に沿って,「外国語活動」の授業を進めるために,ALTとの効果的なT-Tのあり方について,要点をいくつか考えてみましょう。 ≪要点1≫ 授業のcontrollerとしての役割について HRTは,自分が主役であることを認識しておきましょう。具体的には,次の事項を主体的に実行します。 @ 年間カリキュラムに沿って,毎時間のTeaching planを立て,事前にALTに知らせます。 例えば,虹の写真またはイラストを用意し,HRTとALTとのskitのシナリオを事前に用意し,練習して本番に備えましょう。 HRT: Hi, Brian,(虹の写真を指して)what do you call this in English? ※ここで,国によって虹の色の数がなぜ同じでないのか,日本語で問いかけ,考えさせます。アフリカのある民族は,darkとlight の2色しか区別しないことなども追加して日本語で説明するとよいでしょう。 このようなskitの英文については,まずALTに案の作成をお願いし,そして,HRTが子どもたちに理解可能かどうかチェックします。その他,ジェスチャーや小道具の必要性などについて,両者でしっかり相談することがT-Tを効果的に行う上で大変大切です。 このような意図と意義をお互いに理解しあうことに慣れれば,ALTも勝手が分かり,協力するのはもちろんのこと,ALTとしての力量も向上すると思われます。 なお,授業中の「立ち位置」も大切です。授業のはじめと最後はもちろんのこと,HRTの主体性を発揮すべき時には,できるだけ中心となる位置にいるようにしましょう。 ≪要点2≫ 英語を使ってコミュニケーション力を高めようとする意欲を持つこと この点については3つに分けてお話しいたします。 (1) 事前に対話のシナリオを入手してspeakingの練習をしておきましょう。《要点1》で紹介しましたskitなどがよい例だと思います。HRTがALTと楽しそうに英語でコミュニケーションしている姿こそ,子どもたちにとって「学びの目標」です。単なる一般的な英語のやり取りだけでなく,文化やことばの不思議さや意外さを明確にしてくれる内容ですと,さらに刺激になると思われます。 (2) HRTと生徒,HRTとALTとのコミュニケーションには,できるだけClassroom Englishを使うように心がけましょう。色々な場面が考えられます。 @ 生徒への指示。(例) Class, let’s sing an English song. Do
you remember Seven Steps? First listen to the CD. Are you ready?(何回か歌った後)Well,
this time, let’s sing the song backwards. Like this. Seven, six, five,
four, three, two, one, ... ※お盆の説明の仕方については,事前に子どもたちと相談しておきます。英語で説明しにくいところは,写真(お盆の様子など)や小道具(線香,蝋燭など)を用意しておきます。 HRT やALTが使う英語は,上記のように,できるだけ短い英文を心がけましょう。 (3) 自分の英語のBrush upに努めましょう。 上記の(1)と(2)をできるだけ実践すると,HRTはかなりの量の英語を使うことになります。子どもたちにとっては貴重なinputを浴びることになり,ALTの話す英語とあいまって,「素地」の育成に大きな力となるでしょう。 ここで,HRTの英語の質に注目してみましょう。英語活動を指導される多くの先生は,英語の専門家ではありませんので,英語の質についてあまり多くを求めることは望ましいことではありません。私は,1点だけHRTにお願いしたいことがあります。それは,英語のリズムをできるだけ身につけてほしいということです。 @ 英語は,強弱(stressまたはaccent)の言語であり,日本語は,高低(pitch)の言語です。日本語では,「橋(はし)」と「箸(はし)」の違いは,音の高低の差で識別しています。また,「歯(は)が黄色い」と「葉(は)が黄色い」を発話してみると,音の高低が重要な働きをしていることが分かります。英語の場合は,white house(houseを強く読むと「白い家」という意味)とWhite House(Whiteを強く読むと「大統領官邸」という意味)では意味が異なるように,強弱が大切な言語です。普通は,名詞,動詞,形容詞,副詞などが強く発音され,代名詞,冠詞,前置詞,接続詞などは弱く発音されます。 次のa〜cの文を発音してみましょう。(太字の単語を強く) a. You will know the beauty.
(その美しさを知る) A 英語は stress-timed rhythm, 日本語はsyllable-timed rhythmと言われています。英語のリズムの特徴は,stressとstressの間はほぼ同じ時間で発話する,ということです。日本語は,シラブルの数が多ければ多いほど時間をかけて発話します。 次のa〜dの4つの英文をほぼ同じ時間内で発音できるよう練習してみましょう。
英語の正しいリズムを身につけると,Classroom English や子どもたちへの英語の指示も,発話することが楽しくなります。また,チャンツの指導もうまくいくと思います。 4.ALTへのアドバイスについてALTには,子どもたちに分かる英語を使えるように,日頃からアドバイスしておくことが必要です。実は,ALTがこのような英語を使えるか否かで,子どもたちの意欲や授業中の雰囲気が変わります。 ここではスペースがありませんので,第8回に詳しく記述してあります MERRIER Approach を,ぜひALTに紹介してください。分かりやすい英語を話すコツが理解できると思います。 5.おわりに英語を使うことに慣れてきたり,自信が出てきた先生方が,さらにご自分の英語をブラッシュアップし,ALTとのチームワークを一層スムーズにすることによって,より質の高いinputを子どもたちに与え続けることができると思います。 次回は,教育現場における様々な研修のあり方や工夫,課題などについて,現場の先生方のご意見をご紹介します。 Copyright (C) SANSEIDO publishing co.,ltd. All Rights Reserved. |